1967年/アメリカ/監督:ノーマン・ジュイソン/出演:シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー、ウォーレン・オーツ、リー・グラント、ラリー・ゲイツ、ジェームズ・パターソン、ウィリアム・シャラート、ピーター・ウィットニー/第40回アカデミー作品・主演男優・脚色・音響・編集賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
私が初めてシドニー・ポワチエに出会った映画です。
黒人ハリウッド俳優の先駆者であるシドニー・ポワチエの演技力と存在感は半端なかった。そりゃね、満場一致でアカデミー主演男優賞獲るよホント、うんうん。
ってうそ~ん!!
ポワチエちゃうんか~い!!
田舎警察のカタブツ署長役のロッド・スタイガーもそりゃ良いけどさあ…クレジットも1番に来てるし「主演男優」ってシドニー・ポワチエちゃうのん?
「黒人だから」という理由で受賞できなかった訳じゃないはず。この時すでにシドニー・ポワチエは【野のユリ(1963年)】で黒人初のオスカーを獲得していますから。なんで今回は獲れなかったんでしょうねえ。
列車の乗り継ぎで降り立っただけの小さな田舎町で、ガンッガンに差別を受けながらも深夜に起こった殺人事件の解明に乗り出す勇気ある敏腕黒人刑事を描いたサスペンス映画、【夜の大捜査線】です。
映画【夜の大捜査線】のあらすじザックリ
田舎町で起こった殺人事件
ある晩、パトロール中のおちょけた警察官サム(ウォーレン・オーツ)が道路に転がる遺体を発見。遺体は町に工場を建設中の有力者のもので、頭部を殴られ殺害された模様。
警察署長のビル(ロッド・スタイガー)や町の医者が集まって、すぐさま容疑者探しが始まります。
人っ子ひとり見当たらない明け方の町をぶらぶらと捜索するサムは、近くの駅のベンチに腰掛ける黒人男性を見つけます。
人種差別が酷いこの町にいる黒人といえばプランテーションで働く奴隷くらいのもの。
偶然遺体発見現場の近くに居合わせたこの男性は、「よそ者の黒人である」という理由だけで有無を言わさずビル署長の前にしょっぴかれてしまいます。
ところが実は黒人男性バージル・ティッブス(シドニー・ポワチエ)は、フィラデルフィア警察殺人課のやり手の刑事。
【夜の大捜査線】における人種差別はこの誤認逮捕だけに止まらず、全編に渡ってチクチクチクチクしつこく鬱陶しく描かれます。そんな不当な扱いには慣れてますとばかりにブチ切れることなく冷静にいなすバージルに感服。
でもバージルだって内心メラメラと闘争心をたぎらせているのが見て取れます。
その証拠にラストで清々しい笑顔を見せてくれるまで、バージルはほとんど下の画像のような表情。
語らずとも目の奥にたぎる自尊心と闘争心は隠せません。
嫌味ったらしく「フィラデルフィアではなんて呼ばれてんねん」と聞かれたバージルが、殴りかかるでもなく喚き散らすでもなく低い声で静かに絞り出すセリフは「AFIアメリカ映画の名セリフベスト100」の16位にランクインしています。
They call me Mister Tibbs!
(ミスター・ティッブスだ!)
参考 AFI=アメリカン・フィルム・インスティチュート。1967年に設立されたアメリカ合衆国において「映画芸術の遺産を保護し前進させること」を目的とする機関。
おはこんばんちは、朱縫shuhouです。 アメリカの映画団体AFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が1998年から(ほぼ)1年毎に発表し始めた「アメリカ映画100年シリーズ」。ライン[…]
命を賭けて犯人逮捕に尽力するバージル
最初の誤認逮捕の時点で相当頭にきているバージルは、一度はこの殺人事件に興味を持つものの、署長らの横柄な態度に呆れ果て予定通り始発列車に乗って帰ろうとします。
しかし自分の上司であるフィラデルフィア警察署長から協力するように言われたことと、被害者の妻が「黒人の刑事さんに捜査をしてもらいたい」と市長に願い出たことで、「しぶしぶ」捜査に加わります。
「しぶしぶ」ね。
最初はね。
こうして「よそ者の黒人」であるバージルは列車の乗り換えのために立ち寄っただけの小さな町の殺人事件の調査に乗り出すわけですが、とにかくもう バージルに対して公然と行われる人種差別がウザいのなんの。
こんなずさんな捜査ではダメだと警官らに忠告しても聞き入れられず。
食堂では注文すらさせてもらえず。
よそ者だし?
黒人だし?
観ているこっちが「お前らええ加減にしなはれや」って腹立ってくるレベル。
そんな中、容疑者の一人である綿花農園の経営者エンディコット(ラリー・ゲイツ)に聞き取り捜査を行った際、ついにバージルの堪忍袋の緒が切れます。
バージルの黒人らしからぬ不躾な態度に腹を立てたエンディコットに頬を打たれた瞬間、エンディコットをシバき返してしまうのです。
怒髪天を衝くばかりのバージルはすぐさま農園を後にし、「黒人が白人に歯向かう」という当時のアメリカ南部ではありえない大罪を犯した自分を怒鳴りつける署長もなんのその、今までは「しぶしぶ」だった事件解決に自ら意欲を燃やし始めます。
エンディコットが犯人や!
絶対証拠をあげたるからな!
お前…
そんなとこも「俺ら」にそっくりやな!
「『俺ら(=白人)』にそっくり」って…「復讐心に燃えるところ」が?
「頬を打たれて腹を立てるところ」がそっくりってこと?
逆説的に言うと、「白人に頬を打たれようが何されようが腹も立てない(腹を立ててはいけない)のが黒人」てこと?
映画のそこここに同じ「人」とは思えないしょうもない発言が散りばめられていて鬱陶しいったらありゃしねえ。
バージルと署長の間に生まれた奇妙な友情
【夜の大捜査線】は、殺人事件の謎自体は言うてしまえば大したことありません。
めちゃくちゃ暗示にかかりやすくて手品とかトリックとか全然見抜けない私でもすぐに真犯人分かりましたし。
殺人事件の謎そのものではなく「黒人の敏腕刑事」が「差別ガンガンの田舎警察に協力する」という2つのファクターがそろって初めて名作となり得ています。
警察署長ビルの、「ぶっきらぼうさゆえの孤独」も大事な要素のひとつ。事件が解決に近づくにつれ、独身で家族のない仕事人間の2人の間には奇妙な友情が生まれ始めます。
ですからラストは驚くほどあっけないです。
事件が解決したかと思うとあっという間にバージルが帰途につく場面に切り替わります。拘留されていた二人の容疑者も、涙にくれていた被害者の奥さんも、どうなったか分かりません。
でも実に清々しい。
バージルを駅まで送った署長は、電車の乗り口までスーツケースを運んであげるんです。
黒人のスーツケースを!
「二度と会うこともなかろう」と微笑み合う2人の表情に、世界中の人種差別問題が解決したかのような幻想を見てしまうほどのラストシーン。
ここが観たくて観るようなもんです。秀作。
映画【夜の大捜査線】の感想一言
シドニー・ポワチエはオーラが凄くて観る人を虜にする魅力あふれる俳優ですが、残念ながら若い頃の出演作はほとんどモノクロ映画…。
精悍な彼の姿をばっちりカラーで観られるこの映画はホントに貴重です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。