1951年/アメリカ/監督:エリア・カザン/出演:ヴィヴィアン・リー、マーロン・ブランド、キム・ハンター、カール・マルデン/第24回アカデミー主演女優・助演男優・助演女優・美術監督(白黒)賞受賞
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【風と共に去りぬ】のスカーレット・オハラ役で有名なヴィヴィアン・リーがアカデミー主演女優賞を始めとする数々の演技賞を獲得した同名戯曲の映画化作品。
そしてこれが銀幕デビューとなるマーロン・ブランドが作中でラフに着こなしたことで、当時は下着扱いだった「Tシャツ」が広く普段着として普及するきっかけとなった映画としても有名。
もう怖い。
ガチでプッツンしてそうなヴィヴィアン・リーがとにかく怖い。
そして常にTシャツに汗染みがついてるマーロン・ブランドは死ぬほど臭そうなのにどうしようもなくかっこいい。
【欲望という名の電車】です。
映画【欲望という名の電車】のあらすじザックリ
ニューオーリンズに降り立った未亡人ブランチ
「欲望」という電車に乗って、
「墓地」に乗り換え、
「エリジアン・フィールド」で降りるのだけど…。
きょろきょろと周囲を見渡しながら、若い駅員に「desire(欲望)」という電車の場所を尋ねる一人の女性…。
のっけから何となく不安になる挙動を見せるこの女性の名はブランチ(ヴィヴィアン・リー)。
度重なる悲劇の末に生まれ育った田舎に居場所がなくなり、嫁いだ妹ステラ(キム・ハンター)を頼ってニューオーリンズのうらぶれた町へやってきます。
タイトルは【欲望という名の電車】だけど、電車自体が出てくるのも「欲望」という単語が出てくるのも最初のこのシーンのみ(電車の汽笛やガタンゴトンと走る音は聞こえる)。
でもこの「欲望」という電車に乗ってたどり着いた場所こそが、「欲望」から逃れようとやってきたブランチをさらなる「欲望」の淵へとたたき落とす舞台となるのです。
ヴィヴィアン・リーの過剰な演技に違和感???
観ていて最も気になるのはヴィヴィアン・リーの不自然極まりない演技。
笑っていると思ったら突然激昂したり、普通に話していても目は常にきょろきょろと動いていたり、見ているこっちまでソワソワさせる。
そもそも「ブランチ」というヒロインが神経不安症というか、それほどトラウマを抱えた変わった女性という設定ではあるのですが、それを差し引いても、です。
原作が戯曲であることやブランチを演じたヴィヴィアン・リーが「映画より舞台こそ女優の真骨頂」という考えを持つ人であったことを慮ると、これほどオーバーリアクションになっているのも頷けますますが…、それにしたっていや~…笑えてくるレベルよホント。
カール・マルデンに無理やりキスされる場面の、完全にカメラを意識した手や顔の角度には吹き出しました。
そないに優雅に力づくの男のキスは拒めません。
舞台ではねえ、この演技で100点満点なんでしょうけどねえ。映画となるとまるでサイレント映画観てるみたい。
ただしラストでブランチがホントに頭イカれちゃった時の演技だけは息を呑むほどのド迫力です。こういった演技は少々過剰な方がリアリティありますもんね。
ブランチの過去を暴いたスタンリー
ブランチは田舎の土地屋敷を手放しここへ来た理由も詳しく話さないまま、妹のステラの家に何ヶ月も滞在します。
二間しかない狭いアパートには当然夫のスタンリー(マーロン・ブランド)もいるし、ステラは妊娠しているというのに。
人の家に厄介になっておいてお嬢様気取りの横柄な態度を崩さないブランチをよく思わないスタンリーは、知人のネットワークを駆使してブランチの過去を調べ上げます。
ちょっと乱暴な面はあるものの、「ブランチ」という女性を直視しているのはこのスタンリーだけ。
スタンリーが何を言おうがステラは「昔は優しい姉だったのよ」とブランチの肩を持ち、親友のミッチ(カール・マルデン)は美しいブランチにのぼせ上って結婚を決意するときたもんだ。
若い頃のマーロン・ブランドは「『野生の勘』みたいな特殊能力を持つ乱暴者」を演じさせたらホントにやばいよ。きらめきすぎ。マーロン・ブランドは【欲望という名の電車】が映画デビューのはずだけど。
ヴィヴィアン・リーの演技が過剰に見えてしまう要因のひとつにはこのマーロン・ブランドの演技があるんじゃあなかろうか。なんでって、この頃の映画俳優といえば舞台仕込みのヴィヴィアン・リーのような演技がスタンダードであって、日常生活に近い立ち振る舞いでぼそぼそとセリフを口にしたのはマーロン・ブランドが初めてだと言われていますから。
マーロン・ブランドの演技が自然体すぎてヴィヴィアン・リーの「舞台向き過剰演技」が余計際立つわけですわ。
しかし前述のとおり、この映画でヴィヴィアン・リーが数々の演技賞を獲得したにもかかわらず、マーロン・ブランドは大きな賞は獲っていません。
当時はヴィヴィアン・リーのような「見て見て!演技してるのよ私!」って感じの演技の方がウケたんですかね?
