1975年/イタリア、スペイン、フランス/監督:ミケランジェロ・アントニオーニ/出演:ジャック・ニコルソン、マリア・シュナイダー、イアン・ヘンドリー、ジェニー・ラナカー、スティーヴン・バーコフ
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ロベルト・ロッセリーニやルキノ・ヴィスコンティらのネオリアリスモ映画が頂点を過ぎた頃に長編映画監督デビューを果たしたミケランジェロ・アントニオーニのロードムービー。イタリアとスペインとフランスの合作映画。
どストレートで分かり易いものが多いハリウッド映画と違って寓話的かつ不明瞭な作品で、ばりばりのハリウッドスターであるジャック・ニコルソンが主演しているんですけど不思議と違和感はありません。
盛り上がりに欠けるし解けない謎も多いんだけど、どこか憂いを帯びた終始寂しげな情景は忘れられない。
そしてあの長回し。
【さすらいの二人】です。
映画【さすらいの二人】のあらすじザックリ
突発的に“自分”を棄てたジャーナリスト
内戦中らしいアフリカの新興国でドキュメンタリーフィルムを撮ってるイギリスの有名ジャーナリスト、デビッド・ロック(ジャック・ニコルソン)。
彼は現地のゲリラに接触しようと試みていますが、なかなか思うように行きません。
その日の取材はもうあきらめてホテルに戻ると、知り合ったばかりの隣人デビッド・ロバートソンがベッドにうつ伏せになって動かなくなっていました。もともと持病があったらしいロバートソンの死因は心臓発作。
ロバートソンの死に顔をまじまじと見つめたロックは、自分とロバートソンの身分証明書の写真を入れ替え、ホテルの管理人に「デビッド・ロックさんが死んでるで」と報告をして、まんまと“デビッド・ロバートソン”に成り代わってしまうのでした。
有名な記者だと言うしさっきまで精力的に仕事をしていたものだから、どうしてロックがわざわざ進んで他人に成り代わるのか一瞬戸惑うところなんですけど、このあと徐々に、見ず知らずの外国人にインタビューする仕事が彼の天職ではなかったことが明かされて行きます。
「真実」とは程遠い「大衆が望む偏向報道」しかできない自分に嫌気が差していたのでしょうか。
ロックはその他にも、妻や家や子供(養子)や仕事の名声、これまで手に入れてきたすべのものから逃げるため、“自分にそっくりな人物が目の前で死んでいる”と云うまたとないチャンスをものにして、突発的に“自分(ロック)を殺して”、“新しい自分(ロバートソン)に”成り代わってしまいます。
ところがロックが成り代わったロバートソンは、実は解放組織に武器を流していた武器商人で、そのためロックは敵対するヤバイ連中から狙われてしまうんですね。
ラストの長回しと“少女”の正体
“ロバートソン”を狙う敵対組織、夫が生きていると信じる妻、それぞれが自分を探していることに気付いたロックは、ガウディの建築物の中で知り合った女子大生(マリア・シュナイダー)の助けを借りながら逃亡を続けます。
アンジェリーナ・ジョリーなんてメじゃないくらい悩ましげな唇してるよねマリア・シュナイダー。
花柄シャツon花柄スカートのコーディネートとか、奇抜なファッションもいたくよろしいと思います。
全編を通してセリフの少ない映画で、冒頭の砂漠の場面からロンドン、ミュンヘン、バルセロナと、誰がどの国へ行っても登場人物よりも際立っているのはその情景。
中でも並木道を車で走っている時に女子大生が後ろを振り返る場面は、別に怖い思いをするわけでもないのにぞわっと鳥肌が立つほど不気味に美しい。
そして…、ああ、次に観る時はラストの長回しの時間はかろうと思ってたのに忘れてた。
そうなんです、ラストの長回しがすごいんです。
私は【さすらいの二人】を観て「長回し」の概念が少し変わりました。
て言うか、これって「長回し」って呼び方で合ってるの?
いや待って。「長回し」ってナニ?
長回し=撮影用語。カットすることなくひとつのショットを、カメラで長い間回し続ける技法。
出典:現代映画用語辞典
はあ、やっぱり広義には「長回し」でいいのか。
いえね、ご覧になった方はお分かりになると思うんですけど、【さすらいの二人】のラストをただの撮影技術としての「長回し」で一括りにしてしまっていいのかなって思っちゃうんですよね。
これナニ?
魔法ですよ魔法(語彙無し)。
幽体離脱でもええわ。
何しろ最初は映っていたはずの鉄柵ですらいつの間にか超えてしまうんですから。あんな細い鉄柵の隙間にカメラ入る?カメラマンも寄って行ってる時に家具に足ぶつけて「あいたっ!」みたいなことにならへんの?どないして撮ってんのこれ?
ええホントにすごいんです。
この魔法の長回しにビビってる時にもうひとつビビらされるのが、どんな経路で繋がってるのか分からないけど、とにかく女子大生が“ロバートソン”を追ってる連中の一味だったって事実。
“ロバートソン”を始末しにやってきたヤバイ連中を見ても特に取り乱す様子もない(不機嫌そうではある)ことから、彼女がロックの居場所を彼らに教えたスパイであったことは一目瞭然。
よく考えたらもともと謎だらけで怪しい女の子だったけど。
私はすっかり騙されていたので、結構ビビりました。
映画【さすらいの二人】の感想一言
いちいち情景が素晴らしいと書きましたが、その分キャラクターの描写が淡々としていて抑揚が少ない。
でも後半になって、ロックの「40歳で目が見えるようになった男の話」を聞いている時に急に泣きそうになるんですよね。「これまで見えなかった(知らなかった)ことが見えるようになった男の話」なんですけど。
この話をした時ロックは女子大生がスパイだと知ってしまっていたのかどうか、その如何によってラストの虚無感が変わってきます。
なにしろヒントが少ないからね。鑑賞後もしばらくはどこがどうだったのか繰り返し考えてしまう系の映画です。こういう映画の余韻ってたまりませんよね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。