1941年/アメリカ/監督:オーソン・ウェルズ/出演:オーソン・ウェルズ、ジョゼフ・コットン、ドロシー・カミンゴア、エヴェレット・スローン、レイ・コリンズ、ジョージ・クールリス、アグネス・ムーアヘッド/第14回アカデミー脚本賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
第14回アカデミー賞9部門(作品、監督、主演男優、脚本、撮影、ドラマ音楽、編集、録音、室内装置)にノミネートされておきながら、諸事情により(後述)脚本賞のみの受賞にとどまった悲劇的名画。
ちなみにこの年のアカデミー最優秀作品賞受賞作はジョン・フォード監督の【わが谷は緑なりき】。
1941年/アメリカ/監督:ジョン・フォード/出演:ウォルター・ピジョン、モーリン・オハラ、ドナルド・クリスプ、ロディ・マクドウォール/第14回アカデミー作品・監督・助演男優・美術・撮影賞受賞注※このサイトは映画のネタバレし[…]
まあ【わが谷は緑なりき】よりは絶対マシだけど、実際問題この映画もそないおもろいわけではない。
じゃあどうしてこれほどの長きに渡って【市民ケーン】は「ハリウッド史上最高の名画」の座に君臨し続けるのか?つまらないのに(おーい)なぜ名作なのか?
私なりに考えてみました。
映画【市民ケーン】のあらすじザックリ
「ばらのつぼみ」と言い残して死んだ新聞王
臨終の床で「ばらのつぼみ」という謎の言葉を残してこの世を去った新聞王チャールズ・フォスター・ケーン(オーソン・ウェルズ)。
冒頭に流れるのは彼の人生を振り返るニュース映画。
民宿をやっていた母親が宿泊客から宿代のかわりに受け取った金鉱の権利書のお陰で、ケーンはアメリカで6番目の大金持ちとなります。
ケーンは新聞社経営に興味を持ち、手始めにインクワイラー社の経営者となったかと思えば、みるみる会社を大きくして、あっという間に“新聞王”と呼ばれるまでに。
大統領の姪エミリー(ルース・ウォリック)と結婚し、いよいよ政界にも進出か、と思われた矢先、若い歌手スーザン(ドロシー・カミンゴア)との不倫スキャンダルが発覚。
妻と離婚後、若く美しいスーザンと再婚して、新しい妻のためにオペラ劇場と大邸宅を建設します。
しかしケーンは旧友リーランド(ジョゼフ・コットン)との衝突や根深いスキャンダルの痛手から、かつての勢いも影響力も失っていき、やがてスーザンすらもケーンのもとを去ってしまいます。
そしてケーンは未完成の巨大な大邸宅で、たった独りで息を引き取ったのでした。
以上がニュース映画の内容。
しかし超有名な新聞王の半生を振り返ったこれらの事実はすでに誰もが知っていること。
大事なのはケーン氏が「何をしたか」でなく「何者であったか」や!大体これだけでは最後の言葉「ばらのつぼみ」の意味もさっぱり分からへんやないか!
ケーンの私生活を知る人物に聞き込みをして、「ばらのつぼみ」の秘密を探るんや!
ケーンの人となりに迫るドキュメンタリー映画を撮りたい記者は、こうしてケーンに縁のある人物を一人ひとり訪ねて行くことになるのでした。
モデルは実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト
ケーンのモデルは実在します。映画同様“新聞王”と呼ばれたウィリアム・ランドルフ・ハーストがその人。
【ゴッドファーザー】に出て来るビバリーヒルズの豪邸「ビバリーハウス」に住んでいたことでも有名。
1972年/アメリカ/監督:フランシス・フォード・コッポラ/出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュバル、ジョン・カザール、タリア・シャイア、ダイアン・キートン、リチャード・カステラーノ、モーガナ[…]
【市民ケーン】はまだハーストの存命中(78歳くらい?)に上映予定だったもんだから、映画の製作を知ったハーストは怒り狂って上映妨害運動に乗り出します。
そしてこのハーストの妨害運動のお陰で【市民ケーン】はアカデミー賞で不遇な扱いを受けたとされています。
しかしこれについて昔から不思議に思ってたんですけど、ご丁寧に自分の伝記映画を作ってもらえたと言うのに、どうしてハーストは怒ったんですかね?
