1988年/イタリア/監督:ジュゼッペ・トルナトーレ/出演:フィリップ・ノワレ、サルヴァトーレ・カシオ、マルコ・レオナルディ、ジャック・ペラン、アニェーゼ・ナーノ、レオポルド・トリエステ/第62回アカデミー外国語映画賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
すんごい涙もろいんですよね私。ちょっと感動するとすぐ涙出てくる系。
そんな私が数年ぶりに本日の映画を再視聴してみましたところ、やっぱり全然ダメでした。
歳もとり清い感性なんて消え失せて久しいし、あらすじは全部分かってるんだから昔観た時ほどはもう泣かないだろうってタカくくってたのに、もお~全然ダメ。
最後の1時間くらい泣きっぱなし。
なんやったら中年期のトトに年齢が近くなった分感銘を受ける場面が多くなっていて、若い頃より泣いた気がします。これはあれですね、さらに年月を経て、今度はアルフレードやトトの母親の年齢に近付いてから観ると、もっと泣いてしまうあれですね。
こんな映画さあ、こんな映画おかしいでしょ、ねえ。おかしない?
優しい雰囲気を醸し出すシチリアの景色だけでも懐かしいのに、気持ちよさそうな風が吹くバルコニーの植木鉢からゆっくりと室内へトラックバックしていくオープニングや、壁に映した恋人の映像に話しかけキスをする主人公、編み物の糸がほつれて止まることだけで表現した人物の動きなど、カメラワークも実に巧み。
公開から20年以上経った今でも、観た者の頬を濡らし翌日目をパンパンに腫らすという容赦ない洗礼を浴びせてくる殺人的名画、【ニュー・シネマ・パラダイス】です。
キスシーンが有名な映画【ニュー・シネマ・パラダイス】のあらすじザックリ
映画に没頭した少年時代のトト
ローマに暮らす有名映画監督サルヴァトーレ(ジャック・ペラン)。彼の元にかかってきたのは、故郷の母からの電話。
電話を取った恋人からの報せを聞いて、ただ茫然とするサルヴァトーレ。彼は懐かしい故郷…シチリア島の小さな村に思いを馳せます。
少年時代のサルヴァトーレは“トト”と呼ばれていました。
トト少年(サルヴァトーレ・カシオ)が暮らすシチリア島の小さな村にある映画館は教会と兼用。今日も司祭が映画を試写しつつ、映写技師のアルフレード(フィリップ・ノワレ)に命じてハレンチなキスシーンをカットさせてます。
「カットする」と言ってももちろん現代のように編集する訳ではなくて、フィルムをハサミでちょっきんするという物理的手段。登場人物がちょっと口付けを交わすだけでも司祭がカットさせるもんだから、映写室はちょん切れたフィルムだらけ。
…そのフィルムをコソ泥のように付け狙う少年が映写室にちょろり。
こりゃトト!また来たんか!
ここには入ったらあかんてなんべん言うたらわかんねや!
映画が大好きなトトはしょっちゅう映写室に忍び込み、落ちてるフィルムを盗んだり上映中の映画を覗き見したりしていました。
何度たしなめても忍び込んでくるトトに、アルフレードはひとつ約束をします。
よっしゃ分かった!!
そこまで欲しいんやったら、この切れたフィルムは全部お前にやる。
ほんで、俺が全部保管しといたる。
わかったら帰れ。
やったー!
ありがとうアルフレード!
…?
…なんかそれおかしくない?
後ろにこっそり映り込む【カサブランカ】のポスターよ。
他にもバスター・キートンのポスターが貼られていたり、グレタ・ガルボ、タイロン・パワーといった大スターの名前が挙がったり、【ニュー・シネマ・パラダイス】にはハリウッド黄金期の映画タイトルや俳優の名前がポンポン出てくるんで、それだけでなんだか嬉しくなってしまいます。
1942年/アメリカ/監督:マイケル・カーティス/出演:ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン、ポール・ヘンリード、クロード・レインズ、コンラート・ファイト/第16回アカデミー作品・監督・脚色賞受賞注※このサイトは映[…]
父親そっくりの大スター
トトの父親は戦争に行ったきり帰ってきません。父親の友人だったアルフレード曰く、クラーク・ゲーブルに似ていたそうです。
それにしても私ときたら、それを聞いたトトが部屋に飾っていたクラーク・ゲーブルの写真が、中年期のトトの部屋にも同じようにきちんと飾られていたのを見ただけで感涙。
まあ根性のない私の涙腺なんてこんなもんですよ。
父の戦死を聞かされた時、涙をこらえきれない母親の傍らで、もともと父親の存在すら覚えていないうえ死の意味さえもよく分からない小さなトトは、クラーク・ゲーブルのポスターを見て嬉しそうに微笑んでます。
まぶたの父を大好きな映画スターに投影させ、悲しみにも負けず無邪気に成長するトトへの愛着が止まりません。
小学校卒業試験での出来事
ある日、トトの小学校で卒業試験が行われていました。
