1991年/アメリカ/監督:テリー・ギリアム/出演:ジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズ、アマンダ・プラマー、マーセデス・ルール、マイケル・ジェッター、デヴィッド・ハイド・ピアース、キャシー・ナジミー、トム・ウェイツ/第64回アカデミー助演女優賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
トマス・マロリーがまとめた中世の騎士道物語群「アーサー王物語」の中に、ぺラム王という傷を負った王様が出てきます。
ただ座っていることも困難なぺラム王は魚釣りくらいしかできなかったため、「漁夫王 (Fisher King)」と呼ばれていたそうです。
「聖杯の水を飲まない限りは癒えない傷」を負った漁夫王の伝説になぞらえたテリー・ギリアム監督によるヒューマンドラマ、【フィッシャー・キング】です。
映画【フィッシャー・キング】のあらすじザックリ
元人気DJジャックと浮浪者パリーの物語
“ヤッピー”なんか人間やない!
手遅れにならへんうちに滅ぼすべきや!
過激な発言で人気を博すラジオDJのジャック・ルーカス(ジェフ・ブリッジス)。自伝の出版やTV出演も決まり、彼の人生は順風満帆かに見えました。
参考 ヤッピー(yuppie)=ヤング(Young)、アーバン(Urban)、プロフェッショナル(Professional)から引き出された造語。1980年代に流行。30代で社会経済的に高水準を目指すライフスタイルをもつエリート青年を指す。
ところがある日、ジャックの発言を真に受けたひとりのファンがヤッピーの集まるバーでショットガンを乱射。何の罪もない7人の若者が死に、加害者の青年もその場で自殺。
法的に罪に問われはしなかったものの結果的に無差別大量殺人を教唆したような立場になってしまったジャックは、ショックのあまり表舞台から姿を消してしまいます。
浮浪者に助けられるヒモ男
3年後、ジャックはすっかり落ちぶれて、レンタルビデオ店を経営する恋人のアン(マーセデス・ルール)のヒモ状態になっていました。
ある晩アンと口論になり酒に酔ってへべれけ状態で家を飛び出したジャックは、浮浪者に間違えられて若者達の“浮浪者狩り”のターゲットになってしまいます。
ジャックの体にガソリンをかけて火をつけようとする若者達。生きたまま人焼くて。お前らみたいな連中が普段は普通に学校行ったりしてんのが怖いわ。
そこへ数人の仲間を引き連れ騎士道を振りかざし颯爽と現れたのが本物の浮浪者パリー(ロビン・ウィリアムズ)。
なんでこんなに強いのかはよく分からないけど(パリーは「多勢に無勢だ!」って言ってるけど浮浪者軍はよぼよぼのお爺ちゃんも含めて4人だけ)、とにかくジャックはパリーのお陰で九死に一生を得るのでした。
「自分のためにする善行」でもいいじゃない
自分がキリストの慈悲の象徴である“聖杯”を探す使命を負った“騎士”だと本気で思っているパリー。
(あかんコイツ頭おかしい!)
…たたたたた助けてくれてありがとう、ほな俺、帰るから…。
いやお待ちなさい、もともとは大学教授だったパリーの人生を(間接的に)狂わせてしまったのはどうやらジャックであるらしい。
だってパリーの恋女房は、3年前の銃乱射事件の犠牲者だから。
あの晩事件現場となったバーで妻と食事をしていたパリーは、突然目の前で妻の頭が吹っ飛ぶのを見ました。
その時以来パリーもどこかへ飛んで行ったまま。
そりゃそうなるよ、愛する人の肉片が顔面に飛び散ったんですから。
この悲劇を知ってしまったジャックは何とかパリーの力になろうと奔走します。
ジャックって自己中な男なんでね、当然最初は「自分の罪滅ぼし」的な感じでパリーを助けようとするんですよ。要は「お前が不幸やったら“俺が”困るねん!」ってことね。
でも最終的にパリーもジャックも幸せになるなら動機なんてどうでもいい。
昔から「情けは人の為ならず」って言いますやんか、いいんですよそれで。誰だって「100%他人のため」って思うとケツが重いですけど「自分への見返りも期待しての善行」ならフットワークも軽くなるよね。動機は多少不純であっても何かアクションを起こすことでどこかで救われている誰かが絶対にいるはず。
良い行いも悪い行いもいずれ自分に還ってくるって信じながら、まずは一歩踏み出しましょう。
パリーが語る「フィッシャー・キングの話」全文
「漁夫王の伝説」は、元大学教授のパリーによって語られます。
王は王子の頃、腕試しのため森で一夜を過ごした。
眠っていると妖精が夢枕に立ち、神の慈悲の象徴である聖杯が炎の中から現れた。
そして声が…。
「人の傷を癒す聖杯をお前に託す」
だが王が抱いていたのは権力と栄光の夢。
その一瞬少年でなく神に近い不死身の人間になったような気がして炎の中に手を伸ばすと、聖杯はかき消えて手に酷い火傷を負った。
成長するにつれ傷は悪化して、自分がなぜ生きてるのか、人も自分も信じられず、愛し愛されることもなかった。
苦しみに絶望し死の床に…。
ある日気のいいうつけ者が城に迷い込み、相手が王とは知らず苦しんでいる男に声をかけた。
「一体どうなさった」
王は答えた。
「水をくれ、のどが焼けるようだ」
男はそばにあった杯に水を満たし差し出した。
水を口にすると王は痛みが和らぐのを感じた。
見るとそれは長年探し求めていた聖杯だった。
王は男に尋ねた。
「誰も探せなかった物をなぜお前が…?」
男は答えた。
「俺はただあんたに水を…」
出典:【フィッシャー・キング】字幕
【フィッシャー・キング】には伝説の漁夫王と同じように“癒えない傷を負った男”が何人も出てきます。
パリーとジャックはもちろん、昔は人気者だったと豪語するキャバレーダンサー(マイケル・ジェッター)然り、自分のことを「俺は言わば赤信号や」と分析する傷痍軍人(トム・ウェイツ)然り。
全世界の“癒えない傷”を持つ人々へのテリー・ギリアム監督からのメッセージと捉えるにはオモロ過ぎる映画だけど、観れば“痛み”くらいは取れんじゃない?
映画【フィッシャー・キング】の感想一言
惨劇を引き起こしてしまったジャックの葛藤に加えて、ジャック&アンとパリー&リディア(アマンダ・プラマー)の2組のカップルのラブロマンスも描かれる贅沢な映画。
リディアが歩くだけでパリーの目には駅の雑踏がダンスホールに映るだなんて、なんなのその少女漫画級の恋愛至上主義的ノリ。
とか言ってますけど私はパリーのセリフ「ロマンス小説は下らなくない!」がめちゃくちゃ好きです。
愛だの恋だのって恥ずかしいもんだからつい誤魔化してしまいがちですけど、パリーほど真っ直ぐでいられたら茶化すこっちがバカみたいだよね。
恋愛小説少女漫画上等、恋に憧れて何が悪いのさ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。