2005年/アメリカ/監督:ポール・ハギス/出演:ドン・チードル、ジェニファー・エスポジート、マット・ディロン、ライアン・フィリップ、ブレンダン・フレイザー、サンドラ・ブロック、ウィリアム・フィクナー、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ラレンズ・テイト、テレンス・ハワード、タンディ・ニュートン/第78回アカデミー作品・脚本・編集賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
2回目以降の視聴で味が出てくる作品な気がします。
上映時間自体が114分と2時間弱で物理的に短いのもある上、いくつかの物語が同時に進行していく群像劇なので、初見の時は画面に映し出される事実を追うことに精一杯。
あっという間に時間が過ぎてしまいました。
その後改めて観てみて、つくづくええ作品やなと実感します。
本作に悪人は一人も出てきません。
性善説を力いっぱい説きたくなる映画、【クラッシュ(2005)】です。
映画【クラッシュ(2005)】のあらすじザックリ
登場人物全員に共通すること
【クラッシュ(2005)】の登場人物はみんな、思い込みと勘違いと取り巻く環境により人を差別し偏見を持ち、自分だけが被害者だと主張しています。
他人をひがみ被害者意識ばかりが先立って相手の立場や状況など慮ることなどできないのです。
根底にあるのは思い込みと勘違い
まずのっけからグラハム(ドン・チードル)とパートナーのリア(ジェニファー・エスポジート)が乗る車に追突したアジア人女性が、リアを見て悪態つきます。
このメキシコ女が!
この不法入国者が急ブレーキをかけたから事故ったんや!
ファッキン!
メキシコ女ファッキン!!
リアは実際はヒスパニック系。
でも見た目だけでアジア人女性はリアをメキシコからの不法入国者だと決めつけ、とりあえず事故には全く関係のない罵倒を浴びせます。
…おっと待って。
この血気盛んにまくし立てる国民性のイメージで、リアも視聴者もこの追突した女性をきっと「中国人」だと思うのでしょうが、この女性自身も思い込みによって勘違いされてます。
彼女は「韓国人」です。
さらにスキンヘッドにタトゥーの強面の錠前屋はギャングと決めつけられ、ペルシャ系の雑貨屋の店主はアラブ系と決めつけられ、黒人の若者2人組は街を歩いているだけで「黒人怖い…」と思った白人から露骨に避けられます。
この夜の追突事故をきっかけに、「昨日」ロサンゼルスで起こった思い込みと勘違いによるいくつかの物語が紐解かれて行きます。
断ち切らなければ終わらない負の連鎖
毒親育ちの黒人刑事
黒人であってもロサンゼルス市警の刑事にまでなれたグラハムは、【クラッシュ(2005)】の登場人物の中でも成功した部類に入るでしょう。
とりあえず誰にも思い込みで差別されたりはしていません。実際に「黒人」であるだけ(黒人差別的発言はされます)。
しかしこのグラハムの障壁となるのはなんと実の母親。
今風に「毒親」と言っていいこの母親、なぜそうなったのか詳細は作品内では語られませんが、もともとグラハムより弟のピーターの方が可愛いみたい。
全く無関係のピーターの死を「あんたのせいや!」と母親になじられ、涙は出ていないのに声を上げて泣いているようなグラハムの表情に胸がしめつけられます。
数々の差別によって植え付けられた疑心暗鬼のせいで人格崩壊している店主
雑貨店の店主ファハド(ショーン・トーブ)はペルシャ系であるにも関わらずアラブ系と勘違いされることが多く、何かにつけ迫害されています。
銃を買いに行っても「聖戦に使うんやろ?」と言われ嫌がられる始末。
結果「周りはみんな敵や!」と思い込むほどに疑心暗鬼にかられ、攻撃的な性格になってしまっています。
有色人種に尽くした父親の介護でやり切れない巡査と、「ごく普通」の巡査
勤務17年のベテラン巡査ライアン(マット・ディロン)は、人種差別主義者で職権を利用して黒人に嫌がらせをしたりしますが、家では病に苦しむ父親の介護で夜も眠れない日々を送っています。
