1920年/ドイツ/監督:ロベルト・ヴィーネ/出演:ヴェルナー・クラウス、コンラート・ファイト、フリードリッヒ・フェーエル、リル・ダゴファー、ハンス・ハインツ・フォン・トワルドウスキー
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
1920年に製作された映画です。
もちろんサイレント映画。
こんな映画観ないよね、今の若い人はね。いや若くなくても観ないよね。サイレント映画なんて恐らく60代でもあんまり観ない。
でもね、若い人にこそ後学(?)のために観てみてほしいものですよ。
だってサイレント映画のほとんどはすでにパブリックドメインのため、ブラウザで検索かければ動画投稿サイトyoutubeで無料でサクッと観られますから。しかもそのほとんどが90分にも満たない短編(今で言えば)だから、通勤通学中の片道電車の中で完結しちゃう。お得だよ?
CGを駆使した最新映画を劇場へ観に行く合間でいいから一度はご覧いただきたい。
そんなサイレント映画の名作のひとつ、【カリガリ博士】です。
映画【カリガリ博士】のあらすじザックリ
精神病患者が語る妄想の世界
とある庭のベンチに腰掛け話をする老人と若い男。
ぎょろりと目玉をひんむきながら話す老人よりも奇妙なのは若い男の方。彼の視線は空を泳ぎ、固く握りしめて膝の上に置かれた両の手もどことなく居心地が悪そう。
若い男の名はフランシス(フリードリッヒ・フェーエル)。
どうやらここは彼が入院している精神病院であるらしい。そして隣の老人はその病院の院長先生。
ふと二人の前を、美しい女性がフラフラと通り過ぎていきます。察するにその女性も精神病患者。
フランシスは彼女のことを「僕の婚約者です」と紹介した上で、院長先生に自分の過去を語り始めます。
カリガリ博士の見世物小屋と眠り男チェザーレ
ある日、フランシスは友人のアラン(ハンス・ハインツ・フォン・トワルドウスキー)と一緒に町の縁日へ行きました。
ふと見ると「カリガリ博士の箱」と書かれた小屋の前に、ひと際声を張り上げて客の呼び込みをしている老人が。
よってらっしゃいみてらっしゃい!
眠り男チェザーレだよ!なんとこのチェザーレは、眠りながらどんな質問にも答えられるときたもんだ!とにかく一度ご覧あれ!さあいらっしゃいいらっしゃい!
見世物小屋に入ったフランシス達。カリガリ博士(ヴェルナー・クラウス)があまりにも自信ありげに「チェザーレはどんな質問にも答えられる」と言うもので、若いアランは冗談めかしてこう問います。
カリガリ博士に促され、目を開いたチェザーレは答えます。
あ、すみません。私怖いのダメなんですよ。
賢い皆さんならもう想像はつきますよね?
そうです、翌朝、アランは還らぬ死体となって発見されるのでした。
狂人の妄想か、実在の殺人鬼か
アランを殺したのはもちろんチェザーレ。眠ったままやで?ちょとオモロイ。
さらにはチェザーレがアランを殺す時(影しか映らないけど明らかにチェザーレ)、一瞬「“予言”て言うて自分で殺すんかい!それ予言ちゃうやん!ただの有言実行やん!」ってツッコんでしまうんですけどそこは映画のストーリーには全然関係ないんで割愛。
こんな感じでカリガリ博士に操られるまま、チェザーレは殺人を繰り返します。
【カリガリ博士】は、犯人がチェザーレであることが(観客には)明らかであるのに、なんとなくフワフワとした感覚のまま視聴を続けなければならない袋小路のような映画です。
【カリガリ博士】が創り出す独特の世界観(後述します)のせいなのか、冒頭で語り手のフランシスの頭がおかしいことを知ってしまったからなのか、なぜか終始現実味がなく物語的。例えるなら「まんが日本昔ばなし」を観ているような感覚。遠い昔の作り話のような。
観客全員がこんな感覚に陥るのかどうかは置いといて、少なくとも私が受けた印象は作り手の狙い通りだったみたいです。
当時としては少々ショッキングな描写がありますから、わざと「精神病患者の妄想」ということにしてショックを薄めているんですね。
監督は「ドイツ表現主義」を代表する映画人ロベルト・ヴィーネ
【カリガリ博士】は「ドイツ表現主義映画」の代表作のひとつとされる映画です。製作国は当然ドイツ。
監督は【メトロポリス(1927)】のフリッツ・ラング、【吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)】のF・W・ムルナウと並んで、ドイツ表現主義の代表的映画監督とされるロベルト・ヴィーネ氏です。
1922年/ドイツ/監督:F・W・ムルナウ/出演:マックス・シュレック、グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム、グレタ・シュレーダー、アレクサンダー・グラナック、ゲオルク・H・シュネル、ヨハン・ゴットウト注※このサイトは映画のネ[…]
「ドイツ表現主義」ってナニ?
まあねえ、「ドイツ表現主義の代表的監督」って言われてもねえ?
まず「ドイツ表現主義」が分からんっちゅうねんねえ?
はい、「ドイツ表現主義」ってのはこういうもんだそうです。
「ドイツ表現主義」
1900年代初めにドイツで展開された芸術運動。自然主義文学や印象主義美術に対する反動として、作家の内面や主観的な感情表現に重点をおいた作品群を指す。1905年に結成された前衛絵画グループ<ブリュッケ>を起点として、キルヒナー・カディンスキーらが絵画における提唱を始めたことをきっかけに、そのムーブメントは第一次世界大戦後には文学や音楽、演劇に波及し、やがて映画の分野にも広まっていった。
ドイツ表現主義の特徴は、極端なカメラアングル、陰影のある証明、歪んだレンズ(またはセット自体を歪ませる場合もある)等を用い、役者の様式化された演技や濃いメイクによって人工的な景観を実践するため、セット撮影を基本とする。
出典:現代映画用語辞典
活字を読んでもよく分からない人は下の画像をご覧ください。4枚すべて【カリガリ博士】映画本編からの引用です。
映画の舞台となるフランシスの故郷ホルシュテンヴァルです。
まるで絵画みたいでしょ?
「動く絵画」や木版をイメージして作られているんですって。
【カリガリ博士】を観ていると、「建物や道路って、まっすぐ造る方が簡単だよね…」って思います。
それほどに歪んでいて、極端で、ガタガタで、鋭利。
逆に今の映像技術でこういう世界観の映画を作ってみたらどうなるんでしょうね?
細部まで映し出されてしまうがゆえに陰影や建物がくっきり映りすぎて、【カリガリ博士】のような現実味のないフワフワとした感覚にはならないんでしょうか?
求む【続・カリガリ博士】。もしくは【カリガリ博士2】。
映画【カリガリ博士】の感想一言
【カリガリ博士】は公開当時、世界中に一大センセーションを巻き起こしたと言います。
このあといくつも模倣作が作られたとはいえドイツ表現主義映画の隆盛は30年にも満たなかったようですが、その後の例えばハリウッドのホラー映画やフィルム・ノワールにも少なからず影響を与えています。
て、聞いたら、ほら、「ちょっと観てみようかな」って気になってきたでしょ?
参考 フィルム・ノワール=1940~1950年代末にかけてアメリカで製作された、堕落して歪んだ人物を描いた陰鬱で退廃的な映画群。主に犯罪映画や探偵映画を指す。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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