1975年/アメリカ/監督:シドニー・ルメット/出演:アル・パチーノ、ジョン・カザール、クリス・サランドン、チャールズ・ダーニング、ジェームズ・ボロデリック、ランス・ヘンリクセン、キャロル・ケイン/第48回アカデミー脚本賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
そういえばどうしてこの映画はアカデミー最優秀作品賞を獲ってなかったんだったっけ?
無茶苦茶面白いのに。
そう思って調べてみましたらば、同年同賞を獲得してるのはミロス・フォアマン監督の【カッコーの巣の上で】でした。そうそう、この年は最優秀作品賞どころかその他の目ぼしい賞はすべて【カッコーの巣の上で】が持って行っちゃってる年でした。
こりゃ仕方ないわ、相手が悪すぎ。
1975年/アメリカ/原作:ケン・キージー/監督:ミロス・フォアマン/出演:ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー、クリストファー・ロイド、ダニー・デヴィート、ウィル・サンプソン、ウィリアム・レッドフィールド、ブラッド・ドゥー[…]
監督は社会派ドラマが得意な【十二人の怒れる男】、【評決】のシドニー・ルメット。
1957年/アメリカ/監督:シドニー・ルメット/出演:ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ、マーティン・バルサム、ジョン・フィードラー、E・G・マーシャル、ジャック・クラグマン注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気[…]
1982年/アメリカ/監督:シドニー・ルメット/出演:ポール・ニューマン、シャーロット・ランプリング、ジャック・ウォーデン、ジェームズ・メイソン、ミロ・オーシャ、リンゼイ・クローズ注※このサイトは映画のネタバレしようがしまい[…]
主演は代表作「ゴッドファーザーシリーズ」のマイケル・コルレオーネとはまた違ったすごみのある演技を見せるアル・パチーノ。
1974年/アメリカ/監督:フランシス・フォード・コッポラ/出演:アル・パチーノ、ロバート・デュヴァル、ダイアン・キートン、ロバート・デ・ニーロ、タリア・シャイア、ジョン・カザール、リー・ストラスバーグ、マイケル・V・ガッツォ、G・[…]
実際に起こった銀行強盗事件を題材にしたクライム・ムービー、【狼たちの午後】です。
映画【狼たちの午後】のあらすじザックリ
ストックホルム症候群を扱った実話
1972年8月22日、ニューヨークのブルックリンで銀行強盗事件が発生。犯人たちが百戦錬磨のプロでなかったこと、主犯格の男の経歴や家族構成、事件の経緯・終結などは、実際の事件に基づいています。
まるでお小遣いが足りない子供が駄菓子屋で万引きするような感覚で、強盗犯たちは銀行に押し入ります。
持ってるのは銃と白ハンカチと「何となくうまく行きそうな稚拙な強盗計画」だけ。
当初銀行を襲撃したのは三人でしたが、その内一人は決行中に突然臆病風に吹かれて退場。支店長と行員に案内させて金庫を開けさせるもそこには少額の現金しか残っていませんでした。
手筈が狂ってモタモタしているうちになぜか警察がやって来て、上から前から後ろから銀行を完全に包囲してしまいます。
く…っクソ……!どどどど…どないしよ…。
自分の置かれた状況にアタフタしつつも、「殺さないから」となだめてくれたり喘息で具合の悪くなった守衛のおっさんを解放してくれたりする、ある意味人間味あふれる強盗犯に対して、人質たちは次第に心を許し始めます。
「ストックホルム症候群」を扱った映画の代表的作品。
誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象。ストックホルムシンドローム。
[補説]1973年にストックホルムで起きた人質立てこもり事件で、人質が犯人に協力する行動を取ったことから付いた名称。出典:デジタル大辞泉
この病名(症状名?)を初めて知った時、人間の自己防衛本能ってすごいなあって妙に感心したのを覚えています。
要するに恐怖が極限に達して精神がどないかなってしまう前に、犯人に共感していると思いこむことで平静を保っているってことでしょ?深層心理で勝手に。
人間って自分の体の中に“宿主 ”を護ることだけを使命とする別の人格が棲みついているみたいですね。
ちなみに2018年に、この「ストックホルム症候群」という言葉を生んだ実際の事件を題材にした映画【Stockholm(原題)】がイーサン・ホーク主演で製作されていますが、いまのところ日本未公開となっています。
主犯ソニーを演じた英雄じみてるアル・パチーノ
強盗犯の主犯格の男の名はソニー(アル・パチーノ)。
“主犯格”と言うか、相棒のサル(ジョン・カザール)は人質に銃を向けてるだけで何もしないので、実質“単独犯”。
警察やFBIとの交渉も、人質の処遇も、すべてひとりでやってのけます。
【狼たちの午後】はほぼアル・パチーノの独演会なので、自ずと視聴者も犯人目線にならざるを得ず、上映中の約2時間のあいだ手に汗握って鑑賞することを余儀なくされます。
ポップコーン片手にリラックスしながら観る映画ではないよ。
妻・母・妻…え?妻?妻妻?!
