1974年/アメリカ/監督:ロマン・ポランスキー/出演:ジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ、ジョン・ヒューストン、バート・ヤング、ダイアン・ラッド、ペリー・ロペス、ジョン・ヒラーマン、ダレル・ツワーリング、ロマン・ポランスキー/第47回アカデミー脚本賞受賞
注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず好きなこと書いてます!未視聴の方はご注意ください!
この映画で初めて名優ジャック・ニコルソンが「呑まれる」瞬間を観ました。
私は数多いるハリウッドスターの中でもとりわけジャック・ニコルソンに「ファン」の一言で片付けられたくないほどの異常な愛情を抱いておりまして、そんな私のかなり偏った視点で観てもこの映画はフェイ・ダナウェイありきの名作だと思います。
すんごいですよね、一瞬あのジャック・ニコルソンまでも呑んでしまうほどの鬼気迫る演技と 眉毛のアーチ。
この年のアカデミー賞では最優秀作品賞こそ逃したものの、11部門でノミネートされその内アカデミー脚本賞を受賞したフィルム・ノワール、【チャイナタウン】です。
参考 フィルム・ノワール=1940~1950年代末にかけてアメリカで製作された、堕落して歪んだ人物を描いた陰鬱で退廃的な映画群。主に犯罪映画や探偵映画を指す。
1990年/アメリカ/監督:ジャック・ニコルソン/出演:ジャック・ニコルソン、ハーヴェイ・カイテル、メグ・ティリー、マデリーン・ストウ、イーライ・ウォラック、ルーベン・ブラデス、デヴィッド・キース、トム・ウェイツ、リチャード・ファー[…]
結末が衝撃的な映画【チャイナタウン】のあらすじザックリ
1930年頃のロサンゼルスの水事情について
ロサンゼルスって都市は「水」と縁が薄いんですね。もともと砂漠にできた町だもんで雨もあんまり降らないし、水道水も遠く離れたネバダ州から引っ張ってこなきゃならないときてる。整備された現代でもこんな状況なのに、1930年代当時の水の大切さたるや想像もつきません。
だってダムの建設に反対したことで水道電力局施設長のモウレー氏(ダレル・ツワーリング)が殺されるくらいなんですよ?
「水のために人殺し」って…よく考えたらすごい動機。
まあ「水が莫大な金になる」んで、とどのつまりは「金のために人殺し」って訳ですけど。
脚本家ロバート・タウン「ジャックのために脚本書いた」
ジャック・ニコルソン扮する主人公の私立探偵ジェイク・ギテス。
このおっさんがどうも「ジャック・ニコルソン」そのものにしか見えないと思っていたら、ロバート・タウンはジャック・ニコルソンを想定して脚本を書いたそうです。
斜に構えてるけど落ち込んでる人はほっとけなくて、虫の居所が悪い時は周囲に当たり散らし、無能な部下には容赦なくダメ出し、でも頭の回転が速いのでオシャレな会話や下ネタにハマると一人でしゃべり続けてる…こんな性格のジェイクですけど、道理で、ジャックっぽい。
身辺調査の依頼に来た「モウレー夫人」?
夫に女がいるんです。
調べてください。
浮気疑惑がある夫の身辺調査依頼のためジェイクの探偵事務所の門を叩いた「モウレー夫人(ダイアン・ラッド)」。
彼女の予想通り、調査を開始して間もなくジェイクは、一見すると水のことしか頭にない堅物 のモウレー氏が若い女性と密会している現場を押さえます。
ジェイクが撮った証拠写真は小さな町の新聞にデカデカと掲載され、ジェイクは一躍町の有名人に。
俺やない…。
誰や写真を公表したのは…。
……えっ?!
ジェイクの仕業ちゃうの?
後日。
初めましてジェイクさん。
貴方を名誉棄損で訴えます。
……ええっ?!
あんたに頼まれて調べたのに…。
てか「モウレー夫人」て名乗ってるけど あんた誰?!
つまりこの写真を新聞に掲載させたのはジェイクじゃなくて、しかもモウレー氏の身辺調査を依頼してきた「モウレー夫人」は偽物で、本物のイヴリン・モウレー夫人(フェイ・ダナウェイ)は夫の不名誉を公表したジェイクを訴えようとしている?!
