1980年/アメリカ/監督:マーティン・スコセッシ/出演:ロバート・デ・ニーロ、キャシー・モリアーティ、ジョー・ペシ、テレサ・サルダナ、フランク・ビンセント、ニコラス・コラサント/第53回アカデミー主演男優・編集賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
大げんかしたとか、浮気されたとか、暴言吐かれたとか。
例え理由がどんなものであっても、女性と子供に手をあげる男って最低ですよね。
最も下等な生物だと思います。
奴らは虫です。
いやあかん…虫って言ってもカブトムシとかテントウムシとかええ感じのもいるんで、もっともっと、虫以下。
塵?埃?
じゃあ埃でいきましょうかね。
本日は埃の半生を描いた映画、【レイジング・ブル】です。
映画【レイジング・ブル】のあらすじザックリ
白黒映像であることについて
冒頭の画像、【レイジング・ブル】のタイトル画面。
【レイジング・ブル】は、このタイトルの赤文字と途中の8ミリ映像以外、全編白黒映像の作品です。
マーティン・スコセッシ監督がどうして白黒にしたのかについては諸説ありますが、白黒であることでまるで1940年代に活躍した実在のボクサー、ジェイク・ラモッタを間近で観ているように錯覚できる効果を生んでいることは間違いありません。
中でも印象的なのは、ミドル級チャンピオンだったジェイク・ラモッタが3度目の防衛戦でシュガー・レイ・ロビンソンに滅多打ちにされるシーン。
これでもかというほどに打ちのめされたジェイクの顔面からは血がほとばしり、リングを囲うロープにもジットリと血が染み込んでいるいるのが分かるんですけど、余剰な彩りがないことで逆に想像力をかき立てられます。
ある人にとっては実は大した傷ではないかも知れないし、ある人にとっては実は会場いっぱい血の海かも知れないし。観る人によってイメージが変わるこの演出が好きです。
もう一つの特徴は、まだ若く幸せだった頃のジェイク達が家族で撮った8ミリ映像だけはカラーだってこと。
映像自体は荒いけど、鮮やかに画面に映える色彩はなんとなく現実的じゃなくて、こっちの方が作られた映画みたい。
虚像はカラーで華やかに、実像は白黒で重苦しく映し出される世界観は、まったくジェイク・ラモッタの人生そのもののようじゃありませんか。
「デ・ニーロ・アプローチ」という言葉を生んだ究極のビフォーアフター
【レイジング・ブル】は徹底した役作りをすることで知られるロバート・デ・ニーロの、その演技に対する姿勢やストイックさを表す造語「デ・ニーロ・アプローチ」を決定的に世に広めるきっかけになった映画でもあります。
プロボクサーだった1940年代のジェイクと引退後の1960年代のジェイク、一人でその両方を演じたロバート・デ・ニーロは、映画の前半と後半で別人のように変貌しています。
【ブリジット・ジョーンズの日記】でレネー・ゼルウィガーがまるまると肥えた時もびっくりましたけど、そんなレベルじゃなかったもんね。あれと比べたらあかんか。言うてもレネー・ゼルウィガーが増量したのはせいぜい10キロ程度。
ロバート・デ・ニーロがこの時増量したのはなんと約27キロ。
そりゃそうよね、鍛え上げられたボクサーからのトドですもん。
特殊メイク無しであのウォーターベッドのようなぷりんぷりんのお腹を体現できるなんて普通じゃ考えられない。
【アンタッチャブル】でアル・カポネを演じた時に頭髪を抜いたのも有名ですけど、やっぱりロバート・デ・ニーロはすごい。
1987年/アメリカ/監督:ブライアン・デ・パルマ/出演:ケヴィン・コスナー、ショーン・コネリー、アンディ・ガルシア、チャールズ・マーティン・スミス、ロバート・デ・ニーロ/第60回アカデミー助演男優賞受賞注※このサイトは映画[…]
実在のボクサー、ジェイク・ラモッタの伝記映画
さてでは、埃のお話に戻ります。
タイトルの「怒れる牡牛」ってのは、スタミナがあって打たれても打たれても前に出るファイターだった元世界ミドル級チャンピオン、ジェイク・ラモッタの現役時代の愛称です。
カッコええ愛称付けてもらったところでその実態はただの埃。
のっけからですよ、いいですか、のっけから不名誉な判定負けによりデビュー戦以来無敗の記録に傷がついてしまったジェイクはですね、嫁はんやマネージャーで弟のジョーイ(ジョー・ペシ)に当たり散らすんですよ。
まあ百歩譲ってジョーイに当たるくらいは良しとしますよ。
どうしたって許せないのはここです。
嫁を殴る。
八つ当たりで。
おいホンマやめとけ。
埃確定。
ビッキーと出会って良かったのか悪かったのか
試合ではあれほど勇猛果敢な戦いぶりで観客を魅了するというのに、私生活のジェイクはもうダメ人間極まりない。
妻がいながら15歳の美しい少女ビッキー(キャシー・モリアーティ)に心を奪われたジェイクは、あっさり乗り換えてビッキーと再婚。
最初は可愛くて仕方ないって感じだったのに、結局機嫌の悪い時には前妻と同じようにビッキーにも当たり散らすジェイク。もちろん殴る。
一度なんてグーで殴る。
プロボクサーがですよ?