自分のことしか愛せないエゴイストみたいに描かれたから?
スキャンダルについて面白おかしく描かれたから?
最後にはただ親の愛を求める精神年齢の低い老人のように描かれたから?
でも製作段階ではまだ内容は知らなかっただろうにね(公開前から怒ってる)?
圧力かけて脚本でも手に入れたのかもね。
そんで読んでみたら私的な部分も含めて余りにも自分の人生そのまんまだったから頭に来たのか、逆に脚色が濃すぎて自分自身とは程遠い仕上がりになっていたことが許せなかったのか…。
それにしても怒り狂って妨害運動までする理由が分からん。
私だったら自分の伝記映画作ってもらえるなんて光栄至極でございますけど?
名作【市民ケーン】はなぜつまらないのか
妨害行為があったアカデミー賞では惨憺 たる結果だったとはいえ、その後何年にも渡って映画協会(英国・アメリカ)やキネマ旬報などの「名画ランキング」の上位には必ずランクインし続けるほど評価が高い作品です。
でも実際観てみると大半の人は拍子抜けると思います。
そないおもろない。
何やったらつまらん。
「史上最高の映画」?
て、なったよね?
そんなワケでこの記事の本題、「名画と名高い【市民ケーン】がつまらないのはどうしてか」、について考えてみたいと思います。
逆に「【市民ケーン】が面白くてたまらない!」って人は、これ以降何を書いてるのか意味が分からない…と言うか、読む必要がないと思いますので、離脱することをおすすめします。
代わりに【市民ケーン】が1位に輝いているこんなランキング記事をご覧になってはいかがでしょうか?
おはこんばんちは、朱縫shuhouです。 アメリカの映画団体AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が1998年から(ほぼ)1年毎に発表し始めた「アメリカ映画100年シリーズ」。ライン[…]
「画期的な撮影技術/手法」ではなくなってしまった
今観ると【市民ケーン】がつまらなく感じられる理由の一つに、「抗えない時代の流れ」があると思います。
【市民ケーン】が高く評価されるもっとも有名なファクターとして撮影技術が挙げられるんですけども、まずはそこについて。
パンフォーカス
“パンフォーカス”って知ってますか?
被写界深度を深くすることで画面全体のピントが合ったような撮影技法を指す。「パンフォーカス」は和製英語で、英語では「ディープフォーカス」と呼んでいる。
出典:現代映画用語辞典
て言われてもピンと来ないですよね、ピントだけに。
例えば【ローマの休日】のこの場面。
背景がぼやけてるでしょ?
これがこれまでの映画で主流だった“パンフォーカスじゃない映像”。現実の視界に近い状態。
もうひとつ例。【フィラデルフィア物語】から。
これ分かりやすいですね。ナイスチョイス。
キャサリン・ヘプバーンとケーリー・グラントが「近景」、ジェームズ・ステュアートとルース・ハッセイが「中景」、そのさらに後ろが「遠景」で、この場合は「近景」にピントが合っていて、「中景」と「遠景」はぼやけています。
1953年/アメリカ/監督:ウィリアム・ワイラー/出演:グレゴリー・ペック、オードリー・ヘプバーン、エディ・アルバート、ハーコート・ウィリアムズ、マーガレット・ローリングス/第26回アカデミー主演女優・原案・衣裳デザイン賞受賞[…]
1940年/アメリカ/監督:ジョージ・キューカー/出演:ケーリー・グラント、キャサリン・ヘプバーン、ジェームズ・ステュアート、ルース・ハッセイ、ジョン・ハワード、ヴァージニア・ウェイダー/第13回アカデミー主演男優・脚色賞受賞[…]
一方【市民ケーン】の映像はこう。
手前の人物も遠くにいる人物もその向こうの窓も、すべてにピントが合っているでしょう?
