1927年/アメリカ/監督:アラン・クロスランド/出演:アル・ジョルソン、メイ・マカヴォイ、ワーナー・オーランド、ユージニー・ベッセラー、オットー・レデラー、リチャード・タッカー/第1回アカデミー名誉賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

いくら私が初老と言えど、往年のシンガーと言えばビング・クロスビー(1903-1977)かフランク・シナトラ(1915-1998)かエルヴィス・プレスリー(1935-1977)か…、せいぜいこのくらいしか思いつきません。今挙げた3人のうちシナトラ以外は私が産まれる前に他界していますしね。“キング・オブ・ポップ”マイケル・ジャクソン(1958-2009)は「往年のシンガー」とは言わないし。
増してや戦前のブロードウェイの大スター、アル・ジョルソン(1886-1950:古い記録だと「アル・ジョルスン」ってなってる)のことなんて全く知りませんでした。
本日の映画を観て初めて彼を知り、同時に偉大なシンガーである彼の功績がどうして後世におっぴろがらなかったのかが分かってしまったんですよ。
ハッピーエンドの素敵な物語なのに鑑賞後のモヤモヤは避けられない哀しい映画、【ジャズ・シンガー(1927)】です。
映画【ジャズ・シンガー(1927)】のあらすじザックリ
“世界初”?の長編トーキー
定義によって線引きが変わることがあるんですけど、一般的に【ジャズ・シンガー(1927)】は「世界初のトーキー」とされる映画です。
でも完全全幕トーキーの長編映画【紐育の灯】が出来上がるのはもう少しあとのこと(1928年)。
【ジャズ・シンガー(1927)】はほとんどがサイレント映画形式になっていて、アル・ジョルソンの歌唱部分とほんのちょとのセリフのみがトーキーである「ハーフ・トーキー」と呼ばれる代物です。

差し当たってアル・ジョルソンの「Wait a minute, wait a minute. You ain’t heard nothin’ yet!(待ってくれ!お楽しみはこれからだ!)」という言葉が長編映画で初めて発せられたセリフ(「歌唱」じゃなくて)とされています。
こちらは「AFIアメリカ映画の名セリフベスト100」にもランクインするほど有名なセリフです。
トーキー時代の幕開けのセリフがおあつらえ向きに「お楽しみはこれからだ!(あなたはまだ何も聞いてない!)」だなんて奇妙ですよね。これは狙ってのセリフだったのかしら?
黒塗りメイクで歌うアル・ジョルソン
原作は公開時すでにブロードウェイのスターだったアル・ジョルソンをモデルにした短編「贖いの日」。それを舞台用に脚色したものをさらに映画化したのが【ジャズ・シンガー(1927)】。
ユダヤ人のジェイキー・ラビノウィッツ(アル・ジョルソン)は5代続くユダヤ教の司祭の一人息子。でも神から授かった美しい声で彼が歌うのは賛美歌ではなく流行りのジャズ。ジェイキーが酒場で歌っていることを知った厳格な父親(ワーナー・オーランド)は、息子を勘当してしまいます。

ジェイキーは愛する母親(ユージニー・ベッセラー)と別れる辛さを乗り越え、大舞台で歌いたいという夢のため「ジャック・ロビン」というアメリカ風の名を名乗り、故郷ニューヨークのユダヤ人街から5,000kmも離れた地でチャンスを待つのでした。
冒頭に書いた「彼の功績が後世に残らなかった理由」はきっと、このあとの展開をご覧になればお分かりになると思います。
先輩舞台女優メアリー・デイル(メイ・マカヴォイ)に見初められたジャックが夢のブロードウェイの大舞台に立った時、彼の顔も手も靴墨で真っ黒でした。

もちろんいじめられている訳ではありません。
作中でアル・ジョルソンが施すかつてのミンストレル・ショーじみた「ブラックフェイス(黒塗りメイク)」は、物語の展開上必要だったというよりはアル・ジョルソン本人の持ちネタだったみたいですね。まあ原作が彼自身をモデルにしてますから当然そうなるんでしょうけど。
参考 ミンストレル・ショー=顔を黒く塗った白人によって演じられた、踊りや音楽、寸劇などを交えた、アメリカ合衆国のエンターテインメントのこと。
当時としてはまったく問題なかったものの黒人差別を助長するようなこの演出を持ちネタとしていたアル・ジョルソンの名声は、彼の死後、時代の移り変わりとともに自ずと表舞台から遠ざかってしまったみたいです。

道理でこの映画以外でアル・ジョルソンの名を聞いたことないはずだわ。
もしかしたらもうすぐ【ジャズ・シンガー(1927)】を視聴することすらできなくなるかも知れませんね。観たい人はメディア入手しといた方がいいかもよ?

映画【ジャズ・シンガー(1927)】の感想一言
アル・ジョルソンが控室で黒塗りメイクを始める場面にはドキッとします。その後ブラックフェイスで舞台に立ち歌い出そうもんなら心臓バクバクしっぱなし。
なんでって?
だって幼い頃TVで普通にシャネルズが歌っているのを見ていた世代である私は、「黒塗りメイク」に対する罪の重さがよく分からないんです。だから素直に「良い映画だった!」って言っていいのか「こんな映画は害悪だ!」って言わなければならないのか判断できなくて心拍数が上がってしまうんです。こればっかりは「作品に罪はない」とか言って避けられる問題じゃありませんしね。
何があろうと“坊や”を思うママは素晴らしいし、息子の前で素直になれないパパの気持ちも、恋人の成功を祈るメアリーの気持ちもよく伝わってくる良い映画…だよ?
って、言っていいの?
参考 シャネルズ=ラッツ&スターの前身。メンバー全員が顔に黒塗りメイクを施していた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。