戦後日本映画の巨匠たち

黒澤明の凄さが分かるエピソード他、戦後日本映画の巨匠についてうんちくを傾ける

おはこんばんちは、朱縫shuhouです。

 

いやあ~、邦画って良いよね。

助手
嘘つけお前邦画全然知らんやないか!

そんなことないよ、知ってるよ。

【ALWAYS 三丁目の夕日】とか。【おくりびと】とか。【るろうに剣心】とか。

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助手
そうじゃなくて………。

ああ~っ!分かった分かった!

そういうのじゃなくて「戦後」ね!「戦後日本映画」ね!黒澤明ね!あ~あ~あ~…、アレね、はいはいはい…。

知らんよ全然。

助手
………………。

ポン・ジュノ監督の【パラサイト 半地下の家族】が第92回アカデミー最優秀作品賞を獲得したりして、近年韓国映画が盛況ですね。

 

かつて我が国日本にも世界を唸らせる「巨匠」と呼ばれた映画監督がいました。

「世界のクロサワ」と讃えられた天才・黒澤明を筆頭に、小津安二郎溝口健二今村昌平など、戦後日本映画を支えた巨匠たちは一体どんな人物で、のちの映画界にどんな影響を与えたのでしょう。

 

当記事では世界に誇れる戦後日本映画の巨匠についてまとめています。

あなたが今日観る映画の参考になれば幸いです。

 

この記事は大損オーソンウェルズ氏に寄稿いただいたものです。

朱縫shuhou
おありがとうございます!
大損ウェルズ氏
洋画・邦画・旧作・新作・古典にリメイク、なんでもござれ。

古今東西の映画及び関連書籍をしこたまあさってきた映画狂 シネフィル、大損ウェルズ氏のうんちくをお楽しみください。

 

 

戦後日本映画の巨匠、黒澤明という人物

戦後の日本映画史で最も優れた監督を4人選べといわれたら、わたしは黒澤明溝口健二小津安二郎、それに今村昌平を選ぶ。

大損ウェルズ氏
成瀬巳喜男は入らないのか、という意見があるだろう。今村昌平を選ぶなら、「大島渚はどうなのか?」と異議を唱える人もいると思う。

もちろん、成瀬をはじめ、伊藤大輔五所平之助衣笠貞之助清水宏内田吐夢稲垣浩田坂具隆豊田四郎吉村公三郎といった戦前の監督たち、そして今井正山本薩夫木下惠介中村登川島雄三などの戦中デビュー派、また大島渚を含めて、市川崑小林正樹新藤兼人深作欣二山田洋次熊井啓などの戦後派にも、巨匠と呼んでもおかしくない重要な映画作家はいる。

 

ただ、完全主義、あるいは一本一本が彫心鏤骨 ちょうしんるこつの作品という点に注目すると、他の監督はどうしても物足りない。やはり個人的にはこの4人こそ、戦後日本の映画界を代表する大監督だと思う。

戦後日本映画の巨匠たち

その中でも最も巨大な存在はというと、衆目の一致するところ、黒澤明だろう。

 

一体何が凄いのか?途轍もない影響力「世界のクロサワ」

世界で巨匠と呼ばれる監督には、観客に知的参加を求める難解な映画を作り続けた人が少なくない。特にイングマール・ベルイマンフェデリコ・フェリーニミケランジェロ・アントニオーニジャン=リュック・ゴダールルイス・ブニュエルといった非アメリカ圏の監督はその傾向にあり、インテリの批評家はそういう作家たちを高く評価する。

黒澤明はそれらの有名監督に伍する世界的巨匠だが、彼らと違って持って回ったような難解さがない。あくまでアクションを得意とする娯楽映画の監督であり、ドラマ演出においても観客を圧倒するようなダイナミズムを特徴としている。

戦後日本映画の巨匠たち

考えてみれば皮肉な話で、日本映画では日常茶飯の地味なドラマが圧倒的に多い。ヨーロッパ映画のような劇的な要素の多い作品はもちろん、活劇などまるで板につかない。

そんな中で黒澤のような天才が産まれたことは奇跡に近く、しかも世界的にも映画史上最高のアクション映画の監督と見なされている。

彼が日本においても他の監督よりも圧倒的に人気があり、評価もずば抜けて高いのも当然だろう。

 

