1998年/アメリカ/監督:スティーブン・スピルバーグ/出演:トム・ハンクス、マット・デイモン、トム・サイズモア、エドワード・バーンズ、バリー・ペッパー、アダム・ゴールドバーグ、ヴィン・ディーゼル/第71回アカデミー監督・音響編集・録音・撮影・編集賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

どっかの記事でも書きましたが、実は私、スティーブン・スピルバーグの作品(監督にしろ製作にしろ)ってあんまり好きじゃないです。
万人に受け入れられやすくてヒットする要素がたっぷり盛り込まれている反面、演出と脚色が過剰すぎる気がします。
映画産業だって商売ですから興行的にはこんなたくさんヒット映画を製作できるなんて紛れもなく名監督なんでしょうけど、……抽象的な表現で恐縮ですが私には何かドシっとくるものがないんです。
そんなスティーブン・スピルバーグが関わっているにしては珍しく、とても好きな映画です。
ただひとつだけ惜しい部分を除いて。(後述)
これまでになかったリアルで凄惨な戦争描写が話題となり、第71回アカデミー賞で11部門ノミネートされた戦争映画、【プライベート・ライアン】です。
スナイパーがカッコいい映画【プライベート・ライアン】のあらすじザックリ
約20分間にものぼるノルマンディー上陸作戦の地獄絵図
劇場で呼吸困難になりそうでしたよ私。
ドラマ性も非常に優れた映画ではあるのですが、特に注目されたのはリアルさを追求した戦闘の描写。

一発即死なんて全然マシ、内臓は出るわ手足はもげるわ、もうええやろって言うのに敵の攻撃は止まへんわ、足場の悪い砂浜で見えない敵から狙い撃ちにされる恐怖に息も絶え絶え。
震えるほどに恐ろしいのに、

と変に感心したのを覚えています。
ソウルサバイバーポリシーについて

…あら?
この住所と苗字、さっきもどっかで…。
第二次世界大戦下、たまたま覚えがあった3人の共通点に気付き上司に報告した戦死者の電報を打つタイプのおばちゃんのファインプレーによって、ある事実が判明します。

奇しくも同日に3枚の死亡通知が母親に届けられてしまうー…。
この報せを受けた当時の陸軍参謀総長はレンジャー隊を組織し、残る末っ子のジェームズ・ライアン二等兵(マット・デイモン)だけは母親の元に帰すようにと命令を下します。
実に温情的な、戦時中の軍上層部にも血が通っていたことが分かる感動的なこの描写ですが、実際こんなことってあったの?って思いませんでしたか?
世界中の人々が生きることに精一杯だった世界大戦中に、たった1家族の為に「国」が動いてくれたりしたのかな?って。
調べたらありました。
「ソウル・サバイバー・ポリシー」
軍隊の規定の一つで、家族が兄弟などで従軍している場合に全員を失わないよう、一人生き残った者を戦線から強制的に離脱させるというもの。日本における「長男の徴兵免除」に類する制度。
出典:Hatena Keyword
へえ~ちゃんとこんな規定があったんで軍も動いたんですね。
…しかしこれって、むずがゆい制度ですよね…。
「俺たちにはお袋はいないってのか?」
ライアン救出のために組織された8人のレンジャー隊が、自分達の使命について話しながら歩いています。



1人を救うために8人か…
駆り出された俺たちにはお袋はいないってのか?
そうそう!そこそこ!
やっぱり、さっきのソウル・サバイバー・ポリシーって無理があるよね?むずがゆいよね?
一人息子だろうと10人兄弟だろうと、息子は息子でしょ?一人息子が死んだ時の残された家族の悲しみが、10人兄弟全員が死んだ時の悲しみの10分の1って訳でもないでしょ?
私が親なら…うちの一人息子は死んでしまって、隣の10人兄弟が1人でも送還されてきたら…。
でも息子が9人も死ぬってどないやねん、とも思うし…。
どっちの立場に立つかで全然変わるし、どうしても私情を交えてしまって客観的な判断に困りますけど…レンジャー隊の彼らが納得できない気持ちも痛いほど分かります。
この問題に関しては、最後まで気持ちの整理ができないまま、成り行きを見守るしかありませんでした。
ライアン二等兵は8人の命を賭けて救う価値がある男だったのか
やっとのことで探し出したライアン二等兵は、兄の訃報と強制送還の旨を伝えても人手不足の前線を離れようとせず、戦況の要となる橋を守り通すと言って譲りません。

ミラー中隊長(トム・ハンクス)率いるレンジャー隊が救われるには、「ライアン二等兵が8人もの命を賭けて救う価値がある人物」であることが不可欠。
人間に対して「価値」っておかしいけど、綺麗ごとじゃなくて、そういうこと。
ライアン二等兵のこの判断は、レンジャー隊にどんな風に受け取られたのでしょうか…。
左利きのスナイパー、ジャクソン二等兵の狙撃動画
ここまでにも何度か出てきますが、橋での攻防の時に左利きのスナイパー、ジャクソン二等兵(バリー・ペッパー)の本領が発揮されます。
カトリックのジャクソンが祈りを口にしながら何度も何度も引き金を引き、遠く離れた塔の上から的確に味方を援護し狙撃する姿は超クール。
やっぱスナイパーってやばいよね。
来世なるわ、私。
はためくアメリカ国旗に始まり、はためくアメリカ国旗に終わる
「ムダにするな、しっかり生きろ」と言って動かなくなったミラー中隊長を呆然と見つめるライアン二等兵の顔にしわが刻まれ、皮膚は垂れて髪は白くなり…。
数十年後の戦没者の墓地に立っているのは、無事生き残って母親の元に帰ることができた末っ子ライアン。

傍らではたくさんの家族が見守っています。
ライアンは付き添う妻に聞きます。

私はいい人生を?
私はいい人間かな?

ここ要る?
何を隠そう、「ひとつ惜しい部分がある」と最初に言ったのはここです。
この後日談いらんでしょ。
スティーブン・スピルバーグのこーゆー作風が苦手。
徹底的にリアリズムを追求するなら、戦地で呆然と立ち尽くすライアンの描写で終わってよかったはず。【シンドラーのリスト】にしろ、なんで無理矢理美談に寄せて行こうとするのか。
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「ライアンが幸せで正しい人生を生きました!」というこの後日談がなければ「ライアンを救うために死んでいったレンジャー隊の面々はなんやったんや」ってなりますけど、それはもうしゃあないんです。そんな理不尽がまかり通るのが戦争でしょうよ。
だから私は【戦場にかける橋】や【大脱走】の、無情すぎるラストが好きなんです。

アホらしい…!
戦争なんてアホらしい…!!
ぶつけようもない怒りに震えるほど、心底そう思えますやん。
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教科書通りの後日談がなくても視聴者はそれぞれの視点と感性で考察するのに、「答え」を与えてしまうことによって想像することなく完結しちゃいません?余韻もへったくれもあったもんじゃありません。
観る者の想像力を信じてくれていないんですよきっと。

ここさえなければホントに好きな戦争映画なので、私は敢えて後日談は観ないことにしてますけどね。絶対いらん。
映画【プライベート・ライアン】の感想一言
言うてもやっぱりスティーブン・スピルバーグ監督は観せ方がうまいですよね。
「泣くもんか泣くもんか…」って思いながら観ててもほとんどの作品でやっぱり泣いちゃいます。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。