そこへ申し訳なさそうに入ってくる数人の年老いた男性…もちろん教師ではありません。小学校の教育課程を修了できなかったこのオッサンたちは、卒業試験を受けに来ているんです。
その中にアルフレードの姿もありました。
アルフレードの斜め前に座っている賢いトトはすらすらと問題を解いている様子。一方さっぱり解答が分からないアルフレード。
利害が一致した二人は前よりさらに仲良くなって、トトは映写技術を教えてもらうようになります。
クラーク・ゲーブルには到底及ばないけど、トトはアルフレードを父のように慕い、アルフレードも本当の息子のようにトトに目をかけ、強い信頼と絆で結ばれて行くんです。
映画の隆盛期
【ニュー・シネマ・パラダイス】の前半では、「映画」という娯楽がどれだけこの時代の人々に愛されていたのかが描かれます。他に娯楽の少なかった小さな村ではなおのこと。
時には映画館(教会)を閉め出された観客にリクエストされたアルフレードが、広場の大きな建物に映画を映しだしてくれたりもします。
昼間はただの壁なのに、そこに万華鏡さながら映し出される物語の数々。もしかしたらトトはアルフレードを魔法使い、映写機を魔法の箱のように思っていたかも知れません。
騒ぎを聞いて建物のドア(=スクリーンのど真ん中)を開けた住人は「引っ込めバカヤロー!」と理不尽な野次を飛ばされ、少ない座席を奪い合う小競り合いなんかも日常的に起こっていますが、心の底では村人みんなが仲良くて、そして村人みんなが、映画を愛していたんですね。
昔のフィルムは燃えやすかった
そんな中、映画館で大事件が起こります。
フィルムベースにナイトレートセルロース(硝酸)が使用されいているナイトレートフィルムは、1889年、イーストマン・コダックが発売。映写機とカメラのスプロケットに耐えうる堅固なこのフィルムには、致命的な弱点があった。化学構造上、一度火がつくと酸素を放出しながら燃えてしまうのである。さらに温湿度が上がると、密閉された缶の中で自然発火してしまうほど可燃性の高い物質で、一度火がつくと水でも消すことができない。
ー中略ー
映画『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)の主人公トトが愛した劇場が燃えてしまったのも、これが原因である。
出典:特定非営利活動法人映画保存協会
フィルムを原因とした火災が起こり、映画館は全焼。そして映写室でフィルムを守っていて逃げ遅れたアルフレードは目を焼かれ視力を失います。
映画館はサッカーくじ成金の男によって「ニュー・シネマ・パラダイス」として立て直され、映写技師にはアルフレードに代わって幼いトトが抜擢されました。
恋に燃え上がった青年時代のトト
時は過ぎ、今やトト(マルコ・レオナルディ)は野次が飛ぼうが高熱が出ようが与えられた仕事をこなし、映画館の支配人に興行的なことを助言したりもできる立派な青年になっていました。
幼少期から有する映画への情熱は、ついにムービーカメラを手に自分で撮影するまでに。こうやって天才映画監督が生まれていくのね。
ますます隆盛を極める映画と「ニュー・シネマ・パラダイス」
日々忙しくトトが映写機を回す傍ら、以前にも増して映画に熱狂する村人達。
映画のセリフを完璧に暗記していて口に出してしまうじいさんがいたり、検閲が緩くなったことで上映されているエロ映画の最中に商売女と消えていく男性がいたり、何やったらその場でいかがわしい行為に及んでいる少年達がいたり、中には悪漢に撃たれるシーンがリアルすぎてショックを受け、一緒に還らぬ人となった老人までいます。
目が見えなくなってしまったアルフレードも妻を伴って度々訪れ、映像を説明してもらいながらセリフに聴き入ってます。
そして夏ともなれば屋外大上映会まで催されます。
この辺りの描写すべてに、【ニュー・シネマ・パラダイス】が「映画を愛する人達が作った映画」であることがにじみ出てます。マナーのない人が多くて色々な規制ができてしまった今では考えられない鑑賞風景ですが、観客が一つになって大爆笑したり涙したりブーイングしたりする様は憧れずにいられません。
エレナとの出会い、そして恋
ある日、トトがいつものように駅の周辺でカメラを回していると、見慣れない美しい女性が降り立ちます。
意志の強そうな凛とした目、優しく揺れるふわふわの金の髪、胸を張って颯爽と風を切って歩く姿…彼女の名はエレナ(アニェーゼ・ナーノ)。トトが生涯愛することになる女性。
トトはひと目でエレナに心奪われ、トトから片想いの相談を受けたアルフレードはこんな話を聞かせてくれます。
王女に恋をした兵士がいた。
兵士が想いを告げると王女は「100日間バルコニーの下で待っていてくれたら貴方のものになります」と言う。
兵士は待った。
雨が降ろうと雪が降ろうと鳥に糞されようと鉢に刺されようとひたすら待った。
そして99日目。
あとたった1日となった時、兵士はその場から立ち去った。
え?!
あと1日やのに?!
