- クラシック
- 2025年12月20日
1951年/アメリカ/監督:アルフレッド・ヒッチコック/出演:ファーリー・グレンジャー、ロバート・ウォーカー、レオ・G・キャロル、ルース・ローマン、パトリシア・ヒッチコック、ケイシー・ロジャース、マリオン・ローン、ジョン・ブラウン
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!

「殺したいほど憎い奴」っています?
私にはひとりだけいます。
ゴリラ(夫)です。
いや決して「憎い」わけではないのですが、先ほどの質問を「もっとも死んで欲しいのは誰か?」と捉えるなら、腹立つ上司でも陰険なママ友でもなく私は「ゴリラ(夫)」と答えるでしょう。
だって多額の保険金が手に入る上に離婚する手間が省けるんですよ?
今後の人生良い展開しか待ってない。

今日の飯、しょっぱない?

たまにしゃべったと思ったら駄目出ししかせえへんの何とかなりませんでしょうか!
まあそんなこんなで私に限らず「人が人を殺す」だなんて、普通はよほどの恨みか多額の金でも絡んでないと不可能ですよね。
増してや「アシがつきにくい」という理由だけで「交換殺人」の発想に至る奴は完全に異常者。こんな奴にロックオンされちゃたまったもんじゃないわ、【見知らぬ乗客】です。
映画【見知らぬ乗客】のあらすじザックリ
【サイコ(1960)】よりサイコなサイコ野郎
アルフレッド・ヒッチコック監督が描いた「サイコ野郎」として最も有名なのは恐らく映画【サイコ(1960)】のサイコ野郎、ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)で間違いないでしょう。
しかし【サイコ(1960)】からさかのぼること9年、アルフレッド・ヒッチコックは1951年の時点ですでにノーマン・ベイツよりもっとサイコなサイコ野郎をスクリーンに映し出していました。



やあ!
自分あれちゃうん?有名なテニスの選手やろ?
ガイ・ヘインズやん!
ガイ・ヘインズ(ファーリー・グレンジャー)が列車で本を読んでいると、前の席に座っていた男が突然話しかけてきます。
こいつこそが【サイコ(1960)】のサイコ野郎ノーマン・ベイツより9年も前に公衆の面前に姿を現したサイコ野郎、ブルーノ・アントニー(ロバート・ウォーカー)だったのです。
サイコ野郎のプレゼンテーション
ブルーノ・アントニーとノーマン・ベイツとの決定的な違いはその社交性。
ノーマン・ベイツが「根暗サイコ」だとするとブルーノ・アントニーは「根明サイコ」って感じ。どちらの方がお近づきになりたくないかと言えば、あからさまに内向的でオタク臭ムンムンのノーマン・ベイツよりニコニコ笑ってたかと思ったら次の瞬間激昂したりするブルーノ・アントニーの方がよっぽど怖いし気持ち悪い。

絶対関わり合いになりたくない「根明サイコ」ブルーノは、初対面のガイに飛んでもない話を持ち掛けてきます。

キミのことはよく知ってるで。
議員の娘さんと付き合ってるんやろ?だから「今の嫁はんと別れたい」。今この列車に乗ってるのも、嫁はんと離婚話をしに行くためやろ?
でもなあ~。離婚はなあ~。なかなか難しいんちゃうかなあ~。

そこで提案があるんや。
嫁はん殺したらどないや?

いやあかんあかん、キミが殺したらアシが付くやんか。動機もあるんやし。一発や。
そこでや、「交換殺人」と行こうやないか。


実は僕にも殺したい奴がおるんや。
僕が殺したい奴をキミが殺して、キミが殺したい奴を僕が殺す。
殺人を犯すのは同じやけどお互い面識もない人間を殺してるから捜査線上には上がってけえへん。
どや?
完璧やと思えへん?
ブルーノはこんなイカれた作戦を嬉々として語り続けます。
余りにも普通の口調で話すものだから冗談だと思って「ははは、そんなんできたらサイッコーやな!」って笑ってしまいそうになるけど、ブルーノの眼は全然笑ってない。この手の物語は「おかしいおかしいコイツおかしい!」って思った時にはすでに相手の術中にハマってしまってる。

ダメだねもう無理逃げられへん。
明かされていない唯一の謎
よく出来た映画です。
月並みですけど「さすがアルフレッド・ヒッチコック」と唸りました。

「他人同士の物語」を印象付ける冒頭約2分にも及ぶ「足の映像」も、誰も同意なんてしてないのに勝手に見返りを期待して赤の他人を殺害してしまうブルーノの振り切った異常者っぷりも、身の潔白を証明するため“早く”“勝たなければならない”ガイのテニスの試合の緊迫感も完璧。
エンディングも実に見事で爽快。

しかし惜しいことに、たった一つだけ腑に落ちない謎が残るんです。
何だかお分かりになりますか?
え、分かんない?
なんでなんで、めっちゃ大きな謎があるやん。そこを説明してもらわんことにはどうしても納得できひんやん。
いいですか?
そもそもですよ?
そもそも、元を正せば、どうしてガイのように良識ある賢い男が夫以外のオトコの子供を妊娠するようなアバズレ女と結婚するに至ったの?

上の画像の胸元露わな眼鏡の女性がガイの嫁はん(ケイシー・ロジャース)なんですけど、この時なんてどう見ても取り巻きの男性2人相手にヤッてしまう気満々。それも行為は屋外。
普通は嫌やろこんな嫁。究極にオンナを見る目がないにしても限度があるわ。
もっぺん訊くよ?
そもそもガイ、キミねえ、なんであんな女に落ち着いたん?
…謎や。
映画【見知らぬ乗客】の感想一言

タイトルの【見知らぬ乗客】が指すのは、素直に(ガイ目線での)ブルーノだと認識するのが正解です。
でも私は一瞬だけ、デラウェア大学のコリンズ教授(ジョン・ブラウン)を指してるんじゃないの?って思ってしまいました。
地味にキーマンなんですよね、この教授。窮地に立たされたガイのアリバイを握っている人物なんですけど、列車内でガイと会ったことをいざ証言してもらおうと思ったら、「キミ誰や?その時は泥酔していてナーンモ覚えとらん!」とふざけたこと抜かしよるんですよ。
その無責任さが結構インパクト強かったんで、危うく「タイトルの【見知らぬ乗客】はコリンズ教授を指してる」って思い込んでしまうところでした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。




