1957年/イギリス、アメリカ/監督:デヴィッド・リーン/出演:ウィリアム・ホールデン、アレック・ギネス、ジャック・ホーキンス、ジェームズ・ドナルド、アンドレ・モレル、早川雪州、ジェフリー・ホーン、勝本圭一郎/第30回アカデミー作品・監督・脚色・主演男優・撮影・作曲・編集賞受賞
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↑今これ、普通に読みました?
いやいやいやいや読んでないよ。
絶対普通に読んでないわ。
絶対曲付きで脳内再生されてるはずやもん。
意味の無い後付けの3単語がエンドレスで繰り返されるこのテーマ曲をご存知の方は多いと思います。正式な曲名は“クワイ川マーチ”。この映画の大ヒットにより一気に世界中に広まりました。
運動会でもしばしば使用されるほど呑気で平和的な印象のテーマ曲とは裏腹に、戦争が無価値で無益で誰得であることをこれでもかというほど突き詰めた名画、【戦場にかける橋】です。
映画【戦場にかける橋】のあらすじザックリ
「橋」を巡るあれやこれや
「橋」をかけたい日本軍(斉藤大佐)
斉藤大佐(早川雪洲)が所長を務める捕虜収容所の使命は、「クワイ川に橋をかけること」。
いやそれにしても第二次世界大戦を扱ったアメリカ映画における日本人って、どれもこれも一貫して残忍で無能でジャッピーな感じで描かれるので本当まいっちんぐですよね。【パール・ハーバー】の山本五十六(マコ岩松)を観た時は吹き出したもんですよ。
あれに比べたら【戦場にかける橋】の斉藤大佐なんてマシな方か。マシどころか最初こそ横暴だったけど終盤にはすっかり丸くなっちゃって、まるでイギリス軍のニコルスン大佐(アレック・ギネス)の飼い猫みたいになっちゃうもんね。友好的ジャパニーズ。
残忍といえば早川雪洲 はアメリカのサイレント映画【チート(1915)】で、「肉体関係を拒んだ女性の首筋に焼き印を押し当てる」というスーパーサディスティックな日本人富豪を演じて欧米で人気を博した名優です。
【チート(1915)】出演時26歳。バリバリ東洋人の涼しい目元がカッコいい。
規律を守り妥協も甘えも許さないニコルスン大佐
斉藤大佐とタイマンはって勝利するのが大勢のイギリス軍捕虜を従えて収容所にやってきたばかりのニコルスン大佐。
急を要する橋建設の人材確保のため将校も労役に加わることを要求する斉藤大佐に、毅然ともの申します。
捕虜となった将校の労役はジュネーブ協定に反するから無理。
絶対やらへん。
参考 ジュネーブ条約=戦時国際法としての傷病者及び捕虜の待遇改善のための国際条約。戦地軍隊における傷病者の状態の改善に関する条約、または赤十字条約とも呼ばれる。
殴られようと蹴られようと飯抜きで幽閉されようと味方である軍医が説得しようと、テコでも譲りません。
労役に加わらねえと言ったら加わらねえ。
オラぜってえやらねえずら!
最終的には根負けした斉藤大佐から橋建設の指揮権を実質ぶんどってしまうニコルスン大佐。
軍人としてはすごい人なんだろうなあって思う反面、ニコルスン大佐みたいな人が退役してからどんな人生を送ったのか気になって仕方ありません。この融通の利かない頑固っぷりは平和な市民生活では浮いてしまうんじゃない?
この人見てると何となく【パットン大戦車軍団】や【我らの生涯の最良の年】が頭に浮かぶんだよね。
1970年/アメリカ/監督:フランクリン・J・シャフナー/出演:ジョージ・C・スコット、カール・マルデン、カール・ミヒャエル・フォーグラー、マイケル・ベイツ、エドワード・ヴィンス、スティーヴン・ヤング、マイケル・ストロング/第43回[…]
1946年/アメリカ/監督:ウィリアム・ワイラー/出演:マーナ・ロイ、フレドリック・マーチ、ダナ・アンドリュース、テレサ・ライト、ヴァージニア・メイヨ、キャシー・オドネル、ハロルド・ラッセル/第19回アカデミー作品・監督・主演男優・[…]
ニコルスン大佐本人も終盤で、いまや28年間の軍人生活に思いを巡らせては何のための人生だったのか自問する日々だと自ら明かしています。
戦時中はこんな「戦争狂スレスレ」の軍人がたくさん居たんでしょうね。
「生き抜くこと」が何よりも大切なシアーズ
【戦場にかける橋】の登場人物の誰かに成り代われ、と言われたら私は迷わずシアーズ(ウィリアム・ホールデン)を選びます。言動が一番まともでシンプル。
「将校」の厚待遇を受けたいがために戦死した「シアーズ中佐」を騙り(実はただの二等兵)、捕虜収容所での労役をさぼるために日本兵に賄賂を贈り仮病を使い、ついにはニコルスン大佐が止めるのも聞かず収容所からの脱走を図ります。
それもこれもたった一つの彼の信念のなせる業。
橋や軍律なんかどうでもええ。
一番大切なんは人間らしく生きることやろ。
みんな「勇気」って言葉に酔いしれてるだけや!
これに尽きるんですよホントに。
しんどかったら賄賂も仮病も使うでしょうよ。死にそうになったらなりふり構わず逃げるでしょうよ。
「分かる分かる」と頷く一方で、シアーズが軍隊では二等兵止まりだったことにも納得。私を含むこういう人種は自分が生きるためなら部下も戦友もほったらかして自分だけトンズラするもんね。そりゃあかんわなこんな上官。
でもニコルスン大佐とは反対に市民生活に戻ればその変幻自在の立ち回り方が評価されて出世するよきっと。
戦場に橋はかからず、払った犠牲は計り知れない
ニコルスン大佐を始めとするイギリス軍将校及び兵士達の尽力により、クワイ川をまたぐ橋は期日までに見事に完成。
クライマックスでは完成した頑丈そうな橋の周りに「橋を造った者」と「橋を破壊したい者」が各々の正義と信念と責務を胸に抱いて揃い踏むという珍妙な事態が起こります。
日本軍の捕虜収容所の所長。
その所長と友好的な雰囲気のイギリス軍大佐。
決死の思いで脱走した収容所へ戻ってきちゃったアメリカ軍二等兵。
命に代えても任務を果たそうとするイギリス軍少佐、その部下。
この状況…。
もうここまできてしまったらこの先、一体どうなったら正解なんや…。
正解が分からなくなったなら思いつく限り最悪のシナリオを想像してみましょう。
完成した橋に掲げられニコルスン大佐が満足げに眺めていた小板にはこう書かれていました。
せっかくドヤってたこの小板は、爆破された橋の残骸とともに虚しくクワイ川を流れて行きます。
ここで観客の心境をまるっと代弁してくれるのが、自分は軍人ではないと言う理由で丘の上から遠巻きに一部始終を眺めていた軍医クリプトン(ジェームズ・ドナルド)。橋の周辺の惨状を目にした観客はみんな彼と同じ気持ちになっているはず。製作側の意図するところとしては、その気持ちは正解であることがこのあとの軍医のセリフからうかがえます。
橋を造って…?
爆破して…?
通過する列車を乗客もろとも粉砕して…?
戦場でなくとも人が死ぬ…?
何やってんの自分ら。
てか「人類」。
映画【戦場にかける橋】の感想一言
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。