2007年/アメリカ/監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン/出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン、ウディ・ハレルソン、ケリー・マクドナルド、ギャレット・ディラハント、テス・ハーパー、バリー・コービン/第80回アカデミー作品・監督・助演男優・脚色賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

血が吹き出す暴力描写とか内蔵飛び出すスプラッターとか一切受け付けない私ですが、コーエン兄弟とクエンティン・タランティーノの作品なら観ることができます。
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だってどれだけ血が流れようが人が死のうがどこかコミカルで笑えてしまうんやもん。
本日の映画も例に漏れず、頭イっちゃってる殺人鬼アントン・シガー(ハビエル・バルデム)が面白過ぎたお陰で終始楽しく観ることができました。おありがとうございます。
第80回アカデミー賞で最優秀作品賞他4冠に輝いたコーエン兄弟のサスペンス映画、【ノーカントリー】です。
映画【ノーカントリー】のあらすじザックリ
アメリカとメキシコの麻薬取引に巻き込まれたモス
物語の大筋はルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)の逃亡劇で成り立っています。

テキサスの荒野で鹿みたいな動物(「プロングホーン」ってんだって)を撃っていたモスは、偶然数台のバンと積み荷に残された麻薬、その周囲にまるで銃撃戦の後のように転がるいくつかの死体を発見。
麻薬取引の交渉が決裂でもしましたか?生存者はいらっしゃいませんか?周囲を警戒しながらウロつくモスは、少し先の木の下に人影を確認します。
近づいてみるとそこには、すでにこと切れたギャングらしき死体と、大金が詰まったブリーフケースがありました。
危険を承知でこの大金を奪って逃げ出すモス。
鹿らしき動物(「プロングホーン」だってば)を狙っている時の眼光の鋭さや転がる死体を見ても動じないメンタルの強さ、ギャングや殺し屋に追われても冷静で機転が利く環境適応能力の高さ。

実は彼は2回も出征しているベトナム帰還兵。中盤辺りでモス自らが明かします。言うたらジョン・ランボーな訳ですね。テレッテ~。
1982年/アメリカ/監督:テッド・コッチェフ/出演:シルベスター・スタローン、リチャード・クレンナ、ブライアン・デネヒー、ビル・マッキニー、パトリック・スタック、ジャック・スターレット注※このサイトは映画のネタバレしようが[…]
やっぱりベトナム帰還兵は戦場でも市街地でもサバイバル力が半端ない(ベトナム戦争映画による刷り込み)。
頭のぶっ飛んだ殺人鬼が相手でもベトナム帰還兵なら或いは勝てるのかも…?
アントン・シガーよ、その武器銃なの?
この取引のアメリカ側の麻薬組織に雇われたのが、まともに会話することさえ不可能な頭のぶっ飛んだ殺人鬼、アントン・シガー(ハビエル・バルデム)。金を奪ったモスを執拗に追ってくる。

もうまず見た目さあ、画面に映った瞬間からインパクト満点すぎるやん。どこにポイントを置いてツッコんでええか分からんわ。
髪型!顔!加えて頭(中身)もだいぶんおかしい!!
マスコット人形があったら絶対買ってる!
大体素朴な疑問なんですけど、この人「殺し屋」って言うか、「誰かに命令されて人を殺す」って成り立つの?
だって言葉が通じませんよ?
のっけから自分にかけられた手錠で保安官助手の首を絞めて殺しちゃうし。

保安官助手とか殺しちゃったら追手が大勢やってきて大変そうでしょ?賢い犯罪者なら避けるところですよ。それなのにこのシガーときたら、相手がどんな立場であるかとか深く考えずにサクサク殺しちゃうんです。結局自分の雇い主であるボスも殺しちゃうし。
報酬をもらってターゲットを追う「殺し屋」というよりは、その時の気分で殺戮を繰り返すだけのただの猟奇殺人者のような…。
とは言っても基本的にはアントン・シガーは力技での殺人は行いません。
ちゃんと彼専用の武器があるんです。
アントン・シガーの武器の名は「家畜銃ピストル」
シガーが主に殺人に使うエモノは、銀色に輝く一見酸素ボンベのようなこちらの代物。

この武器の正体は、エド・トム・ベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)とモスの妻カーラ(ケリー・マクドナルド)の会話の中で明かされています。


昔は家畜の牛を一頭殺すのも大変やったんやで。逆に人間がケガさせられたりしてな。
でも最近は一撃で牛を仕留められる道具ができてんねん。
シガーの愛好する武器がまさしくこれ。
牛を一撃で安楽死させられる威力を持つ飛び道具で、「家畜銃ピストル」というそうな。

巨大な牛でも一撃で死に至るこの武器を、シガーは容赦なく人間の脳天めがけて発射します。撃たれた人間がどうなるかは推して知るべし。
空気銃みたいな原理になってて、50~60cmはあろうかというエアタンクをブラブラぶら下げて静かにモスを探し回るシガーの姿は異様。
しかもこの家畜銃ピストル、ドアの鍵穴に向けて発射すれば鍵穴ごと吹っ飛ばし施錠の意味をまったく無くしてくれるという本来の使い方以外の用途でも大活躍します。

ターゲットがどこに隠れようが籠城しようが超無力。この方法でじわじわモスを追い詰めていくシガーの無双感がおかしい。
こんな武器ありかしかし。
タイトル【ノーカントリー】の意味考察
コーエン兄弟の作品らしく、ラストはやっぱり突然訪れる。

これで終わるんかーい!

で結局、タイトル【ノーカントリー】ってどーゆー意味?
原題を理解していないと考察不可能?
ただ【ノーカントリー】というだけでは「祖国を追われた移民の話?」くらいの認識になってしまいますよね?
原題は【No Country for Old Men】で、直訳すれば「老人のための国はない」。
※原作小説の邦題は「血と暴力の国」です。
老齢を迎えたベル保安官は、犯罪が若年化・凶悪化する世の中で自分の無力さを痛感して引退を決意します。

男女問わず自分より若い人間が次々と殺されていくというのに老いた自分は生きのびて、それどころか保安官でありながら結局誰一人救うこともできず、挙げ句死に場所さえなくおめおめと引退するしかなかったという、還暦を過ぎたおじいに降りかかる悲しい現実を表現しているタイトルなのかも知れません。
まあ実際問題【ノーカントリー】でもっとも暴力的なのは、「for Old Men」の部分をバッサリ切り捨て危うく「移民の映画?」という誤解を生んでしまう寸前だった 大胆な原題の略し方 だと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。