2003年/アメリカ/監督:ティム・バートン/出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、アリソン・ローマン、マリオン・コティヤール、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・デヴィート、ディープ・ロイ、ミッシー・パイル
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

絶対釣り上げられへん特別な魚がおったんや。
“アラバマの怪魚”って言われてな。
誰かは「60年前川で溺れ死んだ泥棒の化身や」って言うとったし、誰かは「白亜紀の恐竜の生き残りかも分からん」って言うとった。
その特別な魚を、父さんはお前が産まれた日に釣り上げたんや。
父親に自分が産まれた時の話をしてもらうとしたら、あなたならどっちの話がいいですか?
どうせ自分が産まれた時のことなんて覚えてないんだから、少しでも面白くて夢のある二つ目の話の方が良くないですか?
これは「嘘」じゃないんですよ。まったくの「作り話」とも少し違う。
「ホラ話」です。
真実をほんのちょっと誇張してるだけ。
この「ホラ話」にはきちんと真実が隠されています。
そのことはこの「ホラ話」を聞かせてくれた本人が、彼自身の葬式で証明してみせてくれます。
「ホラ話」が大好きなひとりの男と、そんな男の息子として生まれ育った青年の憂鬱を描いたティム・バートンのファンタジー、【ビッグ・フィッシュ】です。
映画【ビッグ・フィッシュ】のあらすじザックリ
父エドワードの嘘のような生涯
英語で“fish story”といえば「ホラ話」って意味があるんですってね。
“big fish”だと「(小さな世界にはおさまらない)大物」って意味になるみたいですけど。
まあタイトルの意味そのままの人物エドワード・ブルーム(老年期:アルバート・フィニー、青年期:ユアン・マクレガー)の冒険譚です。

エドワードはおしゃべり上手で、何かにつけて大袈裟な「ホラ話」で人々を楽しませていました。
しかしたまにしか会わない人達にはどうであれ、一人息子のウィル・ブルーム(ビリー・クラダップ)にとって何百回となく繰り返される「ホラ話」は、次第に疎ましいものとなっていきます。
大事な結婚式の席でも主役の自分を差し置いていつもの「ホラ話」でドッカンドッカンウケてるエドワードに、ついに愛想が尽きたウィルは、それから3年ものあいだ父親との接触を拒み続けるのでした。
そんな「社交性が服着て歩いてる」ような人物だったエドワードにも、ついに死の影が迫ってきます。
さすがに父親が余命いくばくもないと聞いて、身重の妻ジョセフィーン(マリオン・コティヤール)を連れて実家に戻るウィル。

3年ぶりの我が家。
大きなベッドに伏せった父エドワードや、昔と変わらず美しい母サンドラ(ジェシカ・ラング)、懐かしい白い垣根のある家を見て、ウィルが思い出すのはやっぱりあれほど嫌っていたエドワードの「ホラ話」だったのでした。

故郷を襲った巨人
まず出生時からしてエドワードはおかしい。
母親の子宮からスポーンって飛び出して病院の床を何メートルも滑る。
そんで元気に泣いてたんだって。
文武両道の極みで、学生時代も各方面に数多くの功績を残したと。言ってる。自分では。

ある時町に巨人がやって来た際なんかは、その巨人を町の外へおびきだすのに一役買ったと言いはったりしてる。てか「巨人」てなんやねん。

「僕のこと食べる?」って言って巨人カール(マシュー・マッグローリー)の目の前に手を差し出すのが面白い。
カール自身も言ってますけど、人間をそのまま食うかドアホ。
幻の町スペクター

君に町を出て行って欲しいけど、君ひとりでは行かせない。
僕も一緒に行くよ!
カールと一緒に町を出たエドワードは、二手に分かれた道でカールと別々の道を進み、桃源郷のような美しい街に辿り着きます。

街はその名も“幻”。
街の入り口には住人みんなの靴が引っ掛けてあります。
この引っ掛けられてる大量の靴が、笑顔を絶やさず優しい街の人々や美しいスペクターの情景とは裏腹に、「もうこの街からは出られませんよ~…」と言われているようでちょっと怖いんですけどね。

不思議なサーカス
スペクターを出て森の出口でカールと再び合流したエドワードは、「キャロウェイ・サーカス」に辿り着きます。

しばらくショーを見ていると、サーカスの目玉らしき大男が出てきます。
しかしサーカスの目玉…にしては小さい。
ただの「ちょっと背の高いターザン」。
1932年/アメリカ/監督:W・S・ヴァン・ダイク/出演:ジョニー・ワイズミュラー、モーリン・オサリヴァン、C・オーブリー・スミス、ニール・ハミルトン注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます[…]
すかさずエドワードはキャロウェイ団長(ダニー・デヴィート)に大男の何倍もある巨人のカールを紹介します。
はいカールの就職先決定。
ちなみにキャロウェイ団長は月夜の晩に狼に変身しちゃう系の人獣。ホラもここまで行ったら立派な詐欺。

人に危害を加えそうになったら殺す約束にでもなっていたのか、狼に変身したキャロウェイ団長に向かって、マネージャーの小男(ディープ・ロイ)が常に携帯しているらしい“銀の弾”を涙ながらに発砲しようとする場面がめちゃくちゃシュール。
キャロウェイ団長とマネージャーの絡みはシュールすぎて静かな笑いを禁じ得ないので、いっそのこと無しでお願いします。
運命の出会い
キャロウェイ・サーカスではもうひとつ大きな出来事がありました。
「未来の妻」サンドラ(アリソン・ローマン)との出会いです。
誰もが一度は形容するであろう(?)恋した瞬間の「周りの物が何もかも止まって見えた」ってのを忠実に再現したこの場面大好きです。

