1972年/イタリア/監督:ベルナルド・ベルトルッチ/出演:マーロン・ブランド、マリア・シュナイダー、ジャン=ピエール・レオ、マッシモ・ジロッティ、カトリーヌ・アレグレ、カトリーヌ・ブレイヤ
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

好きな映画のひとつだったんですけどねえ。
当時からすでに本国イタリアでは公開4日目で上映禁止になるほどの問題作であったものの、現在はそれとは違った意味での(いや、同じ問題の延長線上か?)超問題作となってしまったため、考えなしに「この映画好きやねん!」とは言えなくなってしまいました。
時を経ても「良い映画は良い」と言い続けていたいので、製作者の方々には清く正しい映画作りを心掛けていただきたいところです。
公開当時上映禁止となったイタリアでは主演のマーロン・ブランドとマリア・シュナイダーがわいせつ罪で有罪判決をくらうほど衝撃だった官能映画、【ラストタンゴ・イン・パリ】です。
映画【ラストタンゴ・イン・パリ】のあらすじザックリ
「何も知らない」がもたらす快感
「空き部屋あり」の張り紙を見てアパートの内覧にやってきた二十歳の女の子ジャンヌ(マリア・シュナイダー)。雨戸を開けて部屋が明るくなると、ジャンヌはすぐ傍らに先客が居たことに気が付きます。


自分誰?!
どこから入ったん?
アメリカ人?
先客の“男”(マーロン・ブランド)はジャンヌの問いかけにほとんど答えず何やら思いつめた様子で部屋の中をうろついたり座り込んだり。かと思えば開けっぱなしになっていた玄関ドアを閉めて戻ってくる。
そしてそのままジャンヌを犯す。

ええだから、公開4日目で上映禁止になった映画だって言ってるじゃないですか。
開始15分足らずでセックスですよそんなもん。
申し入れることも同意することもなく白昼のアパートの一室(未契約)であっという間にまぐわってしまう2人。

「犯す」と書きましたが実際の映像を観ると「犯されている」はずのジャンヌが“男”の体に手足を絡ませ堪え切れない喘ぎ声を漏らしますから、パッと見たところ「無理矢理犯されている」ようには見えないかも知れません。
でもこれを「合意の上だ」と捉えるのは恐らく男性だけでしょう。

特に見るからに逞しい大柄な男性なんかは要注意。2人きりの密室で見ず知らずの大きな男にいきなり襲いかかられたら、どんなに気の強い女性でも恐らく悲鳴も出ないし咄嗟の抵抗もできないんです。
こんなのは強姦以外のなにものでもありません。
求め合うのは大いに結構ですが、双方合意の上にしましょうね。
どうしようもなく好きなのは「知らない」から
と、常識的な注意事項を念のため述べたてておきまして。
【ラストタンゴ・イン・パリ】は初対面の「強姦事件」から始まる、赤の他人だった2人の愛の物語です。

TVディレクターの婚約者トム(ジャン=ピエール・レオ)に会ったあと、何を思ったのかジャンヌは自分が「犯された」アパートへふらりと戻ってきます。そこには部屋を借りることにしたらしい“男”がぽつんと待っていて、どちらから言い出すともなく再びお互いを求め合う。
そうしてあれよあれよと2人の関係が始まっていくのです。

“男”はジャンヌが自己紹介しようとしたり“男”の素性を聞こうとしたりすると、決まって「何も言うな!君の名前も過去も知りたくもない!俺のことも知ろうとするな!」と声を荒げます。
このアパートでは羞恥心もモラルも持たず、ただ裸の男と女として求め合うことが“男”の野望。

ジャンヌは“男”との歪な関係にズルズルと溺れ、ついには“男”を心から愛するようになってしまいます。
正体がバレた瞬間アホっぽくなる男たち
「始まり方」こそ映画みたいな(映画や)嘘くささがあるものの、情事を重ねるうちそれまで特別な感情を抱いていなかった相手との間に本物の愛が芽生える現象というのは多くの人が一度や二度は経験したことがあるのではないでしょうか。「情事を重ねるうちに」じゃなくて「付き合ってみるうちに」でももちろんOK。一緒にいる時間が長くなればなるほど相手を想う気持ちは強くなるものじゃないですか。
増してやこの2人は肌を合わせてる。
ジャンヌが彼を愛するようになるのも当然。

駄目押しでジャンヌは彼のことを何も知らない。
女性って時々無性にミステリアスな人に惹かれたりするんですよね。「謎であること」自体に恋をするというか、素性の知れない人との恋ほど楽しいもんはないんですよ。
でもこういう感情は大抵「謎」が明らかになった瞬間あっというまに泡と消えます。俗に「百年の恋も冷める」と言うやつですか。憧れの人ほど手に入ると冷めてしまうのも似たようなもん。
※個人の見解です。
作中、ジャンヌの本命であるはずの婚約者トムは、何となく薄っぺらであっけらかんと描かれます。

