1948年/イタリア/監督:ヴィットリオ・デ・シーカ/出演:ランベルト・マジョラーニ、エンツォ・スタヨーラ、リアネーラ・カレル、ジーノ・サルタマレンダ/第22回アカデミー名誉賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

仕事してます。
毎日しんどいけどフルタイムでしっかり働いてます。
毎月雀の涙だけど給料きっちりもらってます。
読まなくなった漫画や聴かなくなったCDを売ったことくらいはあるけど家財道具を質屋に入れて生活費の足しにしたことなんかありません。
美味しくはないけど(←料理下手)毎日お腹いっぱいご飯食べてます。
持ってないけど必要であればチャリくらいいつでも買えます。
でも仕事がなくなったら…?
無職のまま貯金が底をついたら…?
いったいどんな生活が待ってんの?
想像もつきませんよそんなもん。私みたいな甘ったれは一発で野垂れ死ぬわ。
いやあかんねん。それではあかんねん。自分のため家族のため、なんとしてでも仕事をして報酬を得て生き抜かなあかんねん。
自分に戦後の混沌とした世の中を生きる力が備わっているのか考えさせてくれる名画、【自転車泥棒】です。
映画【自転車泥棒】のあらすじザックリ
戦後のイタリア、職業安定所に群がる男たち
舞台は第二次世界大戦後のローマ。職業安定所には職を求める男たちが群がっています。

えー…リッチさん。
アントニオ・リッチさんはおるか?

この日、職員のおっさんに名前を呼ばれ、ついに2年間無職だった二児の父アントニオ・リッチ(ランベルト・マジョラーニ)はポスター貼りの仕事を得ることができました。しかも毎月の給料の他に家族手当も残業手当もつくという好条件のお仕事。
ただし、⸻「自転車必須」。
採用条件「自転車を持ってる方に限る」
アントニオは生活のために自転車を質に入れてしまっていました。
自宅に戻り妻のマリア(リアネーラ・カレル)にこのことを話すと、マリアは一目散にベッドのシーツをはぎ取り、アントニオはそれを売ったお金で質屋から自転車を買い戻し、晴れて職に就くことができたのです。

持ち帰った自転車を息子のブルーノ(エンツォ・スタヨーラ)にメンテナンスしてもらって(アントニオより詳しいらしい)浮かれるアントニオ。
翌日にはマリアが作ったお弁当のオムレツを持って2年ぶりのご出勤です。

良かったよ。本当に良かったよ(すでに半泣き)。
チャリの有無が死活問題となる時代
さっそく街へ出て、先輩に教えてもらった通りに糊と刷毛でポスターを貼ってゆくアントニオ。
ちなみに記念すべき初出勤の日にアントニオが貼るのは1940年代のハリウッドを代表するセックスシンボル、リタ・ヘイワースのポスター。

剥がして持って帰りたい。
1946年/アメリカ/監督:チャールズ・ヴィダー/出演:リタ・ヘイワース、グレン・フォード、ジョージ・マクレディ、ジョゼフ・カレイア、スティーヴン・ジェレイ、ジョー・ソーヤー注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気に[…]
さてそんな生活再建の希望が見えた矢先、アントニオがはしごに乗ってポスターを貼っているまさにその時、見知らぬ男が傍らに停めてあった自転車に乗って走り去ります。当然「泥棒や!自転車泥棒や!誰か捕まえてくれ!」と叫んで追いかけるアントニオでしたが、自転車はあっという間に雑踏の中に吸い込まれて消えてしまいます。
警察に届け出ても「盗難届は受理しました。あとは自分で探してください」って言われるだけ。

失意のアントニオはブルーノを連れてローマの街を奔走し、自力で自転車を取り戻そうとします。
盗品が売られていそうな市場を歩き回り(分解されて売られてる可能性もあるからシャレにならない)、胡散臭い“聖女様”に自転車の在り処を占ってもらい(「すぐに見つかるか、一生見つからないか」って当たり前のことしか言わない)、犯人と背格好が似た若者に詰め寄るなど、疲労に押しつぶされそうになりながら必死に捜索するものの、一向に手がかりは見つかりません。


あかん、もう無理や…。
チャリ見つからへん。
もう一台買う金なんてない。
いきなり仕事クビや…。
また無職や…。
追い詰められトボトボと当てもなく街を歩くアントニオの目に飛び込んできたのは、スタジアムの前に停められている大量のチャリ。

そしてその脇の静かな路地に停められている一台のチャリ。


オールロケで撮られたネオレアリズモの金字塔
【自転車泥棒】は、戦後イタリアの貧困と社会の不条理を背景に、父と子の絆を描いた傑作です。ネオリアリズモの代表的作品として映画史に名を刻んでいます。
参考 ネオレアリズモ=第二次世界大戦後のイタリアで興った映画における現実描写とその作品群の呼称。民衆を表現の主体に、レジスタンス活動・労働争議や貧困をテーマとし、現実社会を客観的かつドキュメンタリー風に描き出した。
前述したようにプロットはごくシンプル。貧困にあえぐとある親子の数日間を描いているだけであるにもかかわらず、父親の尊厳と家族の絆という普遍的なテーマを深く掘り下げています。

やっと仕事にありつけたと思ったのに縁もゆかりもない誰かの手によって再び奈落の底に叩き落されるアントニオ。
アントニオとブルーノが盗まれた自転車を捜して東奔西走する姿が象徴するのは、この親子だけでなく戦後の貧困層みんなが直面していた現実と、たった一台のチャリの価値。
たった一台のチャリのために、善良な父親が犯罪に手を染めてしまうだなんて…【自転車泥棒】には現代の世を生きる恵まれた私には信じられない世界が広がっています。
主人公を含む大半のキャストが非俳優
【自転車泥棒】の出演者のほとんどは素人さんです。主人公アントニオ役のランベルト・マジョラーニは電気工のお兄ちゃん、ブルーノ役のエンツォ・スタヨーラはヴィットリオ・デ・シーカ監督がそこら辺で見つけてきた普通の子供(自転車泥棒役のヴィットリオ・アンヌッティだけは本物の俳優だそうです)。
嘘みたいでしょ?ローマのそこら辺の子供ってキャメラの前でこんな表情できんの?

スタジオを使わずオールロケで行われた撮影も功を奏す。

非俳優のリアルな演技もローマの荒廃した街並みもすべて現実のもの。
観る人によっては少々地味に感じられるかも知れませんが、家族のために貧困の時代を生き抜こうとした父親とそんな父親を曇りなき眼で見つめる息子を描いた人間の本質に迫るドラマは、公開後何年経とうと色褪せることはないでしょう。
映画【自転車泥棒】の感想一言

提案やけど、最初の給料が出るまでの1ヶ月だけでも雇い主から自転車を借りて仕事する、てのは無理なん?次の給料で自転車買うやん。それまででいいから貸してや。
無理か、雇い主も余分な自転車なんか持ってないからこそ採用条件に「チャリ持ってる奴」って入ってんのやろな…。
しかしなんでよりによってアントニオのチャリ盗るんな。スタジアムの前に鬼ほどチャリ停まってたやん。どうせスポーツ観戦なんかしとられる裕福な連中が停めてんのやろ。
あっこから盗ったらええやん。いっぱいあるやん。


でもだから、なんでよりによって2年ぶりに仕事に就けて喜んでるアントニオのチャリ盗るんな。
なんで今朝意気揚々と家を出たアントニオとブルーノが今度は泣きながら家帰らなあかんのんな。
不条理な社会を目の当たりにして涙が止まらなくなる傑作です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。