もはや伝説級!黒澤明エピソード

完全主義、というのが日本における「巨匠」の特徴で、黒澤も例外ではない。

代表作である【七人の侍】では初の時代物の活劇ということもあって粘りに粘り、通常は3ヶ月以内で終わらせる撮影に1年近くかかっている

©七人の侍より引用
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【七人の侍】三船敏郎

後年、邦画の製作規模が縮小された時代にも【赤ひげ】には1年半かけていて、主演の三船はその間ずっと髭を蓄えていなければならなかった。

©赤ひげより引用
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【赤ひげ】黒澤明

リアリズムを追求する点でも執拗で、時代劇では衣装が着古した感じに見えるようにわざと汚し、三船の着物などは近くによると本当に悪臭がしたという。

【椿三十郎】では若侍としてそれらしい仕草が身につくよう、加山雄三たちに常に本当の刀を持たせた。

©椿三十郎より引用

それらの贅沢ともいえる製作体制は日本映画としては異例だった。

大損ウェルズ氏
そのため、黒澤は大きな権威と権限を持つという意味からしばしば「天皇」と揶揄された。
朱縫shuhou
すごいスケールの異名…。

また新しい技法を開発した点でも、黒澤の功績は大きい。特に【羅生門】において木の葉越しに太陽を直接撮影したショットは海外の監督にショックを与え、多くの作品で模倣された。

戦後日本映画の巨匠たち
©羅生門より引用

ロバート・アルトマンのように黒澤の影響など感じられない監督ですら「【羅生門】を見た直後、演出していたテレビドラマで早速その太陽のショットを真似た」とインタビューで答えている。

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【ナッシュビル】ロバート・アルトマン

あと、現在の時代劇では人を斬る場面では必ずズバッという効果音が入るが、これを最初にやったのも黒澤だ。【用心棒】で初めて試み、【椿三十郎】ではさらに大きな音を付けている。

斬られて血が吹き出る残酷描写もこの2作が最初だし、その影響は時代劇を越えて、サム・ペキンパーの西部劇にまで及ぶ。

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【ワイルドバンチ】あらすじと感想

人が撃たれたり斬られたりして倒れるところをスローモーションで示す、というのも、黒澤は処女作の【姿三四郎】ですでに行なっている。この表現は【七人の侍】によって世界的に普及した。

戦後日本映画の巨匠たち
©姿三四郎より引用

内容の点でも、【羅生門】における「ある事件に関する証言の食い違い」、【七人の侍】での「個性的なキャラクターが1つの目的のために集まる」というアイデアは脚本のスタンダードとなっていて、世界中で様々な映画に取り入れられ、アレンジを施された上で使われている。

他にもマカロニ・ウェスタンやニューハリウッドの監督たちへの影響など、数え上げれば切りがない。

【荒野の用心棒】クリント・イーストウッド
©A Fistful of Dollars/荒野の用心棒より引用

黒澤には日本映画という枠を当てるより、世界の映画史の中でその歴史的位置づけを考える方がふさわしい。

 

 

まだいる昭和の巨匠、小津安二郎・溝口健二・今村昌平

“最も日本的な?”巨匠、小津安二郎

小津安二郎は生前、最も日本的な映画監督と見なされ、国際的な評価とはほとんど無縁だった。

国内でもその完成度の高い作品は数々の名誉に輝きはしたが、若い批評家などはブルジョワ生活を描くその作風を批判し、時代に取り残された趣味的な監督と見なす向きもあった。

戦後日本映画の巨匠たち

しかし没後に海外での特集上映が行われると徐々に人気が高まり、今では黒澤、溝口と並ぶ巨匠として広く尊敬を集めている。ヴィム・ヴェンダースジム・ジャームッシュアキ・カウリスマキなど、小津崇拝者の監督も多い。

朱縫shuhou
死後に評価とか…小津安二郎ってゴッホみたいな人やったんや。

小津のスタイルは極めて単純だ。床上90センチからのローアングル、真正面からの構図、動かないカメラ、素朴なカットつなぎ。およそ映画におけるダイナミズムを完全に無視した演出ぶりで、編集や構図、それにカメラワークに徹底的に凝る黒澤などとは対極にある。