どゆこと?!
しょうもない浮気調査なんかでのらりくらりと私立探偵やってたジェイクでしたが事態は急展開。ここからぐぐぐっと物語に惹き込んでいく引力が凄いんです。
舞台は「チャイナタウン」ではない
ところで普通は「チャイナタウンは一体どこで出てくるのかな?」って思いながら観ますよね?なんてったってタイトルが【チャイナタウン】なんですから。
しかし作中で「チャイナタウン」は、一夜を共にしたジェイクとモウレー夫人のピロートークと、ラストの数分にしか出てきません。
未だに私は不思議に思うんですけど、【チャイナタウン】を映画館や動画配信で観た人って、「チャイナタウン」について理解できてるの?
「中華街やろ?横浜とか神戸みたいな」って、そーゆー意味じゃなくてさ。
私は本編だけを観ても全然意味分かりませんでした!
(初めて観た時の私)…で?
結局「チャイナタウン」ってなんやったん?
それがどうやって意味をこじつけることができたかと言うと、DVDの特典映像を見たから。
特典映像によると、アメリカの治外法権にあるチャイナタウンを管轄する刑事は「怠慢でいるのが一番」なんだそうです。熱心に仕事をすると気がつけば逆に犯罪に手を貸していることがあるので、下手に首を突っ込まずに怠けていることが結局防犯につながる、というようなことが収録されているのですが、これを知らずしてどうやって理解すんの?この映画。
これを除けば「チャイナタウン」について語られるのは、例のピロートークでジェイクがちょっと昔話をするだけ。
俺は以前地方検事局の刑事で、チャイナタウンを管轄してたんや。
不運やった。傷つけたくない人を傷つけた。
いやこれだけ聞いてもさっぱり意味が分からへん。
さきほどの特典映像の内容も含めて考えれば要するに、愛してしまったモウレー夫人を助けるつもりが首をつっこみ過ぎてモウレー夫人を死に追いやり、さらにその愛娘を黒幕ノア・クロス(ジョン・ヒューストン)に引き渡す手助けをする結果になってしまったってことなんですね。
教訓は頭に刷り込まれているはずなのに、これで「傷つけたくないのに傷つけた人」が2人になってしまったジェイク。
車の座席から地面すれすれに倒れ込むモウレー夫人を見て「怠け者の町だ」とつぶやく彼は、…性分なんでしょうね、どうしても「怠け者」にはなれないようです。
「私は父と…おわかり?」狂気漂うフェイ・ダナウェイ
冒頭にも書いた通り、【チャイナタウン】は探偵としてのプライドと好奇心、陳腐な少しの正義感と揺れ動く愛情によって無関係のはずの殺人事件の深みにズルズルとはまって行くジャック・ニコルソンと、そのジャック・ニコルソンを食ってしまうほどの迫真の演技を見せるフェイ・ダナウェイの2人の名優によっても不朽の名作となり得ています。
いくら脚本が素晴らしくても、主演がこの2人でなくてはここまで名画と語り継がれることもなかったでしょう。
モウレー氏を殺害した真犯人がモウレー夫人だと勘違いしたジェイクに詰め寄られたモウレー夫人が、何度も頬を打たれた挙句ソファに叩きつけられるエキサイティングな場面はスクリーンの前でも目まいを感じる。
加えてそのあと嗚咽するように吐き出したセリフと表情が素晴らしい。
キャサリンは私の妹で…娘なの。
私は父と…。
おわかり?
