1981年/アメリカ/監督:マーク・ライデル/出演:キャサリン・ヘプバーン、ヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ、ダグ・マッケオン、ダブニー・コールマン/第54回アカデミー主演男優・主演女優・脚色賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
私の祖父母はもう4人とも死んでいますが、小さい頃は一緒に元気に遊んでくれていた祖父母が年々老いていく様子を見てなんだかもの悲しい気持ちになったもんです。体調が悪くなり昔のように生活できなくなっていく祖父母を見て、「年取るのって怖いなあ」て思ったこともあります。
でも年を重ねるごとにそんな「老い」に対する恐怖って弱まるものだと思ってました。「人生の終焉を自ずと悟る」と言うか…。
残念ながら、「悟り」なんて開かれないみたいです。
逆に死が近づけば近づくほど、いつ「その時」が訪れるのか、日増しに膨れ上がっていく恐怖心を騙し騙し生きていくしかないんでしょうね。
そりゃ怖いでしょう。
そりゃ悟りなんて開かれないでしょう。
誰だって死んだことなんてないんですから。
観ると分不相応にそんな哲学的なことを考えてしまう、人生の「黄昏」を迎えた一組の夫婦を描いた深い映画、【黄昏】です。
映画【黄昏】のあらすじザックリ
湖畔の別荘にやってきた老夫婦
今年も暑い季節を涼しい別荘で過ごすべく、2人の老夫婦が湖のほとりの別荘にやってきます。
のっけから思う存分びっくりしましょう。
そうです、この深く皺が刻まれた顔を惜しみなくさらしよぼよぼと歩く老夫婦は往年の名優ヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘプバーンです。
正直に言います。
それと知らなければ見る影もない、本当に余命いくばくもない老人ふたりです。それもこれも彼らの演技力のなせる業でもあるのでしょうが、特にヘンリー・フォンダなんて我が目を疑いました。
これがあのヘンリー・フォンダ?!
ヘンリー・フォンダ扮するかつては著名な人物であった夫の名はノーマン、キャサリン・ヘプバーン扮する快活な老婦人の名はエセル。
肉体的には衰えども機知に富んだ夫婦の会話と慣れ親しんだ別荘での生活力はまだまだ健在。老人2人でボートを操縦して対岸へ出かけ買い出しをしたり、山菜を採ったり魚を釣ったり、誰の手を借りることもなく余生を楽しんでおられます。
今年で80歳を迎えるノーマンの誕生日
今日はノーマンの80歳の誕生日。
偏屈もので知識人ゆえに少々高圧的なノーマンと確執があり、何年も家を出ていた一人娘のチェルシー(ジェーン・フォンダ)が遊びにきます。婚約者とその連れ子のビリー(ダグ・マッケオン)を連れて。
チェルシーの婚約者に対するノーマンの態度がホント酷い。
関西やったらウケ狙えるかも知らんけど、本人的にはちょっと若い衆をおちょくってるだけなんですけど、下手したら「ええ加減にせえよこの頑固ジジイ!」って殴られまっせ。
まあでも仲悪くてもいいんです。
このカップルは連れ子のビリーだけをノーマンとエセルに預けて(1ヶ月も!)、ヨーロッパ旅行に出かけますので。同居する訳でもないし、盆と正月だけ我慢すればやり過ごせるよ、うん。
年を取ればうまくいくこともある
そんな感じで「ああ言えばこう言う」性格が災いして大抵の大人とはまともに話もできないノーマンでしたが、本人も「孫の顔がみたい」と言っていたように子供に対しては少し勝手が違っていたようです。
しかもビリーは「ナンパが一番楽しいぜ!女の子ナンパしてゲットしてチューするんだぜ!」などとうそぶいてはいるものの、基本的には素直な少年。
山を散策したこともなければ湖に後ろ宙返りで飛び込んだことも、ボートで釣りをしたこともありません。
キラキラした素直な瞳で釣りや泳ぎやボートの操縦に没頭するビリーと接するうちに、頑なだったノーマンの態度も少しずつ軟化していきます。軟化どころか、ビリーにぞんざいなものの言い方をたしなめられてあっさり謝罪したり、終いにはビリーの真似して「チュー」だとか「ゲット」だとか若者言葉を使い出すのがめっちゃキュート。
こういった頑固なおじいちゃんって、コツ(?)さえ掴めばめっちゃおもろかったりしますよね。
妻エセルの名言
【黄昏】で米国アカデミー賞史上最多4度目の主演女優賞を獲得したキャサリン・ヘプバーン。
4度てホントすごいし、この人なら納得。
「米国アカデミー賞演技部門で史上最多4度受賞したのは史上キャサリン・ヘプバーンただ一人」と覚えておけば、【トロピック・サンダー/史上最低の作戦】でロバート・ダウニー・Jr扮するカーク・ラザラスの「アカデミー賞5度受賞」と言う無謀そうで現実にあり得そうなギリギリの設定に吹き出すことができますよ。
2008年/アメリカ/監督:ベン・スティラー/出演:ベン・スティラー、ロバート・ダウニー・jr、ジャック・ブラック、ブランドン・T・ジャクソン、ジェイ・バルチェル、マシュー・マコノヒー、トム・クルーズ注※このサイトは映画のネ[…]
もとい。
よぼよぼのノーマンよりはまだまだ元気そうな妻のエセル。
時折ボケてるような素振りを見せるノーマンは、自分の不手際で危うく別荘を火事にしてしまいそうになった事実をスルーして、水を運んでボヤを消火してくれたビリーを怒鳴りつけます。
ビリー!
床がびしょびしょじゃないか!
ノーマンの剣幕に驚き、ふてくされてるビリーに対して放ったエセルの名言が切ない。
ノーマンはあなたに怒鳴ったんじゃない。
自分の人生に怒鳴ったのよ。
老いたライオンのように「自分はまだ吠えられる」って確認したいの。
私に限らず誰だって今以上に年を取ったことなんてないんですから、年老いて今までできていたことができなくなったり、自分が厄介者だと知ってしまった時のショックってどんなだろうって想像してしまいますけど、そんなもんいくら考えてみたところで実際に年を重ねてみないと分かったもんじゃありません。
ただひとつ確実なのは、エセルのようなパートナーが連れ添っていてくれれば晩年は最高!ってこと。
オープニングで「老いって怖い…」と認識させ、観終わる頃には恐怖は和らぎ「こんな風に最後を迎えたい…」と思わせてくれる大事な映画です。
死ぬまでに、50代、60代、70代…と、10年に一度くらいは鑑賞し続けたいですね。
ヘンリー・フォンダとジェーン・フォンダ
ちなみに【黄昏】でノーマンとチェルシー親子を演じたヘンリー・フォンダとジェーン・フォンダは実の親子。
実生活で母親を差し置いて浮気をしていたヘンリー・フォンダを、娘のジェーン・フォンダ(と弟のピーター・フォンダも)は長い間受け入れることができませんでした。その後父娘は和解し、“名優”と呼ばれながらも米国アカデミー賞演技部門とは無縁であった父のために、ジェーン・フォンダは原作の戯曲「On Golden Pond」の映画化権を買い取り、見事父親に主演男優賞をもたらしたのです。
そしてこのアカデミー賞授賞式の5ヶ月後にヘンリー・フォンダは死去。
製作にまつわる背景を知ると、ラストの「ノーマン」と「チェルシー」の抱擁がさらに感動的なものに映ります。
映画【黄昏】の感想一言
若い人にはきっと全然ウケない映画なんやろうなあ…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。