1958年/アメリカ/監督:オーソン・ウェルズ/出演:チャールトン・ヘストン、ジャネット・リー、オーソン・ウェルズ、マレーネ・ディートリヒ、ジョゼフ・キャレイア、エイキム・タミロフ、ジョアンナ・ムーア
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
1957年、オーソン・ウェルズは「黒い罠」の撮影を終え、初版の編集を行った。
映画化にあたってはスタジオ側の要請により追加シーンの撮影・再編集が行われた。これに対しウェルズは58ページにわたる文書で編集をし直すよう強く訴えた。
このバージョンはウェルズの要望を極力取り入れ、彼の意図を反映するよう完成されたものである。
出典:【黒い罠】冒頭字幕
上の文章、一体なんだと思います?
オーソン・ウェルズ監督・主演によるフィルム・ノワールの傑作、【黒い罠】の冒頭に流れる字幕です。
こんな穏やかでない文章が冒頭に流れる映画って、おかしいでしょ?この映画観るとね、私なんとなく腹が立ってくるんですよ。
誰にって、天才オーソン・ウェルズを冷たく締め出したハリウッドに対してですわ。
参考 フィルム・ノワール=1940~1950年代末にかけてアメリカで製作された、堕落して歪んだ人物を描いた陰鬱で退廃的な映画群。主に犯罪映画や探偵映画を指す。
映画【黒い罠】のあらすじザックリ
「呪われた天才」オーソン・ウェルズ
映画監督・脚本家・俳優のオーソン・ウェルズ氏をご存知ですか?
彼をご存知なくても彼の処女作【市民ケーン】という映画のタイトルは聞いたことがあるのではないでしょうか。
1941年/アメリカ/監督:オーソン・ウェルズ/出演:オーソン・ウェルズ、ジョゼフ・コットン、ドロシー・カミンゴア、エヴェレット・スローン、レイ・コリンズ、ジョージ・クールリス、アグネス・ムーアヘッド/第14回アカデミー脚本賞受賞[…]
現在も「名作映画ランキング」などの上位には必ずランキングされる名画です。またウェルズ自身も、巨匠マーティン・スコセッシをして「彼ほど多くの人間に映画監督になりたいという志を抱かせた人物はいない」と言わしめたほどの傑物。
しかしそんなウェルズのことを語る時、その名の前には必ず「呪われた天才」という不面目な通称が枕詞 の様に置かれます。誰が思いついたんだか知りませんけど、この「呪われた天才」という枕詞はつくづく言い得て妙だと思います。
ウェルズがなぜ後世の人間に「呪われた天才」と呼ばれたかというと、作る映画作る映画興行的に大コケしてばかりだったから。
映画史に残る優れた映画を何本も(一発屋じゃない)撮っているのに、ハリウッドは彼の才能を認めようとはしませんでした。
そもそもどうしてウェルズがこれほどハリウッドからのけ者にされてきたのか、色々調べてみたんですけど、直接の原因はよく分からないんですよね。処女作【市民ケーン】で実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしたためハースト本人から激しいネガティブ・キャンペーンを繰り広げられたことは有名ですが、その後もずっと“呪われ”続けていた理由が分からない。
ハリウッドを干された監督や俳優はこれまでにもたくさんいました。でも他の人達が干された原因は明らか。
例えばチャーリー・シーンは女性関係や度重なる薬物・暴行事件、メル・ギブソンはDVや差別発言、ロマン・ポランスキーとウディ・アレンは性的虐待疑惑、てな具合。
ところがウェルズには、彼が犯罪行為に手を染めたとか、誰かの怒りを買ったとか、干されるきっかけとなる明らかな事件がないんです。
でもこれほど映画監督としても脚本家としても俳優としても優れた人物がハリウッドを追いやられ、晩年は海外を拠点に映画を撮るしかなかっただなんて、何か大きな裏の力が働いていたとしか思えません。
なんや!?
羨ましかったんか!
ウェルズの天賦の才が羨ましいからのけ者か!
ね?
なんかハリウッドが嫌いになってくるでしょ?
言い得て妙だと思いませんか?
ウェルズの映画にみる明暗と角度の使い方
【黒い罠】は冒頭の長回し映像が有名な映画です。
その時間なんと3分11秒!!(←計った)
3分11秒ノンストップですよ3分11秒ノンストップ!CGもドローンもない時代に!3分11秒ノンストップ!
ホントにすごいんですよこれ。クレーンかなんかでキャメラ吊ってるのかな?オリンピック級の短距離選手がキャメラ持って並走してんのかな?
…て力説したところで長回しについては観てもらわないことには伝わらないと思うんでこれくらいにしておきます。
あとウェルズといえば明暗と角度のつけ方ですよね。
マフィアの親分ジョー・グランディ(エイキム・タミロフ)をウェルズ自身が襲うシーンでは、恐怖におののく親分の表情を国境を監視するサーチライトでビカビカと照らし出し、反対に窓を背にするウェルズは完全に影になって表情を読み取ることができません。
お得意のローアングルもハイアングルもみられるし、斜めの構図もお手の物。
どうしてこんなの思いつくの?
やっぱりウェルズの撮り方好き。
てかウェルズ好き。
悪徳警官ハンク・クインラン
オーソン・ウェルズ扮するハンク・クインランはアメリカとメキシコの国境地帯を管轄するやり手の老警部。
ある晩、街の有力者を乗せて国境を超えた車が突如爆発炎上。現場に居合わせた新婚旅行中のメキシコ人麻薬捜査官バーガス(チャールトン・ヘストン)は新妻のスーザン(ジャネット・リー)をモーテルに残し、“アメリカ側”の担当警察クインランらと共に捜査に乗り出します。
黒いんですよこの映画がまた、邦題【黒い 罠】の通り。
次々に事件を解決するやり手の警部だと思われていたクインランが、実は自分に都合の良い証拠を捏造して無実の容疑者を逮捕し続けてきた悪徳警官だったって事実も「黒い」んですけど、まずもって映像が「黒い」。
ウェルズのモノクロ映画って他に比べて「黒」が「濃い」んです。
彼が多用するパンフォーカスの影響もあるのでしょうが、人物や建物、映し出されるすべてのものの輪郭がくっきりしていて、黒がより黒く、白がより白く見えます。
参考 パンフォーカス=写真または映画の撮影において、被写界深度を深くする事によって、近くのものから遠くのものまでピントが合っているように見せる方法、またはその方法により撮影された写真・映画のこと。
そして実際カラーで観ると子ブタのように淡いピンクであろうクインラン警部は「黒く」、メキシコ人っぽく見せるため顔にドーラン塗ってる正義の味方チャールトン・ヘストンは「白く」心に映る不思議よ。
あ。
結局撮影技術うんぬんの話に戻ってしまった。
映画【黒い罠】の感想一言
ラストで強烈な印象を残す酒場の女店主ターニャ(マレーネ・ディートリヒ)とクインランの過去に何があったのかがいつまでも気にかかる映画(いつまでもって)。
クインランの妻は殺されてるはずだから、彼女とはそのあと愛人関係にあったのかしら、とか、意外とターニャの方がクインランに熱を上げてたのかしら、とか、想像は尽きません。
好きなセリフはクインラン警部の「ピート、なんでそんなの付けてる?天使の輪っかだよ」。
メルヘンな単語とは裏腹に、このセリフを聞いている時のあなたの心臓は恐らくバックバクのはず。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。