1958年/アメリカ/監督:カート・ニューマン/出演:ヴィンセント・プライス、パトリシア・オーウェンズ、アル・ヘディソン、ハーバート・マーシャル、キャスリーン・フリーマン、チャールズ・ハーバート
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
小林一茶の優しい心情がよく分かる句です。
ハエが手足をこするのって汚れを落とすためなんですってね。手洗い励行しとるわけです。ウ○コとかにたかる割に意外とキレイ好き。
そう、「ハエ」といえば「ウ○コにたかる」、「ウ○コを食す」、「ウ○コ大好き」。
その昔、イギリスのSF作家ジョルジュ・ランジュランという人が、そんな「ウ○コ大好きのハエが天才科学者と一体化してしまう」という、とんでもない物語を思いついてしまいました。
とんでもないですよこれは。
同じ虫でも「蝶と一体化」とか「テントウムシと一体化」ならまだマシ。なんなら「ヘラクレスオオカブトと一体化」だったらやってみたい人すらいるかも知れない。
でもジョルジュ・ランジュラン氏が思いついたのはまさかの「ウ○コ大好きのハエと一体化」。
とんっでもないですよこれは。
ウ○コ大好きなハエと一体化してしまった男の末路を描いたサイエンスフィクション、【蠅男の恐怖(1958)】です。
1986年/アメリカ/監督:デヴィッド・クローネンバーグ/出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィス、ジョン・ゲッツ、ジョイ・ブーシェル、ジョージ・チュバロ/第59回アカデミーメイクアップ賞受賞注※このサイトは映画のネ[…]
映画【蠅男の恐怖(1958)】のあらすじザックリ
物質転送機の発明と生体実験には気をつけろ
ドランブル兄弟が経営する「ドランブル・ブラザーズ電子工業」の工場。
ある夜、誰もいないはずの工場内でプレス機が作動する音が鳴り響き、夜警のおっさんが現場へ急行。するとそこにはプレス機に上半身をつぶされた遺体と、現場から走り去る女性の姿がありました。
夜警のおっさんはすぐに工場の経営者であるフランソワ・ドランブル(ヴィンセント・プライス)へ電話で報告。
夜警のおっさんが言うには、走り去った女性は、工場の共同経営者でフランソワの弟アンドレ(アル・ヘディソン)の妻エレーヌ(パトリシア・オーウェンズ)であったらしい。
実はその少し前、フランソワのもとに別の電話がかかっていました。
相手は渦中の人エレーヌ。
フランソワ。私アンドレを殺したの。
警察に電話をして、そしてすぐにこちらへきて!
弟に夢中だったエレーヌを今でも愛しているフランソワは、チャラス(ハーバート・マーシャル)という警部を連れてアンドレとエレーヌの屋敷へ駆けつけます。しかしエレーヌは「工場の遺体はアンドレです。殺したのはこの私。でも理由を申し上げることはできません」と言うばかりで、なぜアンドレを殺したのか口にしようとはしません。
聞けば夫アンドレの名誉と息子のフィリップ(チャールズ・ハーバート)を守るため、決して事件の真相を白日の下にさらすことはできないのだとか。
フランソワはエレーヌの気持ちを汲みつつ時折嘘も交えながら、彼女の口から真実を引き出そうと躍起になります。
天才科学者の大発明「物質転送機」の落とし穴
フランソワの努力の甲斐あって、エレーヌは次第に重い口を開き始めます。
アンドレは優秀な科学者で、常日頃から妻エレーヌも兄フランソワも知らない実験に没頭していました。
今のアンドレの研究テーマは「物質転送機の発明」。
電話ボックスに似た二つの転送機があって、こっちの転送機に入れた物体をあっちの転送機へ瞬時に転送するというもの。
転送にかけた日本製のお皿の刻印「made in Japan」が鏡文字になっていたり、生体実験に使った飼い猫ダンデロが空中を浮遊する分子に分解されたままになってしまったり(つまり“透明猫”状態)など、いくつかの計算違いもありましたが、発明は順調に進んでいました。
実験はいよいよ人間の転送を残すのみ。
しかしこの時、自ら被験体となったアンドレは知らなかったのです。
自分が入った物質転送機の中に、一匹の蝿が紛れ込んでいたことを。
転送機から出て来た時、アンドレはもう人間の姿をしていませんでした。
※っていうほど怖くないです。
実験は完全に失敗。
アンドレは実験に関する機械を破壊し記録を焼き、エレーヌに自分を殺すように言いつけたのでした。
原作中編小説「蝿」を忠実に再現した映画
冒頭でご紹介したとおり、【蠅男の恐怖(1958)】の原作は1957年の中編小説「蝿」です。
【蠅男の恐怖(1958)】で初めて映画化された本作は、1986年に【ザ・フライ】としてリメイクされています(原題はどちらも【The Fly】)。
1986年/アメリカ/監督:デヴィッド・クローネンバーグ/出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィス、ジョン・ゲッツ、ジョイ・ブーシェル、ジョージ・チュバロ/第59回アカデミーメイクアップ賞受賞注※このサイトは映画のネ[…]
現代風にアレンジされた【ザ・フライ】とは異なり、【蠅男の恐怖(1958)】はかなり原作小説に忠実に映像化されています。ほぼ原作通りと言っていいでしょう。
相違点と言えば実験中のトラブルでアンドレが変貌した姿とラストくらいでしょう。
原作小説でアンドレは、物質転送機に紛れ込んだ蝿ばかりか、その前段階の実験の失敗で空中を彷徨う分子にされてしまった可哀想な飼い猫ダンデロとも融合してしまっています。結果、人間とも蝿とも猫ともつかない異形の生物になり果てる。
変わり果てたアンドレの姿を原作小説「蝿」から以下に引用します。
真っ白な頭髪、つぶれたように扁平な頭蓋、二つ突き出ている尖った耳、桃色に濡れた鼻もまた、猫のそれでした。それも、驚くほど大きな猫の……
それに、その眼!眼と呼ぶよりは、眼があるはずの位置に、小皿ほどの大きさで、茶色に光るふたつのかたまりがあるのでした。動物か人間か、口のかわりに、毛の生えた長い割れめが、垂直にひび入っていて、そこからは黒い管が、ラッパのように先広がりの形で、ふるえながら垂れさがっているのです。
たえず唾液をしたたらせながら……
出典:「蝿」
また、ラストは、一連の事件が解決してフランソワとエレーヌとフィリップの三人で新たな門出を迎えるという少々拍子抜けしてしまう映画のハッピーエンドとはうらはらに、原作小説ではなんと、エレーヌ(小説ではアンとうい名前)の自殺という衝撃だけど納得の展開で幕を閉じるんです。
そりゃそうでしょうよ。
妻の立場に立ってみれば、天才科学者だった自分の夫が世紀の大実験に失敗して異形の生物になり果て、あまつさえその可哀想な夫を自分の手で葬り去らなきゃならないだなんて、正気の沙汰ではいられませんよ。
映画【蠅男の恐怖(1958)】の感想一言
小説「蝿」、映画【蠅男の恐怖(1958)】と【ザ・フライ】。
三作を比べてみて最もしっくりくる幕引きは、哀しいけどやっぱり小説「蝿」バージョンのラストではないでしょうか。
1986年/アメリカ/監督:デヴィッド・クローネンバーグ/出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィス、ジョン・ゲッツ、ジョイ・ブーシェル、ジョージ・チュバロ/第59回アカデミーメイクアップ賞受賞注※このサイトは映画のネ[…]
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