それはきっとジャンヌが彼のことを何もかも知り尽くしているから。
一方で名前も年齢も住所も知らない“男”は、いつも世界の終りのように憂鬱な表情で溜め息をつく。冗談を言って笑顔を見せたかと思えば次の瞬間にはまたふさぎ込む。どうすれば彼を癒してあげられるか分からない。「愛してる」と言っても「愛してる?」と聞いても絶対に答えは返ってこない。
こんなことされたら誰だって相手のことで頭いっぱいになりますよ。

そしてクライマックスで“男”がジャンヌに素性を明かしたあと、彼女の愛は急速に冷めていきます。

おっす!
俺やでオ~レ!
俺らの関係、終わったと思った?よっしゃ終わりから始めようやないか!
俺ポールって言うねん!48歳!こう見えて安ホテルの経営者、改めましてよろしく!

これまでの重々しい雰囲気と打って変わって軽薄なナンパ師みたいなノリで洗いざらい白状し始めるポール。
マーロン・ブランドの神がかった演技力の底力を垣間見ると同時に滑稽ですらあるこのクライマックスが面白くて面白くて、好きだったんですよこの映画、ホントに。
問題の「バターシーン」について
様々な論争を巻き起こしておきながら、中年男の哀愁をサラリと体現したマーロン・ブランドと初々しくも大胆な演技をみせたマリア・シュナイダーの“羞恥心を凌駕するエロスの世界”が高い評価を得ていた【ラストタンゴ・イン・パリ】ですが、公開から40年以上経った2016年、突如逆風にさらされることになります。

1972年の公開当時から性描写が議論になった映画「ラスト・タンゴ・イン・パリ」の撮影で強姦場面の撮影が女優の同意を得ていなかったのではないかとインターネットで騒ぎになったことを受け、ベルナルド・ベルトルッチ監督(76)が「ばかげた誤解だ」と反論した。
映画の撮影があらためて物議を醸すきっかけになったのは、ベルトルッチ監督の2013年のインタビュー。強姦場面でバターを使うと決めたのは、撮影当日の朝で、強姦される役の女優マリア・シュナイダーさんの同意を事前に得ていなかったと話していた。このビデオが今月初めになって再び浮上し、ソーシャルメディアで映画関係者を含めて大勢が怒りを表明した。シュナイダーさんが実際に強姦されたと思い、怒る意見も多く飛び交った。
-中略-
映画では、マーロン・ブランドさん演じる主役ポールがシュナイダーさん演じるジャンヌを強姦する際、バターを潤滑剤として使う。
©Last Tango in Paris/ラストタンゴ・イン・パリより引用 出典:BBC NEWS
要するにベルナルド・ベルトルッチ監督の「実は強姦シーンはマリア・シュナイダーに言うてなかったんや」というインタビューでの発言に批判が噴出したため、ベルトルッチ監督が慌てて「いやいや、合意がなかったって言うたのは“バターを使う”ってことだけや!強姦シーンがあることは彼女も知ってたわいな!」と釈明したということです。
「バターを使うこと」に合意してなかった?
主演の2人がどちらも亡くなってから(マーロン・ブランドは2004年に死去、マリア・シュナイダーは2011年に死去)の騒動ですから、この時すでに真相を語れる者はベルトルッチ監督だけ。

事実がどうであったのか明らかにする術はもうありませんが、あとからどう弁解したところでベルトルッチ監督が「彼女の合意を得てない」って言ってる映像は残っちゃってるからねえ。

仮に合意を得ていたとしても撮影時マリア・シュナイダーは19歳。相手はハリウッドの大スター、マーロン・ブランドとオスカーノミネート経験もある(のちに【ラストエンペラー】で受賞)著名な映画監督ベルナルド・ベルトルッチ。
1987年/イタリア、中華人民共和国、イギリス/監督:ベルナルド・ベルトルッチ/出演:ジョン・ローン、ジョアン・チェン、ピーター・オトゥール、坂本龍一、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、英若誠、ヴィクター・ウォン、デニス・ダン、リチャード[…]
若きマリア・シュナイダーが「こんなシーン撮りたくない!」と拒否することもできず無理矢理撮影されてしまった可能性を考えると、やっぱり「この映画好きやねん!」とはもう言えませんわ。
映画【ラストタンゴ・イン・パリ】の感想一言

【ラストタンゴ・イン・パリ】公開後、マリア・シュナイダーは精神のバランスを崩し薬物事件や自殺未遂で世間を騒がせることになってしまいます。
バター問題の真実がどうであれ、まだ19歳だった彼女の心に大きな傷跡を残した映画であることは間違いありません。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。
















