1940年/アメリカ/監督:ラウォール・ウォルシュ/出演:ハンフリー・ボガート、アイダ・ルピノ、アラン・カーティス、アーサー・ケネディ、ジョーン・レスリー、コーネル・ワイルド、ヘンリー・トラヴァース
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あーすみません。タイトルを読んで本日の映画が名優ハンフリー・ボガートのデビュー作だと勘違いをしてしまった方もいらっしゃるかも知れませんね。
正確にはボギー(※ハンフリー・ボガートの愛称)の“主演”デビュー作です。
これまでにもボギーは数多くの映画に出演していましたが、敵側の悪役が多く、どれもこれも彼の本領が発揮されるには全然至っていませんでした。
1938年/アメリカ/監督:マイケル・カーティス/出演:ジェームズ・キャグニー、パット・オブライエン、ハンフリー・ボガート、アン・シェリダン、ジョージ・バンクロフト注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きな[…]
しかし40歳も超えた頃、ボギーはついに本作で主演をつかみ取り、「時代の移り変わりに取り残されたかつての大悪党」を貫禄と哀愁たっぷりに演じて一気に注目されることになるのです。
かの名優ハンフリー・ボガートのターニングポイントとなった映画、【ハイ・シェラ】です。
映画【ハイ・シェラ】のあらすじザックリ
若者に「老いぼれ」と呼ばれるかつての大悪党
良い陽気のある日。銀行強盗の罪で8年食らったロイ・アール(ハンフリー・ボガート)が特赦で出所してきました。

8年もまずい飯食ってきたロイが出所して最初に向かったのは、刑務所から歩いて行けるのどかな公園。家族連れやカップルでにぎわう公園のベンチに腰掛けてシャバの空気を胸いっぱいに吸い込むロイの姿からは想像もできませんけど、実はロイはその筋では有名な大悪党。
これを機に足を洗うのかと思いきや、(これを最後の仕事にしようとしてはいるけれど)再び友人でもある元締めのマックに頼まれた宝石強盗の悪事に手を染めようとしています。
今回の仲間はレッド(アーサー・ケネディ)とベーブ(アラン・カーティス)とメンドーサ(コーネル・ワイルド)、それにマリー(アイダ・ルピノ)の4人の若者たち。

男3人はチンピラに毛が生えた程度のド素人、紅一点のマリーに至ってはベーブが他所の町から連れてきただけの酒場の踊り子。いっそのことロイ独りで強盗した方が首尾よく行くんちゃうかと思うほど不安なメンツ。
案の定強盗作戦はてんやわんやの結果に終わるんですけどね。
女見る目なさすぎの大悪党
さて、頼りにならないチンピラのレッドに「あんたに憧れててん!一緒に仕事できるなんて光栄や!」と言われるほどその世界に知らぬ者はいない大悪党のロイですがね、オンナ見る目だけは全然ないんですわ。

ロイは仲間達の待つアジトへ向かう道中で、年老いた夫婦と孫娘と知り合いになって、その孫娘のヴェルマ(ジョーン・レスリー)に恋心を抱いちゃうんですけどね?
これがもうヴェルマときたら完全に堅気の娘さんであるうえに、せいぜい年齢も二十歳くらいなわけですよ。
ロイあんたいくつやねんな。
隣に並んだら父親と娘にしか見えないような娘さんに、求婚したりするからね。
大丈夫?
しかもヴェルマ。こいつ。内反足を患っているため内向的な性格であったくせに、ロイが紹介した医者に内反足を治療してもらったとたん(治療代はもちろんロイ持ち)、商売女のマリーよりタチの悪い派手なオンナに変身しよる。

汚い世界で色んな人間見て来たやろうに、オンナ見る目だけはからきしの大悪党が不憫でなりません。
ヴェルマにフラれた(?)あと、以前から自分に想いを寄せていたマリーの気持ちを受け止めるロイにも物申したい。
「堅気のオンナはやっぱり無理やったか…まあマリーでええわ」って仕方なく方向転換したように見えなくもないでキミ。

いやだから、ホンマ大丈夫?
時代遅れのアウトローが行きつく先は…
上の項のオンナのくだりは半分くらいネタです、すんません。ロイとマリーの愛の物語は結構ジンとくるんでご心配なく。
確かに純愛なんでしょう。見かけによらず愛情深いんですロイって。
アジトの周辺をウロウロしてる“不幸を呼ぶ犬”パードのこともなんだかんだ言って可愛がってますしね。

でも無理ですよ。
所詮、ロイはどう転んでも犯罪者ですから。堅気には戻れないでしょう。
強盗稼業からは足を洗ってマリーとふたりで犬を飼って幸せに…って、そら無理だって。

長い刑期を終え、これまでと生き方を変えるって強く心に刻んだとて、難しい。
それでなくてもロイは本心から生き方を変えようとしてるようには見えません。むしろ「俺にはこんな生き方しかでけへんのや」と言わんばかりに破滅への道を突き進む。
クライマックスでシエラネバダ山脈を駆け抜けるカーチェイスには息を飲むけど、警察に追い詰められてゆくロイの姿は哀れで寂しく、複雑な感情を呼び起こさせます。

映画【ハイ・シェラ】の感想一言
ジェームズ・キャグニーやエドワード・G・ロビンソンらの作品に代表される古き良きギャング映画の終焉を感じさせる名画。
雄大だけどどこか無情なシエラネバダ山脈で最期を迎える「時代に取り残されたはみ出し者」を、このあと一時代を築くことになる名優ハンフリー・ボガートが孤独と哀愁たっぷりに演じています。
猫背のボギーもかっこいい(ボギーは普段からやや猫背気味だけど、役作りのためか本作では特に背中を丸めてる)。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。