1922年/ドイツ/監督:F・W・ムルナウ/出演:マックス・シュレック、グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム、グレタ・シュレーダー、アレクサンダー・グラナック、ゲオルク・H・シュネル、ヨハン・ゴットウト
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
ドイツ表現主義が生んだ怪奇映画の傑作。
参考 ドイツ表現主義(表現主義)=一般的に20世紀初頭にドイツで起こった芸術運動。内面的、感情的、精神的なものなど「目に見えない」ものを主観的に強調する様式。
ドイツ表現主義に関しては最も代表的な映画【カリガリ博士】の記事に詳しく書くとして、本記事では“ヴァンパイア”、“ドラキュラ”、“ノスフェラトゥ”の違いや、本編に出てくるクソおっそろしい吸血鬼について取り上げたいと思います。
1979年にはドイツ人映画監督ヴェルナー・ヘルツォークによって【ノスフェラトゥ(1979)】としてリメイクされています。
1979年/西ドイツ・フランス/監督:ヴェルナー・ヘルツォーク/出演:クラウス・キンスキー、イザベル・アジャーニ、ブルーノ・ガンツ、ローラン・トポール、ワルター・ラーデンガスト、ダン・ヴァン・ハッセン注※このサイトは映画のネ[…]
1920年/ドイツ/監督:ロベルト・ヴィーネ/出演:ヴェルナー・クラウス、コンラート・ファイト、フリードリッヒ・フェーエル、リル・ダゴファー、ハンス・ハインツ・フォン・トワルドウスキー注※このサイトは映画のネタバレしようがし[…]
映画【吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)】のあらすじザックリ
どこが違うの?“ヴァンパイア”、“ドラキュラ”、“ノスフェラトゥ”
- ヴァンパイア(Vampire)
- ドラキュラ(Dracula)
- ノスフェラトゥ(Nosferatu)
この3つの違い、分かりますか?
ええ、そう思ってる人は少なくないと思います。
実際は「ヴァンパイア」が「吸血鬼」で、「ドラキュラ」はブラム・ストーカーの怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」に出てくる「吸血鬼の名前」。単に人名を指す固有名詞です。「隣に引っ越してきたドラキュラさん」みたいな使い方でOK。ブラム・ストーカーがドラキュラさんのモデルにしたと言われているのは、15世紀のトランシルヴァニアに実在し「串刺し公」と呼ばれたルーマニアの領主ヴラド・ツェペシュさん。
普通名詞と固有名詞という決定的な違いはあれど「ドラキュラ」と聞いて宇宙飛行士やスーパーモデルを想像する人もいないでしょうから、すっかり「吸血鬼≒ドラキュラ」という図式が定着しています。
残るは「ノスフェラトゥ」。
不思議な単語です。
「不死の者」とか「吸血鬼」を意味するルーマニア語らしいのですが、由来や語源には諸説あってはっきりしたことは分かっていません。元よりルーマニア語には他に「吸血鬼」を指す「vampir(ヴァンピル)」という単語が存在していて、「Nosferatu」なんて言葉はほぼ使われないんだとか。
日本で言う「○っくりさん」みたいに、口に出すと良くないことが起こりそうな底気味悪さがある単語ですよね。
そうそう、世界には自分の「そっくりさん」が3人いると言われてて…、
ってそんなワケあるかドアホ!
そこ「そ」とちゃうわ!「こ」や「こ」!!
ほとぼり冷めたから「オルロック伯爵」改め「ドラキュラ伯爵」
そんな呪われそうな単語を冠した映画【吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)】。
既出の小説「吸血鬼ドラキュラ」をもとに制作されたこの映画は、当初はタイトルも小説と同じ「ドラキュラ」となるはずでした。ところが原作者ブラム・ストーカー(1912年没)の妻フローレンス・アン・レモン・バルコムから版権を得られなかったため、急遽タイトルを【吸血鬼ノスフェラトゥ】、本編に出てくる吸血鬼「ドラキュラ伯爵」の名前を「オルロック伯爵」と変更することで制作・公開を押し切ったという経緯があります。
当然【吸血鬼ノスフェラトゥ】はブチ切れたフローレンス夫人に著作権侵害で訴えられ、裁判でコテンパンにやられるわけなんですけども、公開から100年近く経った現在ではその侵害していた著作権もきれいさっぱり雲散霧消。
タイトルこそ【吸血鬼ノスフェラトゥ】のままであるものの、私が所有するDVDの字幕では「オルロック伯爵」はハッキリと「ドラキュラ伯爵」と記載されるにいたっています(ドラキュラ伯爵だけじゃなく、名前を変えていたはずの他の登場人物も全員原作の名前で記載されてます)。
経時の勝利やね。
ネズミをあやつり疫病をバラまく吸血鬼
今現在「ドラキュラ」と聞いて多くの人が連想するであろうイメージは、【魔人ドラキュラ(1931)】でベラ・ルゴシが演じたバージョンの「ドラキュラ伯爵」でしょう。
1931年/アメリカ/監督:トッド・ブラウニング/出演:ベラ・ルゴシ、ヘレン・チャンドラー、デヴィッド・マナーズ、ドワイト・フライ、エドワード・ヴァン・スローン注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと[…]
しかし【吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)】のドラキュラ伯爵(マックス・シュレック)をこの一般的なイメージで観るとおっぴろげるんで覚悟してご覧ください。
ああちゃうか、「おったまげる」んで覚悟してください。
ハゲでギョロ目で前歯が二本飛び出している頭部は、まるで「おそ松くん」のイヤミとチビ太を足して2で割ったようなビジュアル。指(爪?)と胴体が異常に長く、人間じゃないのに「影」がある。そして操る動物はコウモリや狼ではなくネズミ。
この奇怪な見た目がそれまでの吸血鬼のスタンダードだった可能性を鑑みれば、約10年後に公開される【魔人ドラキュラ】のベラ・ルゴシ版ドラキュラ伯爵を観た女性達が「私も血を吸われたあ~い!」と言いながら映画館に殺到したことも頷けます。
私だってあのドラキュラ伯爵(※ベラ・ルゴシ版)になら血を吸われてもいいけど、このドラキュラ伯爵(※マックス・シュレック版)には絶対吸われたくない。
窓越しに見つめるドラキュラ伯爵
「『吸血鬼ドラキュラ』を扱った映画の最高峰」とされるだけあって、ドラキュラ伯爵の標的にされて暗闇に追い込まれて行くような閉塞感は100年経とうがまったく色褪せていません。
ドラキュラ伯爵がロックオンした麗しい女性ミーナ(グレタ・シュレーダー)(実はこのヒロインもアイメイクが毒々しくて結構怖い)を隣の屋敷の格子窓からただ覗き見ている場面なんか絶叫ものですよ。
のそり…。
のそり…。
のそり…。
何やねん言いたいことあんねやったらはっきり言えや!(←絶叫)
映画【吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)】の感想一言
ドイツのブレーメンからルーマニアのトランシルヴァニアにあるドラキュラ城まで遠路はるばるやってきたジョナサン・ハーカー(グルタフ・フォン・ヴァンゲンハイム)が肌身離さず持っているミーナの写真を見るや、「…なんと美しい首筋だ!」と言ってあからさまに挙動不審になるドラキュラ伯爵。
その美しい首筋に食いつくためだけに、すぐさま旅支度をして貨物船を一隻壊滅させる伯爵のグルメ指向がますます怖い。
近所のそこそこ綺麗なオネエちゃんの首筋じゃあかんかったんかいな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。