1946年/アメリカ/監督:ウィリアム・ワイラー/出演:マーナ・ロイ、フレドリック・マーチ、ダナ・アンドリュース、テレサ・ライト、ヴァージニア・メイヨ、キャシー・オドネル、ハロルド・ラッセル/第19回アカデミー作品・監督・主演男優・助演男優・脚色・編集・ドラマコメディ音楽・特別・記念賞受賞
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「帰還兵」と聞いて私が真っ先に思い出すのは、シルヴェスター・スタローン主演の【ランボー】です。ベトナムでのゲリラ戦で無敵を誇った男ジョン・ランボーが涙ながらにその心情を吐露する場面には号泣したもんです。
1982年/アメリカ/監督:テッド・コッチェフ/出演:シルベスター・スタローン、リチャード・クレンナ、ブライアン・デネヒー、ビル・マッキニー、パトリック・スタック、ジャック・スターレット注※このサイトは映画のネタバレしようが[…]
あっちはベトナム戦争、こっちは第二次世界大戦と、時代は違えどやっぱり兵役を終えて市民生活に戻った人々の苦悩や苦難ははかり知れません。
第19回アカデミー賞で9部門を受賞したウィリアム・ワイラー監督の名画、【我等の生涯の最良の年】です。
映画【我らの生涯の最良の年】のあらすじザックリ
同郷の3人の帰還兵が共に帰路につく
物語はフレッド・デリー(ダナ・アンドリュース)、アル・スティーブンソン(フレドリック・マーチ)、ホーマー・パリッシュ(ハロルド・ラッセル)という同郷の3人の帰還兵が、軍用輸送機に乗り合わせて帰宅の途につくところから始まります。
出身地が同じであるだけで年齢も所属部隊も階級も違う見知らぬ3人は、機内でそれぞれの戦場での体験談や故郷での暮らしぶりなどをざっくばらんに語り合い、打ち解けていきます。

面白いのは3人が3人とも、軍隊での階級と市民生活を取り巻く環境がまったく異なるという点。
軍隊で最も階級が高かったのは大尉のフレッド、次が軍曹のアル、そして海兵のホーマーと続きますが、市民生活においては、アルは管理人が常駐する高級マンションに住む富裕層、ホーマーは一般的な生活を営む中流家庭、フレッドは下町のほったて小屋に住む貧困層です。
そしてこの3人の中で復職に最も苦労するのはやはり貧困層のフレッドなのです。
軍での英雄的活躍も数々の勲章も、市民生活においてはまったく関係ないことがうかがえます。
事故で両手を失った海兵:ホーマー
3人の中で唯一独身で最も若い海兵のホーマーは、爆撃によって両手を吹き飛ばされ、義手になって帰ってきました。

軍病院でのリハビリの甲斐あって日常生活に困ることはほとんどないと本人は言いますが、息子のその手を見た母親は思わず泣き出し、息子の前で極力を手を使う動作をしないように意識しすぎる父親はよそよそしく、ホーマーは自分を腫物扱いする周囲の人間に嫌気がさしてみるみる心を閉ざしていきます。
でもですよ、「今まで通りでいいのに!」ってホーマーの言い分も解りますけど、親や友人の立場だったら絶対そうなっちゃいますよねえ?私だって息子が両手無くして戦争から帰ってきたら号泣してしまいますよ。ごめんねホーマー。
この問題に関してはホーマーの叔父さんのブッチがええこと言ってます。

そうなんです。無くなった手は戻ってきませんもん。慣れるしかない。
最初から全然ブレないウィルマの愛
3人で軍用機に乗っていた時のホーマーの心配事は、婚約者のウィルマ(キャシー・オドネル)がこの義手を見てどんな反応をするかということでした。
実際に会ってみると、少し驚いた表情は見せたものの、ウィルマはすぐさまホーマーに駆け寄り首に腕を回し抱きしめながら満面の笑顔で「おかえりなさい」と言ってくれます。
でも周囲の人間のよそよそしい対応から疑心暗鬼になっていったホーマーは、次第にウィルマの愛情すらも素直に受け止められなくなってしまいます。
自分とは一緒にならない方がいい。
勝手にそう思い込んでウィルマに冷たい態度を取るんです。

いよいよウィルマと別れてしまうのかという時、偶然再会したフレッドに背中を押されたホーマーは、ダメでもともととばかりに就寝前の自分の姿をウィルマに見せる決意をします。
服は脱げる。
パジャマも着られる(ボタンだけは無理)。
そして義手を外す。
ここからが問題。
当然ながらホーマーは、一旦義手を外してしまうと朝起きて誰かに付けてもらわない限りは身の回りの一切ができなくなってしまうのです。

