1995年/アメリカ/監督:ショーン・ペン/出演:ジャック・ニコルソン、デヴィッド・モース、ロビン・ライト、アンジェリカ・ヒューストン、リチャード・ブラッドフォード、パイパー・ローリー、ロビー・ロバートソン、レオ・ペン
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
ダメな系統の映画です。
「ダメ」というのは「面白くないからダメ」なんじゃなくて、「涙腺崩壊してしまってダメ」ってことね。
子供は死ぬ(すでに死んでる)し、子を亡くした親の悲しみは計り知れないし、ええ奴が苦しむ姿は見たくない。登場人物みんなの心情が伝わってきて呼吸困難になってくる。
俳優のショーン・ペンがメガホンを取った泣ける映画、【クロッシング・ガード】です。
映画【クロッシング・ガード】のあらすじザックリ
事故の加害者ジョン・ブース
6年前、酒酔い運転の車の前に飛び出した少女が轢かれて命を落とすという痛ましい交通事故が起こりました。
この事故の「加害者」と「被害者の父親」が、【クロッシング・ガード】の主になる2人です。
加害者になってしまったジョン・ブース(デヴィッド・モース)は刑期を終えて出所してきます。
父親(リチャード・ブラッドフォード)も母親(パイパー・ローリー)も友人らもジョンを暖かく迎えてくれますが、過失とは言えまだたったの7歳だった少女エミリーを殺してしまったジョンが醸し出すのは世捨て人のような何となく湿った雰囲気。
ジョンは作中一度たりとも心の底からの笑顔を見せてくれません。
「俺みたいなもんが」って思うの?
またコイツがもうめっちゃええ奴でねえ?
何を考えているんだろうって思うんですよ、ジョンが一体。
別にジョンに限らなくても、7歳の少女を誤って轢き殺してしまった人ってどんな精神状態になるの?
【クロッシング・ガード】を観る限り、私が彼から感じ取ることができる心情は、「俺みたいなもんが」に尽きます。
終始「俺みたいなもんが生きて、俺みたいなもんが(親や友人らに)愛されて、俺みたいなもんがこのまま幸せになってええのか」と自問自答しているように見えるんです。
苦しいわな。
交通事故ってついつい被害者のことばかり考えてしまいがちだけど、「過失致死」の「加害者」って、「被害者」と同じくらい苦しいわな。
事故の被害者の父親フレディ・ゲイル
もう一人の主人公は「被害者」エミリーの父親フレディ・ゲイル(ジャック・ニコルソン)。
エミリーの葬式にも参列せず、残された妻メアリー(アンジェリカ・ヒューストン)と2人の息子のことも顧みず、フレディはエミリーを失ってからというもの酒と享楽に溺れる自堕落な生活を送っています。
「父親」と「母親」の違い
ある日離婚したメアリーの元を訪れたフレディは、ご機嫌な様子でメアリーにこう言います。
ええことあってん!
めっちゃええことやで!
聞いてくれるか?
聞きたい?
聞きたい?
普通なら宝くじでも当たったのかと思うでしょ?
もちろん彼の「ええこと」はそんなことじゃありません。
“あいつ ”が出所したんや!
俺ちょっと殺しに行ってくるわ!
これにはメアリーの表情も一瞬にして凍り付く。
そしてフレディに向って一言「出て行って」と。
でもね。
でもですよ。
奇しくも監督のショーン・ペンが凶悪殺人事件の加害者を演じ、【クロッシング・ガード】と同年の1995年に公開された【デッドマン・ウォーキング】という映画がありましてですね。
1995年/アメリカ/監督:ティム・ロビンス/出演:ショーン・ペン、スーザン・サランドン、ロバート・プロスキー、レイモンド・J・バリー、R・リー・アーメイ/第68回アカデミー主演女優賞受賞注※このサイトは映画のネタバレしよう[…]
この2つの映画は「被害者」と「加害者」のスタンドポイントをクローズアップしているという点で似通っていて、【デッドマン・ウォーキング】の記事にも書きましたが、「子供を殺された親」の立場で考えた時に「殺した相手」を殺してやりたいと思うのはごく普通のことだと思うんですよね。
そりゃフレディみたいに「この世の地獄見せたらあ!」ってなるよ。
なるでしょ?
絶対殺してやりたくもなるんだけど、実際手を下すかどうかはとりあえず置いておいて、それはそれで分かるんだけど、でもじゃあ、子供を殺されてからの人生の最終目標を「加害者を殺すこと」に据えたとしましょう。
「加害者を殺すこと」以外はまったく手に付かないとしましょう。
じゃあ誰が死んだエミリーの墓を建てて供養してやるの?
じゃあ誰が残された2人の子供を育てるの?
そして仮に本懐を遂げたとしましょう。
よっしゃ!
ジョン殺したったあ~!!
「娘の仇をとった!」って本人は有頂天かも知れないけれど、法的には立派な「殺人犯」になってしまった父親を、エミリーの兄弟たちはどう受け止めたらいいって言うのよ。「殺人犯の息子たち」と蔑まれて彼らの人生まで狂ってしまうじゃない。
一方でメアリーは、エミリーの死後すっかり変わってしまったフレディを捨てて、たった独りでエミリーの墓を建て、残された2人の息子を育てています(今は再婚して幸せそう)。
生物学の話をしているつもりはないんですけど、一口に「親」と言っても「父親」と「母親」でこうも違うものかと妙に納得してしまうところではありますよ。
エミリーの墓石の色は何色だった?
とどのつまりは加害者を殺したところで一体誰が幸せになるんじゃってことが描かれている映画です。
もしフレディがジョンを殺すことができたとしても、今度はジョンの両親がフレディを殺しに来るかも知れない。そんなことみんなが本気で始めたら加害者被害者双方の親類縁者根絶やしにするまで終わらないじゃん。
そしてこれも【デッドマン・ウォーキング】の記事に書きましたが、一番大事なのは「加害者」を殺しても「被害者」は喜ばないってこと。
葬式はもちろん、エミリーの墓参りにさえ来たことがなかったフレディを、逃げると見せかけて墓へおびき出す(?)ジョンを観た時、彼は天才だと思いましたね。
娘の前で父親が罪に手を染めるなんて絶対できないことでしょうよ。
それより祈ってあげてよ、そのかわいいピンク色の墓石にさあ。
映画【クロッシング・ガード】の感想一言
元夫婦を演じているジャック・ニコルソンとアンジェリカ・ヒューストンは入籍こそしていませんが長年(17年!)のパートナーとして周知されたハリウッドのビッグ・カップルでした。
2人が決定的に別れたとされるのは1989年頃で、【クロッシング・ガード】で共演した時にはそれぞれ別のパートナーがいたんです。
それを踏まえて観ると、深夜のカフェでジャックとアンジェリカが昔話をする場面がキャラクターを超えてますます感慨深いものになりますよ。
※私はジャック・ニコルソンの熱烈ファンです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。