1979年/日本/監督:長谷川和彦/出演:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、神山繁、佐藤慶、伊藤雄之助、西田敏行、水谷豊
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
シンガーソングライターの“ジュリー”こと沢田研二主演によるピカレスク・ロマン。
ジュリーが演じるのはたった独りで原子爆弾を作り上げ国家に挑戦する中学校の理科教師・城戸誠。
社会や権力への反抗、個人の自由、核兵器に関する問題などさまざまなテーマを独特の世界観でスリリングに描いた本作は公開当時話題を呼んだものの、荒唐無稽すぎる内容は批評家にも大衆にも受け入れられず、興行的には失敗だったそうです。
近年はその不名誉な評価もかなり見直されているようですが。
今観てもめちゃくちゃ面白いよ?
【太陽を盗んだ男】です。
映画【太陽を盗んだ男】のあらすじザックリ
天才爆弾魔と敏腕刑事の攻防
本作が荒唐無稽と言われる所以 。
【太陽を盗んだ男】は、少々世の中に無関心ではあるもののごく普通の理科の先生が、自宅アパートで(大学の研究室でもなんでもない)、たった独りで(研究チームを組織してたわけでもなんでもない)、誰に教えてもらうでもなく(専門教育を受けてたわけでもなんでもない)、原子爆弾を製造することに成功し、そのお手製原子爆弾でもって国家(=国家=日の丸=太陽)を脅すという物語です。
う~ん荒唐無稽。
最高。
映画というエンターテイメントに核兵器 をブッ込んだ【太陽を盗んだ男】の核 となるのは(ぷぷっ)、国家をゆるがす武器を手に入れた一般人とソイツの暴走を食い止めようとする敏腕警部の攻防。
核兵器や社会の力関係に対する批判など、重いテーマも盛り込まれてはいるんですけど、この二人のキャラクターの魅力なくしてはそれもこれもすべて水の泡。
天才爆弾魔と模範刑事の頭脳戦こそがストーリーを予測不能な方向へ進ませ、観客をラストまで釘付けにする極上のサスペンスに仕上げています。
無気力な中学校理科教師・城戸誠(ジュリー)
生徒たちに混じって始業ギリギリに校門をくぐる理科教師・城戸誠。
遅刻は常習、授業もダラダラ、自習中は居眠り。常にガムを噛んでいて、生徒たちに付けられたあだ名は“フーセンガム”(そのまんま)。
親も兄弟も嫁も恋人も友達もいない様子で、都会のアパートの一室で飼ってるのかノラなのかよく分からない猫と時々じゃれあいながら暮らしています。
そんな変人の城戸だけど実は天才だったらしく、原子爆弾を自宅で作っちゃうんですね。
それでもって城戸は政府を脅しにかかります。危険を冒して国を脅すからにはさぞかし壮大な野望があるのかと思いきや、城戸には野望なんてありません。
その証拠に城戸が最初に政府に要求したのは、「野球のTV中継を試合が終わるまで放送しろ」というもの。
当時はね、21時になったら野球中継終わっちゃってたんですよ。それを最後までちゃんと見せんかい、と。
シャレで言ってんのかと思うくらいしょうもない要求を政府に飲ませて大喜びする城戸でしたが、野球中継の次に何を要求したらいいのか思いつかなくて、ラジオで公募かけちゃうんです。
どうやってって、普通にですよ。
普通にいつも聴いてるラジオ番組にリクエストの電話かけて、ラジオDJにお願いするわけですよ。
「ちょっとリスナーに訊いてみてもらえませ~ん?『あなたが原爆持ってて何でも望みが叶うとしたら何します?』ってさあ~」って。
可愛いでしょ?
そうなんです。ジュリー扮する城戸誠というキャラクターは、核爆弾というおっそろしい武器を手にしたにもかかわらず、単なる悪人てわけじゃないんです。ある意味無邪気で、ユーモアとカリスマを持ってるんですよね。
カリスマはあれか、城戸というより演じたジュリーの持てる特殊能力か。
とにかくこの城戸というキャラクターの強烈な魅力が作品の核にあると言って過言じゃないでしょう。
警視庁捜査一課警部・山下満州男(菅原文太)
一方、縁あって城戸を追う羽目になる警視庁の警部・山下満州男を演じるのは“トラック野郎”菅原文太。
当時からすでに貫禄たっぷりだった菅原文太の硬派で落ち着いた演技(刑事って言ってもせいぜいマル暴にしか見えない)は、ジュリーの奔放なキャラクターとの対比がエグい。
正義感に燃え城戸を捕まえようとする彼の姿勢は、映画の中で「秩序」と「反抗」というテーマを明確に浮かび上がらせます。彼ら二人の対決は、映画のテンションを高める重要な要素です。
ちなみに山下警部が城戸を「9番」と呼ぶのは、作中で城戸自身が「自分は9番目の核保有者だから」と名乗ったことに由来します。
城戸によると当時の核保有国は、①アメリカ②ソ連③中国④フランス⑤イギリス⑥インド⑦イスラエル⑧南アフリカ共和国の8ヵ国だったんだって。
頭がいいのか悪いのかよく分からないお気楽DJゼロ(池上季実子)
城戸に負けず劣らずぶっ飛んだ思想の持ち主であるゼロは、城戸の正体も要求もすべて知ってなお「なんか楽しそうやし手伝うわ!」てな軽いノリで彼に協力してくれます。
これまでたった独りで国家をおちょくってみせてきた城戸の唯一の理解者(?)。
なんにも考えてなさそうに見えて山下警部の作戦をあっさり見抜いてかわしてみせるし城戸の末路もすべて予測できていそうだし、頭がいいんだか悪いんだかよく分からない。
城戸と山下警部に並ぶ強烈なキャラクターですよ。
彼女がいることで城戸が生まれながらのサイコじゃなくてどこにでもいる若者であることが浮き彫りにされます。
原爆を作る以前に個人的にゼロと知り合っていたら城戸の人生も変わってたんじゃないかしらって考えが一瞬脳裏をかすめるんですけどね。
どっちにしろ普通の人生は無理かな。ふたりともぶっ飛びすぎだから。
映画【太陽を盗んだ男】の感想一言
本当に独特の世界観でね。「核兵器」という大胆なテーマ然り、東京の街なかでの大掛かりなカーチェイス然り、あんまり日本映画って感じがしません。まさに異色。
ジュリーのアイコニックな魅力がそうさせるのかしら。
かと言ってバリバリ日本男児のイメージの菅原文太が浮いてるわけじゃなく、きっちり融合してます。
現在でもカルト的人気を誇る刺激的な名作です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。