戦後日本映画の巨匠たち
©秋刀魚の味より引用

しかし見た目の単純さが内容の浅さにつながるわけではない。文学でもアーネスト・ヘミングウェイや志賀直哉のように、文章を簡潔にし、わざと大きな余白を残すことで受け手に積極的な参加を促すという老獪 ろうかいな作り手がいる。

映画でもそれは同じで、カール・テオドア・ドライヤーロベール・ブレッソンといった監督はアクションを最小限にとどめ、わざと映画的な要素を画面から締め出すことで観客へ一種の「挑発」を行なっていた。小津はそんなミニマリストの中でも傑出した作家だといえる。

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【ヴァンパイア(1932)】カール・テオドア・ドライヤー

戦前から批評家からはウケがよく、特にサイレント時代の【大人の見る繪本 生れてはみたけれど】は絶讃された。この作品と【出来ごころ】【浮草物語】はキネマ旬報ベストテンで3年連続のベストワンという記録を作っている。

戦後日本映画の巨匠たち
©大人の見る繪本 生れてはみたけれどより引用

トーキー時代に入っても【戸田家の兄妹】【父ありき】と秀作が続き、すでに一流監督として重きをなしていた。しかし、何といっても小津が大家として押しも押されもしない地位を築いたのは、野田高梧とシナリオのコンビを組んでからの戦後作品である。

【晩春】【麦秋】【彼岸花】【秋日和】といった代表作は題名も似ているが、事件らしい事件がほとんど起こらない点でも同じだ。筋だけ読むとテレビの平凡なホームドラマと変わらない(「小津作品のストーリーは2行で書ける」と言われるほどだった)。ただ小津の完成された演出スタイルで描かれると、一見退屈に見える世界がなんとも魅力的に思えてくる。

戦後日本映画の巨匠たち
©晩春より引用

特に【東京物語】は小津のキャリアの中でも屹立 きつりつした傑作だ。

映画評論家の佐藤忠男も小津に関する著作の中で

「小津の映画には他のどんな映画とも置き換えることのできない純粋さと精錬に達した多くの傑作があるが、なかでもひときわ偉大な、記念碑的な傑作が【東京物語】であると言えよう」

と述べている。

実際、この映画は世界的に絶賛されていて、有名な”Sight & Sound”誌による「映画史上のベストテン」では監督が選出したランキングで堂々の1位を獲得している。

 

これだけの傑作を生むだけあって、小津も撮影現場では完全主義を貫いた。特に俳優への演技の付け方は独特で、溝口や黒澤のように全力を振り絞る熱演は求めない。その代わりにまるで振り付けのように自分の美学と計算に基づいた動きを求め、それが出来ていないと何十回となくリハーサルを行なう。

実際、小津作品に最も多く出演した笠智衆は自主的に役柄を理解して演技しようなどとは考えず、小津の言う通りに体と口を動かしていただけだという。

戦後日本映画の巨匠たち
©東京物語より引用

またリズムを大切にする監督だけあって編集のカンも驚くべきもので、編集者が自分の判断でカット尻を1コマ多くしただけで、試写の際に鋭く指摘した。そういう映画に関する名人芸が「小津藝術」と呼ばれる いぶし銀のような作品群を産んだのだ。

 

小津の映画は独特だが、何もかも説明してしまう娯楽作とは全く違う映画体験へと誘われ、深い感動を味わえる。

 

エンマの仇名をとった巨匠、溝口健二

撮影現場ではあたりを睥睨し、脚本、美術、撮影などのスタッフへの要求が厳しく、出演者に対しても徹底的にシゴキまくり、結果が気に入るまで何十回となく演技を繰り返させる――

巨匠と呼ばれる映画監督のイメージというとそんな感じだろう。まさにそのイメージを体現していたのが溝口健二だ。

戦後日本映画の巨匠たち

その人間臭い面を丸出しにしたキャラクターの強烈さで、映画監督の一典型として伝説化している。

溝口は黒澤に続いてヨーロッパで認められた。黒澤や衣笠貞之助のようにヴェネチア、カンヌでいきなりグランプリを取るような派手さはなかったが、3年連続で【西鶴一代女】【雨月物語】【山椒大夫】がヴェネチア映画祭で受賞するという大記録を作っている。

