1958年/アメリカ/監督:スタンリー・クレイマー/出演:トニー・カーティス、シドニー・ポワチエ、セオドア・ビケル、ロン・チェイニー・ジュニア、チャールズ・マッグロー/第57回アカデミー脚本・撮影(白黒)賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
2人の人間が手錠で繋がれている。
「手錠」って一見すると、手錠の長さ分しか動けないことが最も不便な気がしますが、違うんですよね。重く硬く冷たい鉄の輪っかの部分で手首がイカれる。これが一番つらい。自分の思わぬ方向へ不意に手首が引っ張られるたび「うひっ」と顔をしかめてしまいます。
ジョークグッズのプラスチックの手錠しか見たことないけど、本作に出てくる手錠は近年のそれより遥かに重そうで、遥かに破壊できなさそう。
重い手錠をはずす術もないまま、協力し合って逃げる他に道はない2人の白人と黒人を描いた映画、【手錠のまゝの脱獄】です。
映画【手錠のまゝの脱獄】のあらすじザックリ
囚人護送車の横転によって自由の身に
ワイパーも追っつかないほど視界の悪い豪雨の中を疾走する囚人護送車。
そもそもこんな悪天候で護送なんて、日程変更とか何とかならんかったんかいな。
案の定運転を誤った護送車は盛大にスリップしてスッ転び谷底へ。運転手も囚人達も死んだり大怪我したりする中、2人の囚人の姿が見当たりません。
罪状:武装強盗(懲役10年)、公務執行妨害で5年追加、仮出獄禁止
罪状:加重暴行・殺人未遂(懲役20年)、独房、仮出獄禁止
逃げた2人が手錠でつながれた白人と黒人だと分かるや、警察署長は「追跡には及ばへんわ、間もなく殺し合うはずや」と軽視します。要は自滅してくれってことですね、職務怠慢もいいとこですわ。
猟犬たちがいい味出し過ぎ
しかし保安官マックス(セオドア・ビケル)は2人の追跡を開始します。
警察に協力するため地元の猟師が猟犬連れてやってきますが、本編に直接関係ない上に主人公の2人とは一切絡まないというのにこの人達がめっちゃええ味出してきます。
犬の体調ばかり気遣い、ラジオ片手にカントリーソング聴きながら捜索する猟師たちの、緊張感のないことないこと。
追手から逃れるため昼夜兼行走り続けるジョーカーとカレンの描写との緩急が通快。「犬に水を!」「犬に休憩を!」なんてことばっかり言ってる猟師と、ストイックに2人を追い続けるマックスとの温度差もいい感じです。
要領のいい白人、頭のいい黒人
一方、手錠でお互いの手を繋がれたまま逃亡したジョーカーとカレンはどうなったかと言いますと、まあ想像通り、いや想像以上に過酷な状況に追い込まれてゆきます。
川を渡るにしても、巨大な穴から抜け出すにしても、とりあえず自分が助かるためには手錠でつながった相手も助けるか片手を切り落とすしかない。どんなに相手が気に入らなくてもお互い協力する他道はない。
序盤は口論しながらも奇跡的に助け合えてた2人でしたが、「人間」が絡んだ途端そうはいかなくなります。
小さな村の商店に忍び込もうとして捕まってしまい、2人揃ってリンチされそうになった時。ジョーカーは黒人であるカレンを実質売るような言動をするんです。
【手錠のまゝの脱獄】は「自分の保身が一番」である白人を批判してるのかと思いきや、どうやら違うであろうことが後半に出て来る別の民家の女性のセリフから推察されます。
時代が反映されてるセリフ
村人達のリンチをまぬがれた2人がたどり着いたのは、美しい母親と幼い息子が暮らす人里離れた一軒家。
ここでようやく手錠を破壊することができ、夫に逃げられた母親(カーラ・ウィリアムズ)と自由の身になったジョーカーは恋に落ち、車で一緒に逃げることにします。
母親からもうすぐ近くを汽車が通ると聞いたカレンはここでジョーカーと別れることに。最後に母親はカレンに「沼地を通ると近道よ」と教えてくれます。
しかしカレンを送り出した後、いそいそと荷造りをする母親はジョーカーに驚きの真実を告げます。
沼に近道なんてないわよ?
底なし沼だから死ぬわ
なんだと?!
どうしてそんなウソをついた!
あの黒人が捕まったら私達のことを警察に言うじゃない
口封じよ
ここまでのセリフもびっくりですけど、ホントに驚くのはさらにこのあと。
一気に恋の熱も冷め、家を飛び出そうとするジョーカー。
彼を止めようとして放たれた母親のセリフがこちら。
待ってよ!
私何か悪い事した?!
めっちゃ怖くないですかこのセリフ。ホントに何が悪いか分かってないんですよこの人。
どうやら黒人なんて囮に使おうが口封じに殺そうが、何にも悪くないのが(一部の人達の中では)当たり前の時代らしい。
ここから分かるのは、この時代、黒人をリンチにかけようとした村人や、黒人相手なら平気で生死にかかわる嘘をつく母親の方がスタンダードなのであって、カレンと対等に接しようとしているジョーカーの方が少数派で異質だったってこと。
リンチの時にジョーカーを一瞬見損ないそうになったけど、あの時全責任をカレンにかぶせてこう言っていれば彼だけは助かったはず。
俺はなんにも悪くない!
この黒人に騙されたんだ!
でもこう言い切らなかったジョーカーは、かなり進歩的な思想の持主だったのかも知れません。
手錠も鎖も取れましたけど
止める母親を振り切ったジョーカーは、カレンが底なし沼にはまる前に追いつき真実を告げます。
家を出る時に息子に撃たれた傷のせいで「もう俺は逃げられない」と弱音を吐くジョーカーに、カレンは手錠のない腕を見せて言います。
立て。
俺たちは手錠で繋がってる。
………っっ!!(バタバタ!)
(カッコよくて悶絶)
カレンはなんとか走る汽車に乗り込み、ジョーカーを引き上げようと手を伸ばしますが、負傷したジョーカーは力尽きてしまってもう走れません。
カレンは右手で汽車の取っ手をしっかりつかんでいるので落ちるはずもないのに、ジョーカーの手が離れると同時に見えない手錠に引きずられるように一緒に落ちてしまいます。
いやいや。私には見えましたよ。2人を繋ぐ手錠が。
猟犬の鳴き声が聞こえ、追手の到着を待ちながら、「この逃走劇はなんやったんやろなあ~…」と力なく呟くジョーカーに言ったカレンのセリフがすごく好きです。
うん、いいじゃんもう。
頑張ったよ、頑張った。
「結果がすべて」なんて、ブラック企業の社長がブツブツ言うとったらええねん。
白人と黒人、2人で頑張ったからもういいよ。
映画【手錠のまゝの脱獄】の感想一言
映画としては爽快なラストですが、2人(特にカレン)のその後については想像したくないですよね。
刑期延びたりとかムチで打たれたりとか、絶対酷い罰くらわされてる…こわっ!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。