ここでパニックになった普通の女性であれば、実の娘である自分に手をかけた父親を口汚くののしりわめき散らすのが関の山。
でもモウレー夫人はそうしません。
口に出すのも汚らわしい自分達親子の罪を、「想像してみなさいよ」と促します。
そして問いかける言葉は「分かってよ」でも「分かるでしょう?」でもなく、ここへきてまでも自尊心の高さが垣間見える高飛車な言い回し「お分かり?」。
この迫力。この説得力。
でもすぐさま少し不安になって「信じられない?」と訊く女性的で妖艶な弱さ。
英語でなんて言ってるのかは分かりませんけど、この字幕充てた人天才。
町の権力者である父親ノア・クロスとズブズブの関係にある警察も、ちょっと首を突っ込んだだけの私立探偵も当てにならない。モウレー夫人はキャサリンを車に乗せてチャイナタウンを飛び出します。
拳銃を乱れ撃つ警察官、猛スピードで走り去るモウレー夫人の車、銃声を聞いて集まってくるチャイナタウンのやじ馬たち。
ほどなくして車は停まり、クラクションに続いてキャサリンの悲鳴が響く。
見えへん!
ちょっとどうなってんの?!カメラ早く!どこ撮ってんのよ!
早く車追って!早く!
すぐに車中の惨状は想像できるけど、ジェイクと私(観客)からは車の様子が一切見えないというもどかしいラストシーン。
敢えて客観的に映し出すことによって、結果的には「悪党に加担してしまった傍観者」でしかなかったジェイクの無力感が倍増されてます。
ジョン・ヒューストンとアンジェリカ・ヒューストン
壮絶な最期を遂げた娘を横目に、泣き叫ぶ娘であり孫(ぐえ~…)のキャサリンを平然と抱きかかえ奪い去っていく半端ない存在感の極悪人ノア・クロス役のジョン・ヒューストン。
彼の娘はジャック・ニコルソンと17年間もパートナー関係にあった羨ましい女優アンジェリカ・ヒューストンです。【アダムス・ファミリー】のモーティシア役が有名ですね、【女と男の名誉】でアカデミー助演女優賞も受賞してます。
1985年/アメリカ/監督:ジョン・ヒューストン/出演:ジャック・ニコルソン、キャスリーン・ターナー、アンジェリカ・ヒューストン、ロバート・ロッジア、ジョン・ランドルフ、ウィリアム・ヒッキー、リー・リチャードソン、ローレンス・ティア[…]
1991年/アメリカ/監督:バリー・ソネンフェルド/出演:ラウル・ジュリア、アンジェリカ・ヒューストン、クリスティーナ・リッチ、ジミー・ワークマン、クリストファー・ロイド注※このサイトは映画のネタバレしようがしまいが気にせず[…]
1993年/アメリカ/監督:バリー・ソネンフェルド/出演:ラウル・ジュリア、アンジェリカ・ヒューストン、クリスティーナ・リッチ、ジミー・ワークマン、クリストファー・ロイド、キャロル・ケイン、ダナ・アイヴィ、カレル・ストルイケン、ジョ[…]
撮影当時ジャック・ニコルソンとアンジェリカ・ヒューストンが付き合ってたことを知っていれば、食事の席でクロス氏がジェイクに「娘と寝たのか?」と訊ねるシーンでなんとなく「うふ…っ」となれるでしょう。
ロマン・ポランスキーのカメオ出演
監督のロマン・ポランスキーは、序盤でジェイクの鼻を切り付けるクロス氏の用心棒のひとりとしてカメオ出演してます。
ロマン・ポランスキーといえば妊娠中の妻シャロン・テートを惨殺された「チャールズ・マンソン事件」の当事者としても有名になってしまいました。
2019年/アメリカ/監督:クエンティン・タランティーノ/出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、オースティン・バトラー、ダコタ・フ[…]
あの事件は本当にゾッとするほど気の毒だったけどそれはそれ。
私としては13歳の少女への性的暴行容疑がかかっているポランスキーと作中で娘に手を出したノア・クロスが重なって気色悪いんですよねえ。
映画【チャイナタウン】の感想一言
最終的にはただ被害者が死に、真相を知る人間が一人増えただけで、諸悪の根源は今までと何ら変わることなく町でのさばり生きていくという現実がもどかしい…。
1990年/アメリカ/監督:ジャック・ニコルソン/出演:ジャック・ニコルソン、ハーヴェイ・カイテル、メグ・ティリー、マデリーン・ストウ、イーライ・ウォラック、ルーベン・ブラデス、デヴィッド・キース、トム・ウェイツ、リチャード・ファー[…]
最後まで読んでいただきありがとうございます。
そんなあなたが大好きです。