この時点では2人ともどうして兵士が立ち去ったのか分かってません。分かれへんのになんでこの話ししたんやアルフレード。私なんて未だに分かりませんけど。
しかしこの話を聞いたトトはエレナの部屋の窓の下で何日も彼女を待ち続け、ついに彼女の心を手に入れることに成功するのでした。
前途洋々の青年トトにアルフレードが託した思いを考察
ところが、様々な行き違いが生じ、いとも簡単に2人の恋は終わりを告げます。
エレナとはもう会えないかも知れないと悟った時、王女に恋した兵士の話を思い出すトト。
アルフレード…。
あの兵士は怖かったんじゃないかな。
100日間待って、もし王女に裏切られたらもう立ち直れない。
それなら99日目で止めてしまえば、王女は自分を待っていたと信じていられる。
アルフレードはトトに、村を出てローマで暮らすよう進言します。
二度と帰ってくるなと。
手紙もよこすなと。
父と重なる人物からの優しくも厳しい言葉、女の私には理解し難いものがあります。
たまには帰ってきたってええやん?
手紙ぐらい書いたってええやん?
でもアルフレードは許しません。
この村のことは忘れろ、とさえ言います。
ふと思い出すのは子供ばかりの小学校卒業試験会場に恥ずかしそうに入ってきたアルフレードの姿。
肩をすぼめ、誰に責められている訳でもないのにまるで罪人のように周囲の目を恐れて。
アルフレードはこの小さな村で、学もなく、外の世界も知らず、映画だけを観て終える人生を、トトには歩ませたくなかったのでしょう。
あ、えっと、この辺からですね、私の涙が止まらんなるの。
大体がここから最後までずっと泣いてますわ。
地位と名声を手にして故郷へ戻ったトト
それから30年。トトはアルフレードの言いつけ通りただの一度も村に帰ることなく、ローマで大成し有名映画監督となったのです。
そして30年ぶりに帰郷したトトの目的は、アルフレードの葬儀に参列すること。
30年ぶりの故郷には母もいました。妹も家族を持っていて、行方知れずだと思っていたエレナも奇蹟的に見つけました。
でもアルフレードは死んでしまってもういません。
しょーもない感情ですよ?私のしょーもない感情ですけど、寂しくなかったんですかねアルフレードって。トトの母親にしてもそう。
出ていく者はいつだって希望に満ちてる。何もかも新しい世界が待ってる。
たまらなく寂しいのは、いつもと同じ景色から愛しい人だけが消えてしまった日常を生き続けなければならない残された者の方。
仮に自分の子供が大きくなって家を出て行くとしたら、私なら「寂しいから帰ってきてね」ってたぶん、いや絶対言ってしまいます。
ああでも、そんなこと一言でも口に出したら子供の足枷になってしまうの?
彼らの才能を、人生を、母親自らがダメにしてしまうの?
ぐぬぬ…。
二度と帰ってくんなこのアンポンタン!(練習)
アルフレードがトトに残したキスシーンのフィルム
ローマに戻ったトトは、アルフレードの妻からもらった形見のフィルムを再生してみます。
違います。
それは幼い時に映写室に落ちていた「カットされたフィルム」をつなぎ合わせた映像でした。
トトがもらって、アルフレードが預かってくれていた、あのフィルムです。
ハレンチで、情熱的で、懐かしく、胸が燃え上がるような、名画のキスシーンの数々。
恐らくこのフィルムを観る寸前までエレナのことを諦めていなかったトトは、この時何を思い出しどんな思いを巡らせたことでしょう。
30年ぶりに村に戻った時の母の言葉?
「あんたの場所はローマにあるのよ。この村はまぼろし」
出典:【ニュー・シネマ・パラダイス】字幕
再会しふたたびお互いの気持ちを確認し合ったエレナの言葉?
「もう二度と会わない。昨日の夜ほど素敵なフィナーレはないわ」
出典:【ニュー・シネマ・パラダイス】字幕
小さな村でくすぶっていたトトを激励してくれたアルフレードの言葉?
「人生なんて映画のようにはいかない。もっと困難なものだ」
出典:【ニュー・シネマ・パラダイス】字幕
いいえもしかしたら、視力を失ってから開発された「燃えにくいフィルム」に対してアルフレードが皮肉ったこのセリフかも知れない。
「進歩はいつも遅すぎる」
出典:【ニュー・シネマ・パラダイス】字幕
いずれにしてもこの映像を観ることで、あのシチリア島の小さな村での思い出は、今となってはまぼろしで、あの恋は劇的なフィナーレを迎え、映画のような人生は終わっていて、遅いながらも前進しなければならないと、ようやく悟ったトト。
少し自嘲気味にも見えるトトが涙を浮かべていつまでもスクリーンを眺めているラストシーンを観ながら、号泣中の私のまぶたは普段の3倍くらいに膨れ上がって行くのです。
映画【ニュー・シネマ・パラダイス】の感想一言
もともと涙腺がゆるくてちょっと感動しても泣けてくる私ですが、人生でもっとも涙した映画は絶対コレです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。