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【雨月物語】

さらにこれらを含めた作品群が「カイエ・デュ・シネマ」の若い批評家たち、フランソワ・トリュフォーエリック・ロメールクロード・シャブロルジャック・リヴェットなどに絶賛されることで一躍世界的な巨匠となった。

参考 「カイエ・デュ・シネマ」=1951年創刊のフランスの映画批評誌。1950年代なかば以降は「作家主義」の戦略によって挑発的な映画批評を展開した。

特にジャン=リュック・ゴダールの熱狂ぶりは凄く、異様なまでに溝口を讃美して止まない。

【雨月物語】
©雨月物語より引用

 

溝口作品の特徴はワンシーン・ワンカットを駆使した重厚な演出だ。

虐げられた女性を描くことが多く、劇的な起伏に富んだリアリスティックなドラマを冷徹な調子で描ききる。カットを割らないために登場人物をずっと凝視するかのような緊張を感じさせ、ドラマの密度が他の監督よりもずっと濃い。

戦後日本映画の巨匠たち
©西鶴一代女より引用

カットでのごまかしがきかないため、ワンシーン・ワンカットというのは現場での負担が大きくなる。溝口はスタッフを彼一流の統率の下、手足のように使った。

そのシゴキぶりは大変なもので、ずっとコンビを組んだ脚本家、依田義賢によると「追いつめるところから出てくる、熱意の凝集、力の緊張、充実、それがほしい」ため、ほとんどイジメに近いこともあったようだ。

 

もちろん俳優へも一切容赦しない。具体的な指示はせず、演技については俳優に自分で考えさせた。そして自分のヴィジョンと違うと、執拗なまでにやり直しをさせる。

浪華悲歌 なにわえれじーでは山田五十鈴のたった一言の台詞が気に入らず、3日間も延々とリハーサルを行なったという。

©浪華悲歌より引用

それだけの厳しさをもったリアリストだったせいか、小津や黒澤には喜劇、あるいは喜劇的な傑作があるのに、溝口にはそういう軽みのある作品がない。また気負いがあるせいか、作品は意外と出来不出来が激しい。

絶好調だった晩年も【噂の女】などという愚作を撮っているし、外国では評価の高い【楊貴妃】も日本での公開当時は余り褒める批評家がいなかった。そういう点は黒澤や小津とは違っていて、ある意味では不器用な監督だったともいえる。

戦後日本映画の巨匠たち
©楊貴妃より引用

およそインテリというタイプではなかったせいか権威や肩書に弱く、コンプレックスが強かった。スタッフやキャストに対する暴君的な態度も、気弱さの裏返しだったという説もある。

ただそこがかえって人間味を感じさせる点であり、彼の死後もその駄々っ子のような人柄を懐かしむ弟子や仲間が多く、その伝説が語り伝えられている。

朱縫shuhou

なんやあ~、“エンマ”とか言ってカワイイとこあるんや~ん。

 

なお、溝口についてはその弟子である新藤兼人が伝記ドキュメンタリー【ある映画監督の生涯 溝口健二の記録】を製作監督していて、これ自体がキネマ旬報ベストテンで1位を獲得した名作になっている。

大損ウェルズ氏
YouTubeにも全篇がアップされているので、溝口について知りたい人は必見。

 

稀代のリアリスト、今村昌平

リアリズム、つまり作り物をまるで本物のように見せる、というのは映画の基本だ。

その本物らしさを突き詰めるとドキュメンタリーになるわけだが、劇映画という作り事でそこにこだわり抜いたといえるのが今村昌平である。

戦後日本映画の巨匠たち

もちろん溝口や黒澤といった偉大な先達も映像のリアリズムを心がけた。俳優には役になりきらせるし、美術なども作り物に見えないように大金をかけて豪華なものを用意し、観客に「いかにも本物を見ている」という印象を与えるように努力する。

しかし今村は映画の美術班が作ったセットはどこまでいっても偽物であり、それだけでは自分の望む現実感は出ないと考えた。そこで実践したのがスタジオやセットは使わず、その場面に相応しいと判断した実際の場所でロケーション撮影を行う、という方法だ。