プロボクサーが女性をグーで殴るって。
ゴミでしょ。
しかもグーで殴った原因が若くて美しい妻ビッキーに対する行き過ぎた嫉妬心。
ビッキーも気が強いんで「ブタ!」とか「死ね!」とか言い返すんですけど、それでも女性を殴ってもいい理由には絶対ならない。
リングの上の精悍な姿と私生活での埃っぷりのギャップがもうおかしい。
世界チャンピオンになれるほどの強くて丈夫な肉体が、これほどひ弱で脆い心と表裏一体だなんて、にわかには信じがたいですよね。ボクシングに勝利するには強い精神力も必要なんだろうと勝手に思ってますけど、「心の弱さ」はそれとは別なんでしょうか。
試合で勝ち続ける一方でビッキーへの執着心と猜疑心が強くなっていくジェイクの狂気が恐ろしい。
ジョー・ペシと仲直りはできたのかできなかったのか
そんな埃人間ジェイクが唯一心を許す存在ジョーイを演じたのは【ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ】や【グッドフェローズ】でもロバート・デ・ニーロと共演しているジョー・ペシ。
1984年/アメリカ・イタリア/監督:セルジオ・レオーネ/出演:ロバート・デ・ニーロ、ジェームズ・ウッズ、エリザベス・マクガヴァン、ジョー・ペシ、ジェニファー・コネリー、バート・ヤング、ジェームズ・ヘイデン、ウィリアム・フォーサイス[…]
1990年/アメリカ/監督:マーティン・スコセッシ/出演:レイ・リオッタ、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、ロレイン・ブラッコ、ポール・ソルヴィノ、フランク・シベロ、マイク・スター、サミュエル・L・ジャクソン/第63回アカデミー助[…]
ホント仲良し。この2人が共演すると何となくスリリングな雰囲気が出てたまんない。
ビッキーへの執着が行き過ぎたジェイクは、ジョーイまでもビッキーと関係があったと疑い始め、そのことがきっかけでジョーイから完全に縁を切られてしまいます。
数年後、引退してトドと化したジェイクが経営するバー“ジェイク・ラモッタの店”でコメディアンとして舞台に立つようになった頃、町で偶然絶縁状態だったジョーイに再会。
ジェイクは昔のことなどなかったようにすり寄りますが、ジョーイはこっぴどく虫…いや無視。
あんまりジェイクがしつこいんで、仕方なくジョーイは「また電話するから」と言ってやり過ごすワケですけど、その後電話はかかってきたのかこなかったのか。
どちらにも取れる終わり方なんでどちらに取ってもいいんでしょうが、私は結局仲直りはできなかったんだろうと思ってます。
理由は、ジョーイと別れた後、ジェイクが劇場の控室で練習している今夜の舞台のジョークの内容にあります。
この日のジョークはマーロン・ブランド主演映画【波止場】のセリフを引用したもの。
【波止場】でマーロン・ブランドはこう言うてるやろ。
「兄貴に言われて八百長試合をやったら俺の人生は狂ってしまった。
兄貴のせいや。
全部兄貴のせいなんや」って。
【波止場】のマーロン・ブランドはどちらかと言えば被害者なんです。兄貴のロッド・スタイガーがギャングのボスの右腕で、悪事に手を染めるしかなかったと。
1954年/アメリカ/監督:エリア・カザン/出演:マーロン・ブランド、エヴァ・マリー・セイント、カール・マルデン,リー・J・コッブ、パット・ヘニング、マーティン・バルサム、リーフ・エリクソン/第27回アカデミー作品・監督・主演男優・[…]
ジェイクはこのマーロン・ブランドのセリフを、鏡に向って結構な時間ブツブツ唱え続けてるんですよね。
長すぎて笑いなんか取られへんのちゃう?ってくらい。
これってつまり、ジョーイから電話なんかかかってこず結局縁は切れたままだけど、「すべては俺が悪かったからや」と自分をかえりみているように感じられます。
でもその後すぐに「俺はボス!俺はボス!」って言ったりもしてるんで、どうやら混乱してるっぽい。
自分ばかりが悪かったと本気で思ってしまうと気力を保てないから、自衛本能として「自分は間違ってない(=ボス)」とも言い聞かせつつ、結果として今身の周りに誰もいなくなってしまった現実を受け止めようとしてる。
最後の最後まで“ジェイク・ラモッタ”という人物の肉体の強さと精神の弱さが対比されてる、見応えのある映画です。
映画【レイジング・ブル】の感想一言
とりあえず、
男は女性と子供(老人も)を殴ったらあかん!
ボクサーなんかもっとあかん!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。