2023年/アメリカ/監督:クリストファー・ボルグリ/出演:ニコラス・ケイジ・ジュリアンヌ・ニコルソン、リリー・バード、ジェシカ・クレメント、マイケル・セラ、ティム・メドウス、ディラン・ゲルラ
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

SNSやってないです。
当サイト「天衣無縫に映画をつづる」のアカウントは色々持ってますけど、個人的にはXもInstagramもTikTokもやってません。


違うわ。やり方くらい分かるわ。
しょうもないからじゃ。
「○○でランチ食べてきました!」とか「こんな服買っちゃいました!」とか「子供が産まれました!」とか全世界に発信して、何が楽しいの?
他人の「○○でランチ食べてきました!」とか「こんな服買っちゃいました!」とか「子供が産まれました!」とか見て、何が楽しいの?
ニュースや趣味や好きな芸能人をフォローする“閲覧専用”アカウントならまだ理解できんでもない。でも自分の私生活を“発信”する人の心理は100%理解不能です。“いいね”の数で嬉しいやら淋しいやら一喜一憂するほど情緒に影響するってのも全然意味が分かりません。
別にSNSしてなくても“いいね”がなくても淋しくなんかないよ。
大事な人は傍におるやん。
ノルウェーの映画監督クリストファー・ボルグリによる、人間心理や現代社会の風刺を巧みに描いたユニークかつ不穏なブラック・コメディ(?)、【ドリーム・シナリオ】です。
映画【ドリーム・シナリオ】のあらすじザックリ
一躍時の人となる大学教授ポール
大学で進化生物学を教えているポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は何の変哲もないおっさん。
反抗期真っただ中の2人の娘ハンナ(ジェシカ・クレメント)とソフィ(リリー・バード)に少しだけ手を焼いているけれど、15年連れ沿った妻ジャネット(ジュリアンヌ・ニコルソン)には愛されているし古い大きな一軒家(←妻の実家)に住み大学で講義をして給料をもらって、とりあえず何の変哲もない毎日を送っています。

ところがある時、ポールは予約していたレストランの女性にこんなことを言われます。



…そうですよね、失礼しました。
夢にあなたにそっくりな人が出てきたもので驚いて…。

見知らぬ人から「あなたが夢に出てきたの」と突然言われる体験はこの時だけでは終わりませんでした。ある頃から何の変哲もないポールが不特定多数の見ず知らずの人々の夢に出て来るようになったのです。
そして夢に出て来たポールは決まって“何もしない”んですって。
夢を見ている本人がゾンビに追いかけられていようが大地震の被害に遭っていようがワニに襲われていようが、すぐ傍に居るポールは“何もしない”。
「何の変哲もないポールが見ず知らずの人々の夢に出て来て“何もしない”」現象は世間で話題となり、ポールはあっという間に有名人になってしまいます。
娘達からは一目置かれ、大学の講義には学生が殺到し、「夢の人」としてTV番組に出演し、広告代理店からCMのオファーが入る。

まさに「夢心地」のポールでしたが、またも突然、自分にはまったく身に覚えのないところで事件は起こります。
世間の人々が見る夢の中のポールが暴力的になったのです。
夢の中でポールにギッタギタにされた見ず知らずの人々は彼を恐れ、彼の姿を見ただけで拒絶反応を示す者さえ現れます。
夢の中の存在が現実の評価を左右するという、現代のSNS文化に通じる恐ろしさを描いた映画です。着眼点面白いですよね。

これって結局引き金になったのは娘のソフィの夢?
何の変哲もないポールがある日突然大衆の憧れの的になったり嫌悪の対象になったりする過程に「理由がない(本人は何もしてない)」から恐ろしいのであって、「どうして何の変哲もないポールがあんな目に遭ったんや」と考えるのはナンセンスかも知れませんけど、見知らぬ人々がポールの夢を見始めた一因には娘のソフィがあるのではないかと思いました。

彼女は映画の冒頭で、恐らく“誰よりも早く”「自分が危ない目に遭っているのに何もしないお父さん(=ポール)」の夢を見ています。
そしてその後彼女は、これも恐らく“誰よりも早く”「理由は分からないけどなぜかブチ切れて襲ってくるお父さん(=ポール)」の夢を見る(この夢の時のポールは一瞬だけどめちゃくちゃおもろい)。

例えばソフィが「うちのオトンが何にもしてくれへん夢見た」ってポールの写真付きでSNSに投稿したとしましょう。するとその投稿を見た人が「何もしないポール」の夢を見る。
続いてソフィが「うちのオトンが突然襲い掛かってくる夢見た」ってSNSに投稿したとしましょう。その投稿を見た人が「暴力的なポール」の夢を見る、って、そんな可能性はありませんかね?ソフィの投稿が取り立ててインパクトのある内容だとは思いませんけど、脳が勝手に影響受けてさ。
その後はもう「私も見た!」「俺も見た!」の連鎖ですよ。こうなってきたらホンマは夢を見てない奴まで「見た!」って言い出すんやろうしね。

映画【ドリーム・シナリオ】の感想一言
夢と現実の境界が曖昧な世界観。SNS時代の「自分の知らないところで勝手にイメージが拡散されてゆく」現象をうまく具現化した物語は、「“たかが夢の出来事”でひとりの人間がこんな目に遭うなんて馬鹿げてる」と笑い飛ばして終われない奇妙な恐怖を観客に植え付けます。
一番おもろいのはかなりのテクニシャン設定であるポールと毎晩夢の中でヤリまくっていたモリー(ディラン・ゲルラ)という女性が現実のポールを誘惑する場面。
モリーは夢の中のような激しいセックスを望んでいたのに、現実のポールは童貞を疑われるくらいのド下手。いやド下手っていうかね、上手下手以前の問題か。
モリーがズボンのチャックを下ろそうとしたら屁こきよるんですよポール。
めちゃ笑う。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。