戦後日本映画の巨匠たち
©にっぽん昆虫記より引用

その当時でも低予算のポルノなどではセットを建てる予算などなく、すべてロケ撮影するのが普通だった。ところが今村監督の場合は経費を節約するためではなく(スタジオのある会社にとっては長期のロケの方が結果的に高くつく事が多い)、あくまでロケーションによるひりひりするような現実感を求めた。

さらに台詞もワイヤレスマイクで同時録音し、多少聞き取りづらくてもその生々しさを活かす方を選んでいる。

 

その精神はシナリオ作りにも活かされた。実在の人物であれば克明に取材し、架空の人物であっても細かい設定を決め、それについて徹底的に調べてゆく。

©赤い殺意より引用

【赤い殺意】の場合は、【黒い雨】で今村に協力した脚本家・石堂淑朗によると「主人公の春川ますみと西村晃の夫婦の、特に春川の先祖を三代たどって、三代分設定しろと、全部の助監督に言った」という。

朱縫shuhou
うへえ~…そんなん脚本家って言うか、刑事か探偵みたいやん。

また【にっぽん昆虫記】では微に入り細を穿 うがつといった執拗さで実在の女性の半生を調べ上げ、あえて伏線などのドラマ的な工夫は行わずに事実そのままの形で映像化した。

いずれも現実というものの生々しさを捉えるための方法であり、それだけのものが完成した映画に横溢 おういつしている。

 

あくまでリアルさを追求すると記録映画に行き着いてしまうのは当然で、今村も一時期はテレビでドキュメンタリーばかりを撮っていた。しかしドキュメンタリーそのものの限界に気づき、【復讐するは我にあり】で華々しく劇映画に復帰。

戦後日本映画の巨匠たち
©復讐するは我にありより引用

そして楢山節考 ならやまぶしこう【うなぎ】両作品がカンヌでパルム・ドールを獲ることで、遅ればせながら世界的に認められた。

 

晩年こそ枯れた雰囲気の作品が多くなったが、最盛期のバイタリティー溢れる名作群は今見ても世界で唯一無二のものだと思う。

また作品の印象とは違って教育者としての一面があり、自ら設立した日本映画学校(現在の日本映画大学)からは多くの人材を輩出している。

 

 