飛んでる道化師もライオンも、こぼしたポップコーンも、全部ホントに止まってる。ベタだけど分かりやすくて最高。
エドワード、惚れちゃったねえ~。
エドワードが彼女の名前を知った頃にはすでにサンドラには婚約者がいましたが、広場いっぱいにサンドラが大好きな水仙の花を敷き詰めるという禁じ手を持ってして、エドワードは彼女のハートを射止めます。

危険任務も厭わない陸軍兵士
愛しのサンドラにプロポーズを受け入れてもらえて幸せいっぱいだったのも束の間、エドワードは徴兵されてしまいます。
戦績を挙げて一刻も早く帰国するため、危険任務にバンバン志願するエドワード。

敵国の慰安ステージに潜入した際には、胴体から上が二人分で足が一人分しかない双子のシンガーと知り合い、彼女らと共に戦地を脱出してアメリカに帰還することに成功します。

全国行脚のセールスマン
退役叶ったエドワードは、全国を飛び回ってあやしげな器具を売るセールスマンに。
ある時立ち寄った銀行で偶然出会ったのは、スペクターに居た詩人のノザー(スティーヴ・ブシェミ)。
スペクターに居た時からロクな詩を書いておりませんでしたが、スペクターを出て当然食い扶持もないノザーは、今は銀行強盗稼業に身を落としていました。
そんなノザーにエドワードは現在の経済情勢を丁寧に教えてあげ、それを聞いたノザーは素直にウォール街に行き、あっという間にひと財産築き上げます。
商才あるんやん。
現実のスペクター
相変わらずセールスのために全国を飛び回っていたある日、たどり着いたのは見覚えのある寂れた街。

そうここはかつてのスペクター。
不景気の波が押し寄せ街は破産。
エドワードは彼のお陰で成功を手にしたキャロウェイ団長やノザーに話を持ち掛け、スペクターの家を一軒残らず買い取ります。もちろん住人はそのままもとの家に住んでていい。
荒野に舞い降りた天使のようだね。
たったひとりこの街で可哀想なのは、自分が8歳の時にスペクターを訪れた18歳のエドワードにずっと恋心を抱き続けているジェニファー(ヘレナ・ボナム=カーター)。

エドワードに憧れて、同じ10歳年上の男性と一度結婚するものの離婚。
今では廃墟のような倒れかけた家に猫と暮らす寂しい独女。
ジェニファーのお話は、時系列は前後するけれども、エドワードの想像力によってエドワードが少年の頃に出会った「沼地の魔女」として語られることになります。

伏線はラストで怒涛のように回収される

巨人がいたって?
狼に変身するサーカスの団長?
ウォール街で成功した詩人?
下半身がひとつの双子?
嘘ばっかり!
親父の話しは嘘ばっかりや!
思い出せども思い出せども、父エドワードが語ってくれたのは子供だった自分を欺くかのような突拍子も無い「ホラ話」ばかり。
エドワードのお話に悪意があったかどうかはさておき、外回りのセールスマンやってたエドワードがあんまり家にいなかったのは事実。
それはそれで幼きウィルにはつらかったでしょうけど。
そんなウィルの葛藤を知りようもないエドワードは、ついに帰らぬ人となってしまいます。

どこかで会ったことがあるような…?参列者が多過ぎるお葬式
そしてエドワードのお葬式の日。
ウィルは参列者を見て不思議に思います。




…親父が…言うてたまんまや…。
お葬式にはエドワードによって「少しだけ誇張された」友人たちがたくさん集まってくれました。
ウィルにとっては初めて会う人ばかりのはずなのに、みんなどこかで会ったような気がします。
誰が誰だかなんとなく理解できます。
大体ねえ、見てくださいよこれ、葬式の参列者。

こんなにぎょーさん(たくさん)来てる葬式見たことある?
アメリカの葬式ってチョロチョロって数人並んでたりしますやんか?
めっちゃおるやん!
社葬やでこんなん。
事実無根の武勇伝ばかり語る虚言癖の男の葬式に、これほどの人が集まる?
そんなわけないよね。
ここにはエドワードの「ホラ話」に救われた人々が集まっています。
エドワードのことが大好きだった人々です。
映画【ビッグ・フィッシュ】の感想
実はねえ、最後に一番突拍子もない話をするのは、あれほど「ホラ話」を嫌っていたウィル本人なんですよね。

それはそれは下手くそです。
まだまだ粗削りで、誰かに話して聞かせて笑いを取るにはもっと修行がいるでしょう。エドワードには全然及びませんよ。笑いは取らんでもええかも知らんけど。
でもウィルは「父の最期」を父エドワード自身に話して聞かせます。
エドワードにお話しをしてもらうことで培われた「人に伝える力」を駆使し、常識の枠を超えた想像力で、「病院のベッドで息を引き取った父の最期」を、まったく違った劇的なものに変えていきます。
もっとも現実とかけ離れた素晴らしい「ホラ話」ができるようになった青年は、もうすぐ父親になりますよ。
そしていつまでも「おじいちゃんはおとぎ話をしすぎておとぎ話になっちゃったんやで」って語り継いであげるんですね。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。
お前が産まれた時?
午後3時やったかなあ、予定日より1週間早かったけど安産やったで。
父さん仕事行っとったからよく知らんけど。