これが“パンフォーカス”。
ローアングルと長回し
【市民ケーン】ではこのパンフォーカスや、床に穴を開けてカメラを設置するほどにこだわったローアングル撮影、長回し撮影など、当時は画期的だった技術を駆使して撮られています。
画面の1/3を天井が占める(!)この場面はこんな風に撮影されています。
しかもこの映画を撮った当時、監督・脚本・主演のオーソン・ウェルズは25歳。
それらを鑑みると【市民ケーン】がどれほどファンタスティックな映画であるか理解できないでもないですが、現代っ子が何も考えずに【市民ケーン】を観たところで、何がすごいのかなんて分からなくて当然。
だって【市民ケーン】があったお陰で、現代の映画においてはこれらの技術は当たり前なんですもん。
「後世当たり前になる技術」を「最初に駆使した」から評価が高いんですね。
要するにコロンブスの卵的映画ですよ。
ちょっとちゃうか?
ちなみに私は、ケーンと最初の妻エミリー(ルース・ウォリック)の、ラブラブの新婚時代からグッダグダの熟年夫婦時代までを瞬く間に映し出した描写が好きです。
毎朝同じ食卓に腰掛けてるはずなのに、年月を経るごとに明らかに距離感が違ってくるという結婚生活の不思議は万国共通。
来る日も来る日もジグソーパズルを作っている二番目の妻スーザン(ドロシー・カミンゴア)をひたすら写し出すことで時間の経過を表現している場面も、地味だけど分かりやすくて好き。
「斬新な展開」ではなくなってしまった
現代っ子に「つまらない」と思われるもう一つの理由に、「みんなが真似した結果オリジナルの手法が陳腐に見えてしまう」ことが挙げられるんじゃないでしょうか。
【市民ケーン】では冒頭で主人公のケーンが死に、まったく彼を知らない「第三者(=記者)」が、生前の彼と近しかった5人の「証人(=後見人、親友2人、元妻、執事)」たちの元を訪れ、回想をつなぎ合わせることで生前のケーンの人生を浮かび上がらせています。
そこへ「ばらのつぼみ」という謎のキーワードもぶっこんで、視聴者にまるで謎解きのようなスリリングな気分を味わわせてくれる。
この手法も当時はさぞかし画期的だったんだろうと思いますけどね。
【市民ケーン】をお手本に、回想から物語の核心を得たり時系列を複雑に入り組ませたりした映画がその後量産されました。
結果このような手法の映画を観慣れてしまった現代っ子がいざ【市民ケーン】を観てみると、
??
どこが面白いのこの映画?
ってなりますよねそりゃ。
一方で、同じ1940年頃の映画でも【風と共に去りぬ】や【カサブランカ】などは老若男女問わず面白いと感じる人が多いと思います。
1939年/アメリカ/監督:ヴィクター・フレミング/出演:ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲーブル、レスリー・ハワード、オリヴィア・デ・ハヴィランド、トーマス・ミッチェル、ハティ・マクダニエル/第12回アカデミー作品・監督・主演女優・[…]
1942年/アメリカ/監督:マイケル・カーティス/出演:ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン、ポール・ヘンリード、クロード・レインズ、コンラート・ファイト/第16回アカデミー作品・監督・脚色賞受賞注※このサイトは映[…]
【市民ケーン】が今挙げた2つの例のように登場人物の心理描写やドラマティックなストーリー展開に重きを置いた映画でないことも「今では」つまらなく感じられる要因なのではないでしょうか。
【市民ケーン】の“売り”であった「画期的な撮影技術」という専売特許をはぎ取られてしまうと、押しなべて「(ただの)伝記映画」というのは少々つまらないものが多いのも事実。
【巨星ジーグフェルド】とか【チップス先生さようなら】とかね。
1936年/アメリカ/監督:ロバート・Z・レナード/出演:ウィリアム・パウエル、マーナ・ロイ、ルイーゼ・ライナー、フランク・モーガン、ファニー・ブライス/第9回アカデミー作品・主演女優・ダンス監督賞受賞注※このサイトは映画の[…]
1939年/イギリス、アメリカ/監督:サム・ウッド/出演:ロバート・ドーナット、グリア・ガースン、テリー・キルバーン、ジョン・ミルズ、ポール・ヘンリード、ジュディス・ファース、リン・ハーディング、ミルトン・ロズマー/第12回アカデミ[…]
だから結論。
現代っ子が【市民ケーン】をつまらないと思ってしまうのは仕方のないことなんですよ。
映画【市民ケーン】の感想一言
最初に新しいことに試みて、後世へ多大な影響を与えた点に於いての名画ということですね。
通称「コロンブスの卵映画」でいいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。