…どないや?
僕と一緒になることがどんなけ大変か分かったやろ?
こんなもん序の口や。
他にもどんなけ苦労する場面があるか分かったもんやない。
この時のウィルマの表情は、愛する人の絶望的な告白を聞いているというのに【我等の生涯の最良の年】の中で最も良い演技なのではないかと思うほど素晴らしい。
これまで何の相談もしてくれず勝手に身を引こうとしていたホーマーを不安そうな顔でずっと見守っていたウィルマが、過酷な現実を突きつけられてようやく安堵の笑顔を浮かべるんです。
「なんやそんなこと心配しとったんかいな~」とばかりに、嬉しそうにホーマーのパジャマを整えベッドに横たわらせ、脇の椅子に丁寧に義手を置くウィルマ。
そしてホーマーに「愛してる。二度と離れない」と告げます。


ウィルマのぶれない愛がすごい!
そして後に行われる結婚式では、ホーマーが義手で上手に指輪をはめてくれるんですよ。
よかったねウィルマ、お幸せに!
元銀行員の富裕層・陸軍軍曹:アル
ところで、3人は軍用輸送機から降りたあとタクシーにも乗り合わせていて、ホーマーから順番に降りて行くんですよね?
まあホーマーは中流階級なんで一般的なアメリカンな一戸建てに住んどる訳ですよ。
次に家が近かったのがアル。これがホント笑っちゃう。

あれ?
アルって妻も子供もいるって言ってたのにホテル住まいなの?
って思わせといてまさかの、高級ホテルみたいなここが自宅!

めちゃくちゃ良いマンションに住んでるんですよ。
ロビーに高級ホテルの従業員みたいな人が常駐しててね。防犯対策もばっちり。
自宅に戻ると美しい妻に成長した娘と息子が出迎えてくれて、大好きな酒を浴びてご機嫌になり、出征前以上の役職で銀行員に復職…と、どうやらアルが3人の中で最も幸福で潤沢な人生を送っている感じです。
このアルの家を見た後に貧困層のフレッドの家なんか見てしまったら、ホントに気の毒すぎて薄ら笑いが止まりません(おい止めたれ)。

だってホントに風で吹き飛ばされてしまいそうなあばら家なんですもん。
数々の勲章を持つ陸軍航空軍大尉:フレッド
倉庫みたいな実家(止めたれって!)に戻ってきたのは3人の中で最も多く勲章をぶら下げているフレッド。
彼は出征の20日前に結婚していて、でも実家に残してきたはずの妻はどこぞのナイトクラブで働くために街へ引っ越して行ってしまったそうな。

ええ、「ナイトクラブ」。
なんだかもうオチが見えてきますよね?
想像通りの派手な妻が出てきた時はちょっと笑ろてしまいましたけど。

戦地での勲章も役に立たない再就職
フレッドは出征前はドラッグストアで売り子として働いていました。まあ若いし、バイトみたいなもんかな。
「ソーダ水売りに戻る気はない。もうちょっとマシな仕事を」と豪語していたものの、思った以上に就職に手こずって、結局元勤めていたドラッグストアに再就職することになります。それも軍から支給されていた賃金とは比べ物にならない安月給で…。

店主と面接している時のやりとりがシュールでやりきれない感が残ります。



何かもっと実用的なことは?
事務処理とか、救護経験とか…。

してません。
目的の場所に爆弾を運んで、落としてただけです。
来る日も来る日も。
爆弾落としてただけです。

なんとなく言葉を失いませんか?
フレッドはどういう気持ちで言ったことだろう、とか、逆に経営者だったらどう捉えたらいいだろう、とか。
でもこの下りは伏線になっていて、ラストでフレッドの親父が感動的に回収してくれますのでご安心ください。あっぱれです。
映画【我らの生涯の最良の年】の感想とまとめ
3時間弱の長い映画ですが、それぞれのドラマティックなロマンスやコメディタッチな笑える要素も散りばめられていて飽きることなく一気に観ることができる映画です。
ところでCGもなかった当時、ホーマーの義手ってどんな風に撮影したと思います?
気になりますよね。
実はホーマー役のハロルド・ラッセルは、本当に軍役中の爆発事故で両手を失った素人俳優なんです。
【我等の生涯の最良の年】でウィリアム・ワイラー監督に見出され、いきなりアカデミー助演男優賞と特別賞をW受賞しています。

海外の批評で「【我等の生涯の最良の年】はハロルド・ラッセルの演技以外は最高の作品だ」みたいに書かれているのを読んだことがありますけど、私は普通に「めっちゃ上手いなこの俳優…」って思いながら観てました。
“ホーマー”自体が周囲の目が気になってオドオドしてる設定のキャラクターなので、これはこれで全然違和感はありませんでしたけどね?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。