1958年/アメリカ/監督:ジョン・スタージェス/出演:スペンサー・トレイシー、フェリッペ・パゾス、ハリー・ビレーヴァー、ドン・アダイモンド/第31回アカデミードラマ・コメディ映画音楽賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
「ハリウッド史上最高の名優」のひとりに数えられるスペンサー・トレイシー。
個人的には彼の最高傑作だと思っている映画です。
老いていようが何のその、小鳥や星に語りかけながら大海原を漂い、アフリカの大平原を思い出しては自分を奮い立たせて突き進む。
好きです“男の孤独な戦い”、【老人と海】です。
映画【老人と海】のあらすじザックリ
一人芝居のスペンサー・トレイシー
原作は言わずと知れたアーネスト・ヘミングウェイの同名短編小説。
小舟に乗った老漁師サンチャゴ(スペンサー・トレイシー)が海の上でマカジキと戦う描写に終始するので、音声のほとんどが老人の独り言かナレーション。だからまるで“動く挿絵”に合わせて小説を朗読されているような印象。
後述する一箇所を除いてかなり忠実に原作を再現していますし、いくら文芸作品の映像化と言ってもここまで“読み物っぽい”映画も珍しい。お陰で読み物がいつまでも色褪せないように、映像の粗さなんて気にならないほど新鮮味を失わない不朽の名作に仕上がっています。
さらに言うなら笑ったり戦ったり眠気を催したりするスペンス(※スペンサー・トレイシーの愛称)の一人芝居の前では、海や空が明らかに合成されていることなんてどうでもいい。何となく老人の小舟が海に浮かんでいるように見えさえすればそれだけでいい。スペンスの大衆を魅了するその演技力さえあれば万事良好。
ブラボースペンス。
海に憩う、海に挑む、海を労う
老漁師サンチャゴは、もう84日間も釣果が上がっていません。最初の40日間は助手の少年マノリン(フェリッペ・パゾス)が一緒でしたが、少年の両親が老人の船を見限って別の船に乗るよう言いつけたので、それからはずっとひとりで漁に出ています。
でも少年は自分に釣りを教えてくれた老人をとても慕っていて、老人が漁から戻るといつも身の回りのことを手伝ってくれていました。
85日目。
今日もひとりで海に出た老人は、その海と同じ色の明るくくじけない目でただ垂らした釣り糸を見つめ、少年が買ってくれた餌に大物がかかるのを待っています。
漁に出た日の正午、老人はついに自分の餌を釣り針ごとくわえた巨大なカジキが海面に跳びあがるのを目にします。
小説を読んでいるのと違って映画を観ていていいところはこういう場面でしょうか。
ここで恐らく視聴者全員がハッとします。
今でも普通にマグロの一本釣りとかありますけど、乗ってる船と持ってる武器が違うでしょうに。
釣り糸一つ取ってみても、老人が愛用しているのは当然現代のナイロン製のものには程遠いタコ糸みたいな糸なんですよ?釣り竿はただの木の棒だし。
その船とその武器でカジキって。
ともすれば小説で読んでいると想像力が及ばずスルーしてしまいがちな「小舟に乗ったひとりの老人がショボい道具でその小舟よりも大きなカジキを一本釣り」と云う偉大な事実をほんの数秒で描き出すんですから、映画ってやっぱりすごいですよね。
ラストの食堂のおっさんのセリフについて
再三書いてきましたが、【老人と海】は限りなく読み物に近い映画だと思うので、良くも悪くも意味深な映像から視聴者に推察させるような描写は少ないです。
難解な部分(例えば老人の「ライオンの夢」が暗示するものなど)もあるにはあるけど映画の難解な部分は小説においても同じように難解ですから、原作をそのまま忠実に再現しているだけのこと。
でも一箇所だけ、原作とまったく違っていて混乱させられる場面があります。
ラストの観光客のおばちゃんと食堂の給仕が会話する場面です。
観光客のおばちゃんが、波打ち際を漂う老人が釣ったカジキの骨と尻尾を見て、「あれは何の骨?」って聞くんですね?
すると給仕がやってきてそれに答える。
ここまでは映画も小説も一緒。
小説ではここで、給仕が「ティブロン(※スペイン語で「サメ」の意)…」と言いかけ、それから英語でたどたどしく「サメが…」と事の顛末を話そうとするものの、早とちりしちゃったおばちゃんが「まあ~サメってキレイな尻尾してるのねえ~!」と言って会話は終わってしまいます。
ところが映画では、「あれ何?」と聞かれた給仕がはっきりと「サメです!」と断言しているんです。
これじゃあ意味が分かりませんやん。
あの尻尾がカジキのものだろうがサメのものだろうが3日間にも渡る老人の死闘のことなんて誰一人知る由もないと云う事実は変わらないにしても、最後の最後にどうしてわざわざこんな演出にしちゃってるのか、それだけが謎なんですよね。
映画【老人と海】の感想一言
その気になればいくらでも深読みして宗教的教訓に結び付けることができてしまう「海(=神)に挑む人間の徒労」を描いた映画ですが、とどのつまりは「老人」の豊富な経験と知識に「少年」の漲 る活力を融合することができれば人類の未来は明るいんじゃない?ってことが描かれているんだと考えれば元気が湧いてきます。
鑑賞後、「希望に満ちたセンチメンタルな気分」を味わうことができる名作です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。