作中多くは語られませんが、ソニーが銀行強盗を働くことになった一番の理由は、どうやら“妻(男性)”レオン(クリス・サランドン)の性転換手術費用の工面のため。
でも待って、ソニーには「女性の」妻もいます。その妻との間には2人の子供も。両親も健在。
同性愛者で重婚してるってのは特殊ですけど、家族の誰も不二の病に罹 ってる訳でもないし、食べるものや住むところに困ってる様子でもない。
それなのに「銀行強盗」。
普通の家庭を持つ二児の父に見えるソニーの実態は、大金を手に入れるためにこんな安直な発想しか浮かばないほど、計画実行前からすでにかなり追い込まれていたのではないかと思われます。
ソニーが吠える「アティカ!」とは?
白昼堂々銀行に押し入ったソニーたちの犯行は、マスコミを通じてその一部始終を世間の目にさらされることになります。
銀行を包囲する警官隊の後方にあふれる野次馬。
この物々しい雰囲気の中、白ハンカチを振り振りして銀行出入り口から顔を出すソニー。
これはもうどうしようもない。
完全に包囲されてる。
降伏するしかない。
犯人側目線で観ているとここで最初の絶望感味わうことになるんですけど、ソニーはひるむことなく、白旗掲げてる自分に向かって銃を構える警官隊に大タンカ切ってみせます。
お前らこの白旗が見えへんのか!
なんで銃構えてんねや!人質皆殺しにしたろか!
そうか、アティカ刑務所の暴動事件みたいに俺も殺すか!
知ってるか?アティカで42人もの囚人が警官に殺されたんや!
おおやれや!アティカみたいに俺も殺せや!
アティカ!アティカ!
このシーンのアル・パチーノのド迫力ときたら、薬やってたって言われても私は疑いませんね。
憑依しすぎてサブいぼ出るくらいカッコいい。
ソニーの勢いに呼応して、一緒になって咆哮する野次馬たち。
ここで流れは妙な方向へ一気に変わり、「強盗犯側」が一部の野次馬から英雄のように奉られながらの攻防となっていきます。
この部分が事実に基づいているのか脚色なのかは分かりません。
目で語るジョン・カザール
ところでソニーの共犯のサルはと言えば、警察との交渉は一切せず、ず~っと銀行の奥で静かに銃を構えて冷や汗かいてます。
たまに口を開けば、
(どこの外国行きたい?って聞いてんのに)
ワイオミング(州)行きたい。
(飛行機で逃げるしかないって言ってんのに)
飛行機乗ったことない。
(TVで「犯人は同性愛者」と報道されたことに関して)
俺はホモとちゃう。訂正させろ。
などなど、トンチンカンなことばっかり言ってくる。
お前もう帰れよ。
セリフなんか上の3つくらいちゃうかってくらい少ないのに、それでも演じたジョン・カザールの不気味な存在感は半端なくて完璧でした。
映画【狼たちの午後】の感想一言
母親に金をせびられ、(女性の)妻に小言をいわれ、サルにトンチンカンな要求をされ、それでもレオンに性転換手術はさせてやりたいし、じわじわじわじわ精神崩壊していくソニーがなんだか気の毒になってくる映画。
…これもストックホルム症候群なんですかね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。