押さえておきたいおすすめ戦後日本映画20選

ここで選んだ20本は日本映画の中で特に高く評価された作品ばかり(巨匠と呼ばれる監督の作品は何本も挙げたいのだが、あえて各人につき1作品に限った)。

大損ウェルズ氏
戦後の邦画の移り変わりを知りたいなら最低これだけは観てほしい。
【東京物語】
公開年:1953年
監督:小津安二郎
キャスト:笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡、三宅邦子、香川京子、他
【雨月物語】
公開年:1953年
監督:溝口健二
キャスト:京マチ子、森雅之、水戸光子、田中絹代、小沢栄、青山杉作、他
【七人の侍】
公開年:1954年
監督:黒澤明
キャスト:志村喬、三船敏郎、木村功、稲葉義男、加東大介、千秋実、宮口精二、他
【二十四の瞳】
公開年:1954年
監督:木下惠介
キャスト:高峰秀子、天本英世、笠智衆、田村高広、他
【ゴジラ】
公開年:1954年
監督:本多猪四郎
キャスト:宝田明、河内桃子、平田昭彦、志村喬、村上冬樹、堺左千夫、小川虎之助、山本廉、林幹、恩田清二郎、笈川武夫、榊田敬二、鈴木豊明、髙堂國典、菅井きん、他
【浮雲】
公開年:1955年
監督:成瀬巳喜男
キャスト:高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子、山形勲、中北千枝子、加東大介、木匠マユリ、千石規子、村上冬樹、他
【ビルマの竪琴】
公開年:1956年
監督:市川崑
キャスト:安井昌二、三國連太郎、浜村純、内藤武敏、西村晃、春日俊二、中原啓七、土方弘、花村信輝、他
【幕末太陽傳】
公開年:1957年
監督:川島雄三
キャスト:フランキー堺、左幸子、南田洋子、石原裕次郎、芦川いづみ、市村俊幸、他
【人間の條件】(全三作)
公開年:1959年~1961年
監督:小林正樹
キャスト:仲代達矢、新珠三千代、淡島千景、有馬稲子、佐田啓二、山村聡、桂小金治、多々良純、南道郎、佐田啓二、川津祐介、藤田進、千秋実、他
【裸の島】
公開年:1960年
監督:新藤兼人
キャスト:乙羽信子、殿山泰司、田中伸二、堀本正紀、他
【にっぽん昆虫記】
公開年:1963年
監督:今村昌平
キャスト:左幸子、岸輝子、佐々木すみ江、北村和夫、小池朝雄、相沢ケイ子、吉村実子、北林谷栄、桑山正一、他
【砂の女】
公開年:1964年
監督:勅使河原宏
キャスト:岡田英次、岸田今日子、三井弘次、矢野宣、観世栄夫、関口銀三、市原清彦、西本裕行、田中保、伊藤弘子、他
【絞死刑】
公開年:1968年
監督:大島渚
キャスト:尹隆道、佐藤慶、渡辺文雄、石堂淑朗、足立正生、戸浦六宏、他
【男はつらいよ】
公開年:1969年
監督:山田洋次
キャスト:渥美清、倍賞千恵子、光本幸子、笠智衆、志村喬、大塚君代、森川信、前田吟、津坂匡章、佐藤蛾次郎、他
【仁義なき戦い】
公開年:1973年
監督:深作欣二
キャスト:金子信雄、松方弘樹、菅原文太、曽根清美、川地民夫、田中邦衛、名和宏、梅宮辰夫、川谷拓三、大前均、他
【四畳半襖の裏張り】【四畳半襖の裏張り】
公開年:1973年
監督:神代 辰巳
キャスト:宮下順子、江角英明、山谷初男、丘奈保美、絵沢萠子、芹明香、東まみ、粟津號、他
【太陽を盗んだ男】
公開年:1979年
監督:長谷川和彦
キャスト:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、神山繁、佐藤慶、伊藤雄之助、風間杜夫、汐路章、石山雄大、市川好朗、他
【ツィゴイネルワイゼン】
公開年:1980年
監督:鈴木清順
キャスト:原田芳雄、大谷直子、大楠道代、藤田敏八、真喜志きさ子、麿赤児、山谷初男、玉川伊佐男、樹木希林、他
【ソナチネ】
公開年:1993年
監督:北野武
キャスト:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、勝村政信、寺島進、大杉漣、逗子とんぼ、矢島健一、他
【Shall We ダンス?】
公開年:1996年
監督:周防正行
キャスト:役所広司、草刈民代、竹中直人、渡辺えり子、柄本明、原日出子、仲村綾乃、森山周一郎、徳井優、他
朱縫shuhou

上の表は「戦後日本映画20 です。

ランキングではなく単に“年代順”に並んでいるに過ぎませんのでお間違えのないように。

 

 

黒澤明他日本人映画監督と邦画の魅力解説まとめ

朱縫shuhou
ブラボー!ジャパニーズ・ムービー!

いやあ、世界中から称賛される戦後日本映画の巨匠って、そして邦画って、凄いですね!

ここまで読んでくれてるあなたならきっと、「今日の1本」に邦画を選びたい気持ちになっておられることでしょう。

 

この記事を寄稿いただいたウェルズ氏は正真正銘の映画狂ですので、実のところ私、アホほど映画タイトルが並べ立てられた本文を読みながら内心冷や汗をかいておりました。

朱縫shuhou

いっぺんにこんなぎょーさん(=たくさん)紹介されても…。

どないせえっちゅうねん

大損ウェルズ氏
まだまだあるぞ。

しかし最後には「とりあえずのおすすめ」として20作品にまとめてくれましたね(ホッ)。500本くらい紹介してきよったらどないしよか思た。20本ならサクッと観られそうじゃん。

今日観る映画に迷ったら、上記20選からチョイスしてみてはいかがでしょうか。

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

そんなあなたが大好きです。

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>死ぬまでに観たい映画1001本

死ぬまでに観たい映画1001本

1902年公開の【月世界旅行】から2010年公開の【ブラック・スワン】まで。
一世紀以上に渡り製作されてきた世界中の無数の映画をたったの1001本に選りすぐり、一生に一度は観ておくべき不朽の名作としてまとめた無謀なリスト。

眺めているだけでもテンションが上がってしまう映画好きにはたまらないタイトルがぎっしり。あなたは何本観てますか?

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