1931年/アメリカ/監督:ジェイムズ・ホエール/出演:ボリス・カーロフ、コリン・クライヴ、ヴァレリー・ホブソン、メイ・クラーク、ジョン・ボリス、エドワード・ヴァン・スローン
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ホラージャンルの映画でいいんですかねこれは。
数多の教訓を含んだ悲劇です。
名優ボリス・カーロフ扮する物言わぬ怪物の光を失った哀しい目を見ていると、胸の奥でどす黒くてずっしりと重い何かが服にこぼしてしまった醤油のシミみたいにじわじわと広がっていくよう。
恐ろしい見た目に「造られて」しまったために誰にも理解されず迫害を受ける怪物。
誰か、彼の手を取り、話しを聞いてあげてよ。
その隙に私逃げるんで。
1918年にメアリー・シェリーが匿名で出版したゴシック小説が原作の映画、【フランケンシュタイン(1931)】です。
映画【フランケンシュタイン(1931)】のあらすじザックリ
「フランケンシュタイン」は造った人の名前
四角い巨大な頭部に窪んだ目、体はつぎはぎだらけでいたる所にボルトがささった人造人間の名前が「フランケンシュタイン」であるという世界中の人々の誤解を生むことになった映画。
実際はこの可哀想な人造人間には名前すらありません。
人間たち(産みの親からさえも)からはただ「怪物」と呼ばれています。
正確には「フランケンシュタイン」とは怪物を造り出した科学者ヘンリー・フランケンシュタイン(コリン・クライヴ)のこと。(原作では“ヴィクター”・フランケンシュタイン)
現在定着しているフランケンシュタインのイメージはすべてこの映画から生まれています。
だって1910年に初めて映画化された時の怪物はこんなの。
ピエロか、日本の歌舞伎役者のようにも見えますね。
いずれにしても【フランケンシュタイン(1931)】が登場するまでの怪物の容姿は一貫しておらず、現在のそれとは大きくかけ離れたものでした。
マッド・サイエンティストのマッドな研究
そしてマッド・サイエンティストとしても有名なフランケンシュタイン博士は、実は原作ではただの大学生。
【フランケンシュタイン(1931)】ではその辺りは細かく描かれていないんですけど、やっぱり優秀なイチ学生であって、「博士」とまでは行かないみたいです。
※フランケンシュタインって書くとどうしても怪物感が出てしまうので、以下、この学生のことをヘンリーと記載します。
ヘンリーは大学で化学電気療法を極めようとする余り、盗んだ死体を継ぎ合わせて造り出した人造人間に電流を送り生命を吹き込む研究をしています。
ヘンリーの様子がおかしいことに気付いた婚約者のエリザベス(メイ・クラーク)は、友人のヴィクター(ジョン・ボリス)とヘンリーの恩師であるウォルドマン教授(エドワード・ヴァン・スローン)を伴ってヘンリーのいる山頂の見張り塔へやってきます。
「フランケンシュタインによる怪物」の誕生
奇しくもエリザベス達が訪ねてきた嵐の夜は、今まさに怪物が誕生しようという実験の真っただ中。
実験は成功し、怪物は動き出します。
やったあ!
完成や!
血もなければ腐食もない。あるのは縫い目だけの人造人間!
両手を前に突き出してフンガーフンガーと歩く仕草はボリス・カーロフのオリジナル。
暗い塔の中で生まれた怪物が、初めて見る天窓から漏れる光に向かって自分の背丈以上にも両手を伸ばそうとするシーンからすでに哀感漂っています。
この仕草もボリス・カーロフのオリジナル。すごい。
手のひら返すヘンリー
最初は「おいで」と言えばこちらへ来、「お座り」と言えば椅子に座る怪物に満足げだったヘンリー。
しかしひとたび怪物が暴れ出すや態度は豹変、今までの研究云々もどこ吹く風、
とあっさり認め、怪物の後始末をウォルドマン教授に押し付けて、エリザベスと一緒に自分の屋敷に帰ってしまいます。
そして自宅の大きなテラスでゆったりしながら一言。
どうやらコイツの頭にも電気が流れてしまったようです。
子供には容姿の恐ろしさなんて分からない
ヘンリーに見放され、見張り塔を出て森をウロウロしていた怪物が出会ったのは、愛らしい少女。
父親が出かけてしまってちょうど退屈だった少女は、一緒に遊ぼうと声をかけてくれます。
ここで少女につられるように初めて見せる怪物の笑顔は、ただの無邪気な赤ん坊のよう。
そりゃあの恐ろし気な醜いメーキャップに「ニッ」と口元だけがほころぶんで、不気味といえば不気味ですけど、それでもやっぱり内面からにじみ出る無垢さは感じられます。
そして2人は花を摘み、湖に投げては沈まずに水面に浮かぶ花がおかしくて笑う。
次から次へと花を投げ入れ、花がなくなってしまった怪物は、少女をひょいと抱き上げ湖に放り投げる。
哀しい描写ですよ。
だって、浮かぶと思ったんですよ。
美しい花みたいに美しい少女がフワフワ浮かんで、一緒にくすくす笑い合えると思ったんですよ。
炎に包まれた風車小屋
このへんシュールやなあ~…って思うんですけど、ヘンリーはフランケンシュタイン男爵家の嫡男で、町中の人(市長も)が「ヘンリー様」って言うくらいのボンボンなワケです。
そしてこのヘンリーが造り出した怪物は、この時点ですでにヘンリーの助手とウォルドマン教授と少女の3人を殺害しています。
それはみんな分かっているはずなのに、誰もヘンリーを責めないんです。
普通なら「お前があんな怪物を造ったばっかりに!」ってなりません?
ところがどっこい、町の人々はおろか溺死した少女の父親でさえも、ヘンリーの指示に従って怪物を退治しようとするんです。
そこはなんかちゃうんちゃうんかお前ら。
松明持った大勢の人々に山狩りをされ風車小屋に追い詰められる怪物。
風車小屋ごと焼いてしまえと口々に叫ぶ人々。
ケガして丁重に屋敷へ運ばれるヘンリー。
すべてが燃えて無くなったあとに残ったのは、画面の一点を見据えて何やら考えごとをしている私だけでした。
映画【フランケンシュタイン(1931)】の感想一言
原作者や当時の映画製作者たちの意図が気になります。
ホラー映画としてただ怪物を恐ろしい存在として描きたかったのか、この怪物の惨めさとフランケンシュタイン(人間)の身勝手さを描きたかったのか、それとも「生命の創造」という神への冒涜とも取れる行為への戒めとして描いたのか…。
それにしてもボリス・カーロフの迫力はすごい。
ちなみにこのメイクは、施すのも取るのもきっちり3時間かかるそうです。目には生気なく半閉じになるように蝋を塗ってあるんですって。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。