原作戯曲「欲望という名の電車」に書かれていること
【欲望という名の電車】は原作を読んでいないと理解するのが難しいと思います。
原作はテネシー・ウィリアムズの戯曲。
戯曲ですから原作読んだところで大した違いはないんじゃないの?って思うでしょ?
ところがどっこい映像化(大衆化)されてしまうとストレートな表現が出来なくなってしまうんですねやっぱり。当時はヘイズコードもありましたし。
参考 ヘイズ・コード(映画製作倫理規定、プロダクション・コード)=1934年から1968年まで導入されていたアメリカ合衆国の映画における検閲制度。「キスは3秒以内」など厳しい制約があった。
原作によると、ブランチとステラは田舎の地主の娘さんで、何人もお手伝いさんがいるような大きなお屋敷で育ったそうです。ブランチは地元で英語教師になり、ステラはニューオーリンズの街へ出てきてスタンリーと結婚します。
ブランチも10代の頃に年下の男性と結婚するのですが、その男性は実はホモセクシャル(原作のまま)で、その事実がブランチに知られたあと彼は自殺。ブランチはその頃から少しずつ精神を病み、美しい容姿と高貴な所作を武器に様々な男性と交際するようになり、ついには自分の教え子にまで手を出して小さな田舎町を追い出されてしまいます。おまけに親族の病気や死が重なり屋敷を手放さざるを得なくなったブランチは、無職の上にほぼ無一文状態でいかがわしいホテルに滞在して客を取って生活していたのでした。
そしてやってきたのが唯一の頼みの綱であるステラの家。
誰も自分の過去を知らないこの土地でやり直そうとしたものの、結局ブランチを疎ましく思うスタンリーに洗いざらい過去を暴かれてしまうわけです。結婚目前だったミッチには捨てられ、最後にはスタンリーにレイプされてついに発狂。精神病院のご厄介になる以外の道は閉ざされてしまうのです。
まだまだ保守的だった当時、衝撃的な題材を扱って話題となった【欲望という名の電車】を面白くしている要素は以下の4つなんですけどねえ。
②ブランチがヤリマン化
③ヤリマンが未成年者に手を出す
④ヤリマンが義弟にレイプされる
映画版ではなんとこの4つのうちほぼすべてがスルー、もしくはかなりオブラートに包まれてしまっています。
ブランチが商売女と化していたことに関する直接的な表現もないし、「同性愛者」などの単語もほとんど出てきません。そもそもブランチが土地屋敷を手放さなければならなかった原因もモヤっとしてる(これは原作戯曲にも言えることですけど)。
エリア・カザン監督始め製作陣はもっと原作に寄せたかったけど許可が下りなかったみたいですね。
ガッデム映倫。
映画【欲望という名の電車】の感想一言
【欲望という名の電車】の撮影当時、ヴィヴィアン・リーは不眠症や躁鬱病の症状に悩まされていました。
レイプシーンや乱交、同性愛といった刺激的な内容を含んだこの映画・舞台への出演は周囲から自殺行為に等しいと言われていたそうです。
彼女の(今では少々大げさに見えても)鬼気迫る演技に納得ですね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。