1952年/アメリカ/監督:チャールズ・チャップリン/出演:チャールズ・チャップリン、クレア・ブルーム、バスター・キートン、シドニー・チャップリン、ナイジェル・ブルース、ノーマン・ロイド、マージョリー・ベネット、ジェラルディン・チャップリン、ジョセフィン・チャップリン、マイケル・チャップリン/第45回アカデミー劇映画作曲賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
“笑い”の中に“哀愁 ”が香ることで知られるチャールズ・チャップリンの映画の中でも、特に“哀愁”の比重が大きすぎる映画。
比重が大きいどころじゃないな、この映画で笑える箇所といえばバスター・キートンがピアノの楽譜を何回も落とす場面くらいのもんです。
ほぼ“哀愁”!?
しかも笑える箇所チャップリンじゃないし!
いやホンマですよ。ちゃんとレビュー残しておこうと思ってまた観たんだけど、ホントは哀しすぎてつらいからあんまり観たくないんやて。
「哀しい」って言っても心地いいんだけどね(どっちやねん)。
「観たくない」って言っても観ちゃうんだけどね(どっちやねん)。
定期的に心地いい胸の痛みに酔いしれて心の浄化をはかりましょう、【ライムライト】です。
映画【ライムライト】のあらすじザックリ
素顔のチャーリー、自殺女子を救う
チャーリー(※チャールズ・チャップリンの愛称)の素顔が初めてスクリーンに映し出された映画。
【ライムライト】でチャーリーが演じるのは、すっかり落ちぶれて酒浸りの日々を送る元人気喜劇俳優カルヴェロ。
アパートの鍵穴も分からないくらいにべろんべろんに酔っ払って帰ってきたある日の午後、カルヴェロは自室の真下のガスが充満した部屋で動かなくなっている女性を見つけます。カルヴェロはべろんべろんの千鳥足ですぐさま医者を呼び女性を自室へ運び込んであげます。
テリー(クレア・ブルーム)という名のその女性はバレリーナであるらしい。リウマチのため脚が動かなくなってしまったことを苦に自殺をはかった模様。
テリーを哀れに思い介抱するうち、カルヴェロはいつしか彼女に生きる喜びを見出させることが生き甲斐となり、実際はどっちが救われてるんだかよく分からないことになるお話です。
カムバックは果たせず、テリーの才能が花開く
何が哀しいってカルヴェロの助力でみるみる回復して再びバレエの主役に抜擢されるテリーとは対照的に、「まだまだイケる」と思い込んでるカルヴェロの芸はちっとも冴えず、もはや終わった芸人だと認識せざるを得ないこと。
そして年甲斐もなく愛してしまったテリーから愛を告白されようが逆プロポーズされようが、「自分はふさわしくない」と身を引くしかできなかったこと。
芸(舞台)の世界では若く力強いテリーには敵わず、私生活では愛した女性の愛に応えることもできない。極めつけがコメディアンなのにおもろない。
救いようのない三重苦の道化師がここにいるんです。
ダメよチャーリー、観てらんねーわ。
「自伝」じゃないんだけどね?【ライムライト】は公式に「チャーリーの自伝」と謳われているわけじゃないんだけど、よ?
チャーリーが「喜劇役者カルヴェロ」に自身の半生を投影していることは誰の目にも明らかで、還暦も過ぎたチャーリーが一体どんな複雑な思いでこの【ライムライト】を制作したのかって想像すると哀しみが押し寄せてきますやんか。
大丈夫だってチャーリー。
あなたは天才だって。
「アメリカ」だってあなたが大好きだったんだって。
バスター・キートンとの初共演
カルヴェロがいくつか披露するネタも、哀情ばかりが伝わってきて私は全然笑えません。
「ノミの夫婦」?大丈夫なのそのネタ?ウケる?イケる?
観客の皆さん、笑って!笑ってあげてお願い!
挙句には「笑ってあげてください」って祈りだす始末。
でもこれは私に限ったことではなくて、テリーもカルヴェロのために“さくら”を準備したりするんですよ。「カルヴェロの芸で笑ってあげてくださいね」って。
やめてお願い!
もう隠居して!
そういう意味ではこれがチャーリーとの初共演となったバスター・キートンのボケだけは安心して観ることができます。この人の芸にはもともと“哀しみ”なんて微塵も感じられないからね。
(楽譜)バラバラバラバラバラバラバラバラ………。
(あ……)
(楽譜)バラバラバラバラバラバラバラバラ………。
(楽譜)バラバラバラバラバラバラバラバラ………。
(楽譜)バラバラバラバラバラバラバラバラ………。
チャップリンファミリー総出演
余談ですが【ライムライト】にはチャップリンの子供達がたくさん出演しています。
テリーに想いを寄せるネヴィルはチャップリンと二番目の妻で女優のリタ・グレイとの間の次男坊シドニー・チャップリン。雰囲気ある良い演技を見せますけどコメディアンには向かなさそうな普通の二枚目。
冒頭でべろんべろんに酔っ払ったカルヴェロに声をかけるのは、四番目の妻ウーナ・オニールとの子供達(一番お姉さんなのがジェラルディン・チャップリン、男の子がマイケル・チャップリン、女の子がジョゼフィン・チャップリン)。
※チャーリーとウーナ・オニールとの間には8人の子供がいます。
チャーリーの子供達の内、父の威光を借りずして最も成功したのがこのジェラルディン。
母親のウーナ・オニールにそっくりの顔の造形はこの頃からすでに出来上がっていたんですね。【ドクトル・ジバゴ】で主人公ユーリ・ジバゴ(オマー・シャリフ)の妻トーニャを演じた時と同じ顔。かわいい。
1965年/アメリカ・イタリア/監督:デヴィッド・リーン/出演:オマー・シャリフ、ジュリー・クリスティー、ジェラルディン・チャップリン、アレック・ギネス、ロッド・スタイガー、トム・コートネイ、ショブハン・マッケンナ、ラルフ・リチャー[…]
映画【ライムライト】の感想一言
何にもめでたいことはございません。
第45回アカデミー賞っつたらあなた、1973年ですよ?
【独裁者(1940年)】以降、アメリカで「好ましからざる人物」とされていたチャーリーは、【ライムライト】を最後にアメリカを離れ(事実上の国外追放)、その後1972年にアカデミー名誉賞を受賞するまでアメリカに戻ることはありませんでした。その翌年のオスカーでようやく【ライムライト】が受賞。
【ライムライト】がアメリカで正式に認められるまでに約20年もの歳月を要しているんです。
なんだかんだ言って一度はアメリカの市民権を放棄したチャーリーも20年後にオスカーを受賞した時は嬉しかったのかも知れませんけど、そんなもんボイコットしてやれば良かったのにって思います。
だって私は作中のカルヴェロのセリフのように、時間が導き出す結末を大きな心で捉えることができない狭量な人間だもの。
「時は偉大な作家だ。常に完全な結末を描く」
出典:【ライムライト】字幕
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