2014年/アメリカ/監督:ティム・バートン/出演:エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、テレンス・スタンプ、クリステン・リッター、ジェイソン・シュワルツマン
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1994年の映画【エド・ウッド】以来となるティム・バートン監督による伝記映画。
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癖のある役柄に定評のある【イングロリアス・バスターズ】のクリストフ・ヴァルツがまたしてもユニークな人物を好演しています。
2009年/アメリカ/監督:クエンティン・タランティーノ/出演:ブラッド・ピット、イーライ・ロス、ティル・シュヴァイガー、ギデオン・ブルクハルト、B・J・ノヴァク、オマー・ドゥーム/第82回アカデミー助演男優賞受賞注※このサ[…]
今度の役柄は「営業力は半端ないけど虚言癖のある夢破れた男」。
1950年代から1960年代にかけて世界中でブームを巻き起こした「大きな目の子供の絵(ビッグ・アイズ)」を巡る物語、【ビッグ・アイズ】です。
映画【ビッグ・アイズ】のあらすじザックリ
まるでホラーな怖い絵画“ビッグ・アイズ”シリーズ
昔々、やたらとデカい目をした子供の絵ばかり描く画家がいたんだとさ。
その名はパリで一週間絵を描いたことがご自慢の口の達者な芸術家、ウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)。
彼はキャンバスに描かれた絵画を売るのではなく、量産したカードやポスターを薄利超多売でぼろ儲け、いつしか誰もが知る大先生となっていたそうな。
ところがこれらの“ビッグ・アイズ”シリーズは、実は彼の妻マーガレット・キーン(エイミー・アダムス)が描いたもの。

それらを「自分が描いたもの」として大々的に売り出したウォルターと、自分の作品が夫の作品として世に出たことに納得いかないマーガレット。
2人は「“ビッグ・アイズ”シリーズは自分が描いたものだ」としてお互い譲らず、ついには裁判にまでもつれ込んでしまいます。

私はキーンの絵を素晴らしいと思う。
万人に愛されるのは魅力があるからだ。
ーーーーアンディ・ウォーホル
出典:【ビッグ・アイズ】字幕
映画の冒頭にアンディ・ウォーホルのこんな言葉が引用されていたりするんですけど、ええもちろんウォーホルくらいは知っています。まあベタに、これ↓ですよね。
しかし私はこの映画を観るまで“ビッグ・アイズ”シリーズは存じ上げませんでした。
もちろん作者のウォルター・キーンもマーガレット・キーンも知りません。
絵心や芸術作品とは無縁の私が、映画【ビッグ・アイズ】で初めてマーガレット・キーンの「やたらと大きな目の子供」の絵画を見た時の感想はただひとつ。

怖っ。
めちゃくちゃホラーやん。
見てると不安になってくる。
正直申し上げまして私は絶対にこんな絵家に飾りたくない。
ホントに当時こんな絵が流行ったの?
芸術的に素晴らしいんだかどうなんだか分かんないけど、デッサンの狂いまくったこんな顔の配置の人間がもし現実に存在したら、こんなこと↓になるんですよ?

怖いってだから!
ウォルター・キーンがどうしても譲れなかった部分
ところで最初の私の語りとは逆で、映画本編では妻のマーガレットが自分の描いた絵を夫であるウォルターに、まるで「乗っ取られた」かのように描かれます。そして「乗っ取った」ウォルターの方は、虚言癖のある精神異常者のように描かれる。
そうです、【ビッグ・アイズ】はマーガレット目線なんです。
…ええ、主人公マーガレットなんで、当たり前なんですけど、ええ。

でもこの物語がマーガレット目線であるのって、恐らくですけど、監督のティム・バートンも脚本家もスタッフも、製作陣みんなが“ビッグ・アイズ”シリーズのファンだからじゃないの?って思います。
“ビッグ・アイズ”シリーズをただの「気持ち悪い目をした子供の絵」としか捉えられない私からすれば、「この程度の絵」(失礼)を世に売り出したウォルターの手腕の方が稀有 で抜きんでている。マーガレットの「絵の才能」よりもウォルターの「マーケティング能力」の方が高いと思うんですよ。

でもアンディ・ウォーホルだって絶賛したんでしょ?
誰が売り込んでもいずれ認められてたんとちゃうの?
いやいや、上記の引用文をよく読んで考えてみてください。
ウォーホルだって“ビッグ・アイズ”シリーズが「芸術的に」優れているとは言ってないでしょ?
飽くまでも「万人に愛されている」ことが素晴らしいのであって、引用文から作品自体を評価しているニュアンスは感じられません。
営業力と商才を駆使して“ビッグ・アイズ”シリーズに万人に愛される価値を生み出したのは他ならぬウォルターなんですよね。
だから、キーン夫妻は普通に、妻のマーガレットが絵を描いて、夫のウォルターがそれを販売していればよかったんですよ。

でもそれができなかった。
理由のひとつは単純で、1950年代という時代の風潮にあったんでしょう。
女性の社会進出がまだまだ珍しかった当時、女流画家の作品は受け入れられにくかったそうです。だからウォルターが描いたことにしておいた方が売れるんだ…というのがウォルター本人の弁。
これも彼のマーケティング能力のひとつと言えないこともない。
ふたつめの理由は、ウォルターも画家志望だったから。
芸術家を目指した人が一度でも「自分の作品」を認められる快感を味わってしまうと、もう引き返せなくなるのものなのではないでしょうか。
他人の才能を使って自分が認められても意味がないような気もしますけど、そこら辺を割り切れるタイプの人ならこんなにお得なこともないもんね。儲かるし、優越感に浸れるし、才能は枯渇しないし(元々ないから)。
物語の核となる絵画“ビッグ・アイズ”シリーズをただの「気持ち悪い目をした子供の絵」としか捉えられない人は、ウォルター目線で観てみると面白いかも知れません。

これを売り込めるなんて、ウォルターの商才ってすごい…。
改めてウォルターの偉大さが身に染みると思います。
映画【ビッグ・アイズ】の感想一言
その後2000年にウォルター・キーンは死亡。
Wikipediaの彼のページには「アメリカの盗作者」と記載されています。
それ以外の肩書は見当たりません。
なんかもうちょっとつけてあげてもいいような気もするんだけど。
「スーパーバイヤー」とか「究極の営業マン」とか…(語彙無し)。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。