1957年/アメリカ/監督:シドニー・ルメット/出演:ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ、マーティン・バルサム、ジョン・フィードラー、E・G・マーシャル、ジャック・クラグマン
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
96分間の上映時間のうち、90分くらい(適当)は たった1部屋の陪審員室の中で物語が繰り広げられる密室劇の金字塔。
登場人物とて同じく、裁判官や係員などを除いては最初から最後まで、1つの裁判に対する12人の陪審員しか出てきません。
しかし手に汗握りますよ。
色んな感情が渦巻きますよ。
お涙ちょうだいもありますよ。
名画です。万に一つもハズれることはないでしょう。未視聴の方は是非ご覧ください。【十二人の怒れる男】です。
映画【十二人の怒れる男】のあらすじザックリ
有罪:11人、無罪:1人
事務的にエレベーターに乗り込む青年、悲壮な表情で足早に通り過ぎる初老の男性、満面の笑みで友人達の元へ駆け寄り喜びを分かち合う若者、それを「お静かに」とばかりに注意する係員…そうここは色んな問題を抱えた人々の感情渦巻く裁判所。
この日集まった12人の陪審員が評決を下さなければならないのは、父親殺しの容疑がかかった少年の裁判。証拠も証言も被告人の少年に圧倒的不利な状況で、誰もが有罪と確信しています。
さっさと任務を終わらせようと、まとめ役を買って出た陪審員1番(マーティン・バルサム)が手っ取り早く有罪無罪で挙手を促します。
はいはい、有罪12…あれ?11人…。
えっと…
じゃあ、無罪だと思われる方…?
ただ一人無罪に手を挙げたのは陪審員8番(ヘンリー・フォンダ)。
弁護士でも検察官でもなんでもない、一介の建築士である彼が、ことごとく検察側の証拠や証言を覆していくのです。
陪審員8番にも確信があった訳ではない
この時点ではこの陪審員8番も、「無罪である」ではなく「話し合いたい」と言っています。決して被告の少年が無罪であると確信している訳ではないのです。
しかし不確かな情報だけで一人の少年を電気イス送りにしていいのか疑問だと言っています。
真相は視聴者にも誰にも分からない
【十二人の怒れる男】は密室劇でスリルを味わうことができると同時に、この殺人事件の真相が全く描かれていない点がすごい。容疑者の少年は一瞬しか映らないし、回想も一切出てきません。ストーリーテラーもいません。誰も教えてくれません。
もしかしたら本当にこの少年は殺人犯かも知れない。陪審員8番は殺人犯を無罪にしようとしているかも知れない。その可能性は自分でも口にしています。
しかし陪審員8番が無罪を主張する理由は「分からない点が多いから」。結局謎なんです。無罪と言うよりは「有罪ではない」って感じ?
とにかく確証もなく人の人生を終わらせてしまっていいのかと、終始彼は他の11人の陪審員達と視聴者に問いかけています。
有罪:8人、無罪:4人
検察の示した不完全な証拠や証言について一つ一つ理路整然と所感を述べ、陪審員達の有罪の意識を覆していく陪審員8番。
無罪支持者が4人にまで増えた頃には、「人が倒れる物音を聞いた後、逃げていく少年を目撃した」という老人の証言の信憑性を疑い、物理的に検証してみせます。
結果、老人が証言通りの行動をすることは不可能であることが実証されます。
有罪:3人、無罪:9人
順調に無罪支持者が増える中、大多数の人が「コイツらは手ごわいやろな~」と感じた通りの人物が残るでしょう。
ややこしいのは陪審員3番(リー・J・コッブ)と陪審員4番(E・G・マーシャル)と陪審員10番(エド・ベグリー)。
陪審員10番
この12人の中で最も知能が低いのが陪審員10番。工場経営者で偉そうにしてるけどまるでバカ。私から見たってバカ。やーいバーカバーカ。
貧困層差別や人種差別しまくり。有罪を支持する根拠は「スラム育ちの子供だから」「あーゆー輩は人なんて簡単に殺しよる」「スラムの人間を世に放ってはいかん」。
ね?バカでしょ?
次第に全員が陪審員10番の言うことには一切耳を貸さなくなり、はい退治完了。バーカ。
陪審員4番
陪審員8番に負けず劣らず冷静沈着。声を荒げることなく、明確な根拠を持って有罪を主張しています。ゆえに、その根拠が覆された時、素直に意見を変えてくれます。
陪審員3番
最高ですよねリー・J・コッブ。【波止場】で波止場を牛耳ってたマフィアのボスです。
1954年/アメリカ/監督:エリア・カザン/出演:マーロン・ブランド、エヴァ・マリー・セイント、カール・マルデン,リー・J・コッブ、パット・ヘニング、マーティン・バルサム、リーフ・エリクソン/第27回アカデミー作品・監督・主演男優・[…]
強面は【十二人の怒れる男】でももちろん健在。自分の意見が通らないとすぐに声を荒げる熱血漢。…いやこーゆーの熱血漢とは言わへんな。言うたらただのイチャモンつけの輩です。
しかし最後までたった一人で有罪を主張しつつも、「父親殺しの少年」と「家を出た(自分の)息子」を計らずも重ね合わせて意固地になっていた自分に気付き、「無罪だよぉ~…」と泣き崩れる場面はやばい。
リー・J・コッブの鬼気迫る演技に絶対泣けるし、今までの悪行(大袈裟)をすべて許して「よしよし」って言ってあげたくなります。
有罪:0人、無罪:12人
結局陪審員たちは不可解な点が多過ぎたこの裁判に、「容疑者の少年は無罪」という評決を下します。
議論の後、陪審員達がそそくさと部屋を出ていく様子をクローゼットの中から映し出す演出も秀逸。一人ずつ上着を取って行くことで次第に視界が開け、最後には陪審員8番と陪審員3番、そして陪審員3番の上着だけが残ります。
そしてようやく狭く暑苦しい陪審員室から外へ出た陪審員達は各々の目的地へ向うのです。
雨上がりの空にチラリと目をやり、裁判所の階段を颯爽と降りていく陪審員8番と、トボトボとうなだれた様子で階段を降りる陪審員3番の対比が印象的。
評決を聞いて、容疑者の少年はどう思ったのでしょうか。嘘の証言をしていたかも知れない証人の老人はどんな気分でしょうか。
スタイリッシュにまとめられ多くを語らない映画ゆえ、様々な思いを巡らせ一生忘れられない名画となること間違いなしです。
映画【十二人の怒れる男】の感想一言
紆余曲折ありましたが、納得のいく結論に達したあとは陪審員全員が、外に出た時の晴れ渡った空のような気持ちで家路についたのでしょうね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。