ライアンは現役時代黒人を白人と同様の賃金で雇うような人格者であった父親が老いた今、誰も手を差し伸べてくれない現実に失望しているんです。
そして私が【クラッシュ(2005)】で最も「普通」と言える人物だと思うのが、そのライアンの相棒のトム(ライアン・フィリップ)。
トムはライアンが職務中に黒人に嫌がらせをするのを見かねて(注意するでも告発するでもなく)「配置換え」を申請して 逃げます。
そして「俺は人種差別はしないぜ~」と悠然と構えているのに、いざ黒人と2人きりになると ビビリ倒し。
大多数の人がこのトムに最も共感できるのではないでしょうか。
人格者を演じてきたが差別によってついに爆発するTVディレクター
TVディレクターのキャメロン(テレンス・ハワード)は、自分の立場を最もよくわかっている人格者であったはず。根深い黒人差別に対して個人的にできることは少ないであろうことを理解している賢明な人物。
しかし目に余る世間の黒人に対する差別でついにブチ切れ、銃を手に警官に詰め寄ります。
「黒人やからどうせ何かやらかすんやろ」
「黒人には何してもええやろ」
差別はこんな人格者でさえも一歩間違えれば犯罪者に仕立てあげてしまう可能性があるといういい例。
「やっぱり黒人に襲われた!」恐怖心から偏見を募らせるセレブ妻
地方検事であるリック(ブレンダン・フレイザー)の妻ジーン(サンドラ・ブロック)も、そんな風に「どうせ俺なんて」と自暴自棄に犯罪に走る被差別人種を増やす要因の一つになっているのかも知れません。
だって黒人2人組が「歩いているだけ」で露骨に避けたりするから。
(この黒人2人組は本当に自動車強盗ではあったのですが、)「何かやらかしそう」という思い込みだけで人に避けられるなんて、自分やったらどうやろって思うよね。
服装や振る舞いを変えることはできても、肌の色は変えられませんし。
でもジーンの立場になってみれば「何かやらかしそうと思ったらやっぱりやられた!」訳で、ますます怖くなり偏見をつのらせていきます。
髪型とタトゥーだけでギャング扱いの錠前屋
恐怖心から頭が偏見でガチガチに固まってしまったジーンに、スキンヘッドでタトゥーが入っているというだけで「まるでギャング!」と罵られるのが、実はただの娘を溺愛する父親であるダニエル(マイケル・ペーニャ)。
きっとジーンのこのような反応には慣れているのでしょう。罵られて視線を交わしても何も言わずにその場を立ち去ります。
家に帰ったダニエルは、以前は物騒な町に住んでいたらしく、銃声に怯えてベッドの下に隠れて眠る娘に、銃弾を通さない「透明マント」をプレゼントしてあげます。
めっちゃええオトンです。
見た目でかなり損してるタイプ。タトゥー消して髪伸ばした方がええよダニエル、マジで。
そして父の言葉を真剣に受け止め、プレゼントされた透明マントを愛おしそうにさすりながら眠る娘は、まるで天使。
気が付いたら幸せな気分になっている
序盤ではみんなが人の話も聞かず怒っていたりパニックに陥っていたり、自分勝手で好きなことを言っていて観るのが嫌になるほどですが、少しずつ彼らがただの嫌な奴ではないことが分かってきます。
最初はあんなに嫌な奴だらけで辟易していたというのに、これらの事実が少しずつ解明されていくことで、
…なんやコイツええ奴やんけ…。
あ~…そうやったんか…。
コイツも…。
この人も…。
と、少しずつ登場人物が好きになってきます。
群像劇といえば、ラストで怒涛のように今までのストーリーが結びついてあっけにとられると同時に感動を呼ぶものが多いですが、【クラッシュ(2005)】は「少しずつ」「少しずつ」誰も悪くない事実が心に染みてきて、やっと確信を得られるのはきっと観終わった後です。
根っからの悪人なんていない。
ガラにもなくそう信じたくなる映画でした。
映画【クラッシュ(2005)】の感想ってか気になった人
終盤のバスの場面で一瞬だけ映り込む、目が合っただけでオチッコちびりそうな悪人面のこちらのおっさん。
えっと…
ダニー・トレホさんでいらっしゃいますよね?
ちゃう?
若いし黒いしな…。
でも そっくり…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。